第二十羽 重なる予言
From:彗
Sub:ちょ!!
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ちょっとー!さっきのメールは何!?
おかげで翼に捕まって
一時間目、サボっちゃったよ!
で!聞きたいことがあるから
昼休みに屋上庭園に集合ね?
筆記用具を持ってきて!以上!
彗
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「はぁ!?」
ガタン!と勢いよく席を立った俺は、周りを見回してハッとした。休み時間とはいえ、皆の視線がこちらに集中している。
「す、すまん。なんでもないんだ・・・」
バツが悪そうにおずおずと席に座りながら、頭の中ではいろんな思考で一杯だった。
天羽のやつ、一時限目にいないと思ったら彗と一緒にいたのか! ・・・嫁入り前の妹を連れ出すなどなんて不埒な奴だ! 許せん! あとでみっちり尋問してくれる!
背中に烈火の炎を滾らせ後ろを振り向けば、ヘッドホンをして窓の外を見ている天羽が心なしか、嬉しそうな表情をうかべていた。
む! あの表情は・・・・・・! ま、まさかあいつ、彗に何もしていないだろうな?彗のメールからはそんな印象は受けなかったが彗が混乱していることは確かなようだ。
出来れば今すぐに本人達に詰め寄って聞き出したいぐらいだが、休み時間はあと2分だ。時間が無さ過ぎる。
知りたいのに知ることが出来ないというのは、なんともどかしいものだろうか。余計な妄想ばかり浮かび、俺の平常心を乱す。
俺は4時限目が終わるまでイライラして 授業内容が殆ど頭に入らなかった。
昼休み。
パタパタと廊下を走る軽い足音が聞こえる。ガラッとドアが開けられ、「昴!」と息を切らした彗が俺を呼んだ。相当なストレスに晒された俺は早くこの状態から開放されたくて、彗を連れて屋上庭園に向かった。
屋上庭園に着いて開口一番、昴が今までの鬱憤を晴らすかのように彗に詰め寄った。
「どういうことだ! 彗! 天羽と一緒だったって?」
「ちょ、翼を来させたのは昴じゃん! い、今はそれどころじゃないの! 予言がね!」
「は? 予言? つか、お前、なんで天羽を名前呼びなんだよ!?」
「だから、四季先輩が詠んだ予言!」
「っ、あ、ああ。それがどうした?」
「翼も同じような予言を貰ってたの。それも10年前に」
「・・・何だって!?」
屋上庭園に俺の声が響き渡る。あまりに驚いたせいでかなりの大声を張り上げてしまったらしい。数名の生徒がびっくりしてこちらを振り返っている。
俺達はハッと口をつぐんで、コソコソとフェンス越しに向かい合って座った。
俺達の間に神妙な空気が流れる。
「ね、ねぇ。とりあえず、記憶が鮮明なうちに予言を書いてみようよ」
「そ、そうだな」
俺達はそれぞれ聞いてきた予言を紙に記していった。3人分の予言が揃う。俺と彗は改めて、その内容を読んで表情が強張った。
「・・・ねぇ、これって、似てるって言うレベルじゃないよ」
「ああ、彗を中心に内容がリンクしてるな」
「だいたい、同じような予言を貰っている人が同じ場所に集まるなんてありえるの?しかも内容がリンクしてるんだよ?」
「それは俺もわからない。後で星詠み科のやつに聞いて・・・」
「ありえるんじゃない?」
いわばこれは”秘密の対談”だ。第三者に聞かれてはマズイ話、というわけなのだが・・・
聞こえるはずの無い第三者の声にバッと振り向けば、そこには同じクラスの木ノ瀬梓が立っていた。
「木ノ瀬お前・・・今の話・・・いつから居た?」
「成宮たちが予言の話をしだした辺りから」
「・・・・・・・・・!!!」
「あ、木ノ瀬くん!」
「こんにちは、成宮さん」
彼の言葉に引っかかるものを感じた昴は彗の前に立ちはだかって梓を睨みつける。
「・・・何故お前がそのことを知っている」
「僕は翼の従兄弟だよ。翼と一緒におじいさんから予言を聞たことがある」
「! そ、そうだったのか」
「へぇ、そうだったんだ・・・」
彗と昴は、なんだそういうことか、と安心する。だが、梓は不敵に口の端を上げて衝撃の一言を投下した。
「それに、僕も」
「?」
「もらったんだ、予言をさ」
「「!!!」」
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頭がくらくらする。
俺達はものの見事に運命の輪に乗せられてしまっているらしい。ここまで的中してくると、今後の展開が恐ろしく感じる。
そんな俺の気も知らないで木ノ瀬は、淡々と語り始めた。
「・・・実際に予言をもらった者が4人もこの学園にいるんだよね。その事実は認めるとしても。ま、僕としては『運命の輪』なんかに踊らされたくないから
むしろ自分でうちやぶってやるって思ってたんだ。今までは、ね。」
なんという自信だろう。堂々として、迷いが無い。・・・こんな人が同級生だなんて。
梓の放つオーラに驚く彗。そんな彗に視線を移した梓が言葉を続ける。
「でも今は、」
移した視線の標準を彗に合わせる。その視線に気づいた彗はまるで標的にでもなった気がして身を竦めた。
「運命の輪の一翼が成宮さんなら、翻弄されてもいいと思えるよ」
「・・・どういう意味だ、木ノ瀬」
梓の含みを持たせた物言いに、昴が即座に反応する。
「そんな怖い顔しないでよ。成宮はすぐむきになるんだから」
ねぇ、成宮さん? と梓は肩をすくめて困ったような顔をしてみせた。
ま、そういうことだから。これからもよろしく、と 梓は宇宙科の教室に戻っていった。彼が踵を返して数分後、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
残された二人は、ますますわからないことが増え 困惑した表情を崩すことが出来なかった。
「彗・・・お前は教室へ戻れ。放課後、天文科に迎えに行く」
「うん・・・」
彗を教室へ返し、自分も教室に向かう。自身のクラスに予言を持っている者が3人もとは、笑わせてくれる。
(上等だ。俺は予言の通り、彗を守ってみせる)
昴は心の中で決意を新たにつぶやくのだった。
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