第十九羽 蘇る記憶

"宙に瞬く天狼の青き星よ"

私はこの一説が気になって仕方が無かった。


・・・夜空に散らばる無数の宝石たちの中に、一際輝いて見える星がある。おおいぬ座のa星、シリウスだ。日本名では青星、天狼星とも言われる。

この星を見ていると、あの”青い魔法使い”を思い出す。きらきら輝く魔法を使って、私に奇跡を見せてくれた私の初恋の人。

同じ星の名前が、翼を指しているのは偶然なのだろうか? それとも・・・






************

予言の話をしたら、彗が黙り込んでしまった。


・・・あれ? 彗は俺の姫じゃなかったのか? いやいやいや、そんなことはないぞ!


「英空じいちゃんから聞いた”予言”、もう一度噛み砕いてみたら?」という梓の言葉どおり、あれから俺は自分の予言についていっぱい考えたんだ。で、考えた結果、”宙を翔ける星”は流れ星、対象は人間の女の子っていう結論に達したんだぞ!


決め手になったのは、この前生徒会室で思い出した子供の頃の記憶、誰かとの会話。


出会う場所だってあってる、彗は流れ星の名前を持ってる。彗の兄貴だって星の名前だ。
これだけ条件が揃っているんだ、俺の姫は彗しか居ない! うぬ、絶対そうなのだ!


俺は自分の気持ちを仕切りなおして彗を見た。相変わらず彗は難しい顔をして考え込むような仕草でうつむいている。
・・・あ! もしかして、さっき俺が倒しちゃったから どこか打って気分が悪いのかもしれない。

そう思ったら急に心配になって、「彗? どうしたー?」と声を掛けて覗き込んでみた。すると、うわ! と驚いて彗は俺を見た。勢いよく顔を上げた彗の顔は真っ赤だった。



「? 何で顔が赤いんだ? 熱でもあるのか?」

「な、なななな、なんでもない、うん、何でもないの!」



何でもないと言い張る彗。難しい顔をしてみたり、急に驚いてみたり笑ってみたり。忙しくコロコロと表情を変える様が面白くて、俺はただ彗を見ていた。

普段、というか俺はあまり他人に対して興味を持つ方じゃなかったから、そんなふうに思ったのは初めてだけど。


そう思っていたときだった。


一度開いてしまった記憶の扉は、忘れるという封印の鍵が無ければ閉じることが出来ない。翼の脳裏に、再びとある言葉が浮かぶ。



”このくるま、なおしてくれてありがとうっていってるよ! わたしからもありがとう!”



「・・・っ、」



再び蘇った記憶に、俺は無意識に頭を抱えて顔をしかめた。



”おれの・・・まほうがきいたならとてもうれしい”



まただ。この前の、記憶・・・?


・・・子供の俺と話すのは・・・女の子だ。泣いて笑って驚いて。表情の豊かな印象が際立っていた。



”わたしの、なまえは・・・”



君はだれ? もうちょっと良く顔が見えれば・・・



「・・・翼? 翼ってば!」



突然頭を抱えて座り込んだらしい俺を心配そうに覗き込む彗が、俺を呼ぶ。俺は咄嗟に苦し紛れの言い訳をした。



「ぬ、ぬはは。ごめん。ちょっと考え事。俺は大丈夫だぞ?」



無理に笑って誤魔化してみるが、俺を見る彗の表情は冴えなかった。あの日以来、忘れていたらしい記憶が断片的に蘇る。なんだ、これ。どういうことだ?


暫くして鳴った一限目の終わりを告げるチャイムに弾かれ逃げるように、二人はその場から離れ、互いの教室へ戻る。


「ぬぬん! じゃあ俺は帰るな! 俺、時々天文科にも遊びに行くからなー!」

「わ、私も帰る!じゃ、じゃあね、翼。」


お互いの姿が見えなくなるまで互いに歩を進めていると、授業開始前の予鈴が鳴った。



翼は蘇る記憶を

彗は重なる予言を


運命の輪に関わる子供達。その一翼を担う二人。
翼も彗も、簡単には説明が付かない不可思議な現象を未だ受け入れられずに その日は授業に集中できなかった。


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