第十八羽 降って湧いたような展開

「な、成宮!」

息を切らせて、天羽が教室に飛び込んできた。
誰よりも先に登校してきて、常に空ろな目をしている奴が今日は感情をむきだしにして、クラスメイトに話しかけている。
その状況がどんなに異質なものか、ざわめき加減で見て取れた。


「天羽か、どうした」


俺はちら、と目線で天羽を見て、すぐに読んでいた本に視線を戻した。すると、天羽は俺の机に両手をバン!と付いて

「お前、妹いるだろ?」

「いるが、それが何かしたか?」

「名前、何ていうんだ?」

「・・・何だ、それは新手のナンパか何かか?」

「ふざけないで聞け! いいから答えろ」

「・・・成宮彗だが」

「!! 彗ってのは、「彗」という字を書くのか?」

「その通りだ」

「やっぱり! わかったのだ、ありがとな!」


天羽はそれだけ確認すると、教室から急いで出て行ってしまった。・・・あの様子だと、おそらく向かった先は天文科の教室だろう。何も知らない彗が慌てる様が想像できる。
俺は携帯を開けると、彗に一言だけメッセージを送った。



−−−−−

痛い。

痛いんですよ。




視線が!!!


先日の生徒会勧誘事件以来、クラスの男子から、いや、学園中の男子生徒からの視線が痛くてたまりません! 誰か助けて偉い人!!!


「おはよう、成宮さん」


隣の小熊くんが登校してきて私に声をかけてきた。天文科一同の視線がギン!!と小熊くんに集中する。


「ね、ねえ小熊くん? もしかして何かやったの?」

「別に何も? あ、そうだ。この前借りたノート、とてもわかりやすかったよ? ありがとう」


小熊くんは至って平然として針のように刺さる無数の視線を気にするわけでもなく、私にノートを返してきた。お役に立てたのならいいんだけど、・・・クラスみんなの表情が怖い。



「おーい、HR始めるぞー。席に着けー」



始業チャイムと共に教室に入ってきた教師によって、つきささる視線は緩和されたものの、昨日とは違うクラスメイトの雰囲気に今日何回目かのため息をついた。


ブブブ・・・


携帯にメールの着信を知らせる振動が走る。HR中ではあったが、その日は何故か気になってディスプレイを覗き込む。



メールの差出人は昴だった。

(HR中に昴からメール? ・・・何だろう?)

短いその一文を素早く目で追った。



・・・・・・・・・・・・



ガタン!!!



「・・・っ! 成宮さん?」



急に立ち上がった私に隣の小熊くんが驚くのも無理は無い。クラスの視線が再び私に集まる。メールの内容を確認した私は、自分の席から素早く立ち上がる。
一刻も早く身を隠さなければならないと思った。



「成宮ー? どうした?」

「先生、・・・私、頭が痛いので保健室に行ってきます」

「お、おう。一人で大丈夫か?」

「大丈夫です」



心配する教師にそれだけ告げると、私は逃げるように教室を後にした。



昴からのメールの内容はこうだ。



”今、天羽翼がお前のクラスに行った。頑張れ。”



昴!頑張れじゃないしーーー!

何を頑張れというのだっ!大体、天羽くんが私に用事って何!?私は特に用事は無いし、しかも今、HR中とはいえ授業中だよ?

頭の中でぐるぐる駆け回る言葉に翻弄されながら、私は保健室へ足を進めた。が、階段を下りているとき、遠くから声が聞こえてきた。


「成宮彗はっけーん! まつのだーー!!」



ぎゃっ!




あの声はまさしく天羽くんのもの。思わず後ろを振り返ってしまいそうになるが今はそれどころじゃ、ない!!
・・・って、あれ? ちょっと待って?何故私が天羽くんに追いかけられているの!?


追いかけられる理由がわからず、歩みのスピードを緩めた。天羽くんはあっという間に私に追いついた。


「追いついたぞ! 成宮彗、捕獲なのだ!」


ビシッと私を指差して、ぬははーと高笑いする天羽くんにまず驚く。・・・うわ、背高い! それに、いつぞや宇宙科の教室で見た時とは何かキャラ違くない?

とりあえず、廊下では声が響いて目立ちすぎる。今だに目の前で高笑いを続ける彼から視線を逸らして、ダッシュでその場から逃げ出す。


「ぬぬ! 何処に行くのだ? 待て待てーー!!」


うわあああああ、宇宙科の身体能力半端無い! 追いつかれるー!
それでも必死に中庭まで走ってきたところで、肩を捕まれ捕獲された。・・・まぁ、ここまで来れば声が響くことも無いし大丈夫だろう。


宇宙科の男子と鬼ごっこなんて無謀だった。おかげで酸素が足りず、思考回路が働かない。
しばらく膝に両手をついてぜいぜい息を荒げながら、目の前のぬはは笑いの彼を睨みつけ、尋ねた。



「・・・さて。天羽翼君、なんでキミは私を追いかけてるのかな?」



目の前のぬははキャラに言い放つと奴はニカッと笑って、あっけらかんと答えた。


「それは、成宮彗が俺の姫だからだ!」

「・・・・・・は? 姫?」


ねぇ、今『姫』って言わなかった!? つか何で『姫』!?
「うぬ!」と嬉しそうに笑う天羽くんに、回復しつつある私の思考回路が思わずツッコミを入れる。申し訳ないけど、私、姫じゃないし。
怪訝な表情を浮かべる私に構うことなく、天羽くんは話を続けた。


「じいちゃんが教えてくれた予言に、俺がこの学園に来て流れ星に会うってあるんだ。その子はお前の姫だって教えてくれたんだ! だから彗は俺の姫なんだぞ!」

「・・・・・・っ!!」


・・・・・・え? 今”予言”って言わなかった?ちょっとどういうこと?
天羽くんも”予言”を持ってるって事?


”予言”の言葉に思考回路が再びフリーズする。頭の中が真っ白になるってこういうことか。
そんな私を他所に天羽くんの行動は止まらない。



「彗、俺の姫、会いたかったぞ!」


「うわっ!」


いきなり抱きついてきた天羽くんにおどろいて声が上ずる。
高い身長+男子の力で抱きつかれては、私が受け止められるはずが無い。
案の定、そのまま後ろへ倒れてしまった。


「っきゃあ!!」

「ぬわ!」


頭を打つことを覚悟して、痛みが来るのを堪えていると、
思ったほどの痛みがなく、ホッとした。
後頭部を確認すると、植木の葉がクッションになってくれたようだ。



「ぬあ! ごめんちゃい! 大丈夫?」

「だい、じょぶ、くない! ・・・お、重い・・・」


天羽くんに押し倒された形になっている私は、どいてほしくて精一杯答えた。いや、マジで押しつぶされる!


わわ、ごめん! と勢い良く起き上がった天羽くんに起こしてもらった私は、天羽くんと向き合うようにしてその場に座り込んだ。

天羽くんは私を見てはニコニコして、まるで、ぶんぶんと尻尾を振って主人に懐いているような大型犬のように見える。



「ちょ、ちょっと待って! 状況を整理したい!」


目の前で両手をブンブン振りながら、さっきから気になっていることを天羽くんに聞いてみた。



「ぬ?」

「えーと、天羽くんは私のことをなんで名前呼びなの!?」

「それは彗が俺の姫だから」

「え、それだけ?」

「ぬ! 十分な理由だろ?あ、彗も俺のこと”天羽くん”じゃなくて 翼って呼んで!」



なんだか、名前呼びを強要されたがまあいいか。呼びやすいし。



「うー、じゃあ翼? 次の質問」

「ぬぬ、よしこい!」

「ノリがいいなぁ・・・あのさ、「姫」って何?」

「ぬ、それは、」

「?」


翼が一瞬だまりこむ。何か悪いことでも聞いちゃったかな?


「・・・彗、『星詠み』ってわかるか?」

「う、うん。ここの学科にあるやつで、未来を詠むんでしょ?」

「ぬ! そう。俺のじいちゃん、星月学園で宇宙科の教師をしてたんだ」

「へえ、そうだったんだ」

「その時、星詠み科の教え子が、急に俺の星を詠んだって」

「へえ、」

「うーんと、ああ、そうだ。予言!」

「え?」

「俺のは映像じゃなくて言葉が浮かんだから予言なんだ」

「!」


予言、て。


つい最近、自分も所持することとなった「予言」。それを随分前から天羽翼も持っていたなんて。

そもそも予言を渡される人間なんて、そんなに沢山居るんだろうか? 沢山居たとしても、同じ学校の同じ学年に居合わせるなんて、カオス過ぎる。
翼は、えーと何だったかな? と唸ってから、ああ! と思い出したように自らの予言を語りだした。


「ぬはは! 俺の予言は、
『覇王が統べる星の降り注ぐ国で星の子供達が出会い運命の輪は回る。
 宙に瞬く天狼の青き星よ、その地に導かれ宙を翔ける星を探せ。
 其はそなたの一番星。邂逅せし後は未来永劫失うこと無かれ。
 全ては星の導きのままに』なんだって」


「え!!!!!!」


「ぬ? どうした?」


私は言葉が出なかった。 あの日聞いた私たちの予言と、似ている。
しかも翼のおじいさんが数年前に聞いた予言の内容がリンクしている。・・・そんなこと、ありえるの?


私は絶句してしまった。

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