第十三羽 動き出す星たちと留まる天狼

今朝のSHRでオリエンテーションキャンプのグループ分け一覧が配布された。
オリエンテーションキャンプ中は基本、このグループで行動することになるので、皆、プリントに穴が開くほど凝視して面子を確認している。


そんな喧騒の中、梓はオリエンテーションのグループ分け一覧を見ながら頬杖を付く手で緩む口端を押さえていた。


”第12グループ:木ノ瀬梓、天羽翼、成宮彗 ”


翼と同じグループで希望は出したが、奇しくも、他の科である成宮彗が同じグループだ。この展開は面白いけど・・・何故?
翼は相変わらず、自分の席で興味がなさそうな表情をしてプリントを眺めている。


そして僕の疑問の原因が今現在、この教室に来ている。放課後、成宮が妹の彗を宇宙科に連れて来て、何で宇宙科のグループに入っているのか問い詰めているからだ。


「一体どういうことだ?」

「どうもこうもないよ。天文科の先生に頼まれたの。『実はオリエンテーションのグループ分けで、宇宙科の生徒が人数調整できなくて困ってるらしいから、足りないところに入ってくれないか?』って言われたの!」

「頼まれたからって・・・何故断らない?」

「え、だって、ここには昴がいるじゃない。だから『兄がいるんでいいですよ』って言ってOKしたんだけど」



へぇ。そういう理由か、なるほど、教師からの依頼なら断る理由もなかったのかもしれない。ただ、相変わらず危機感が足りない。女子一人だけという状況をまだ飲み込めていないようだ。



そのまま目線を兄の方へ向けると、成宮は妹を見ながら眉間に皺を寄せていた。


「・・・・・・・・・」←複雑

「昴?」

「あ、いや。・・・・・・まぁ、決まってしまったものは仕方が無い」

「わーい! 宇宙科の皆さーん、数日間お世話になりまーす」

「但し!!!」

「へ?」

「彗、お前は俺と同じグループだ。メンバー変更させてもらう」


「「「「「な、なにぃ!!!!」」」」」」←宇宙科一同


「えー? だって、この一覧表で決まっちゃってるじゃん。今更無理だよー」

「いーや、そんなことはない。今から職員室に行って直談判して来る。お前も来い」

「え、ちょ、ちょっと、昴!?」


そういうなり、成宮は席を立ち妹を連れて職員室へ向かった。・・・本当、妹のこととなると周りが見えなくなるんだから。


「へー、成宮って本当に『シスコン』なんだね。噂どおりだ。ね、翼?」

「・・・ぬあ? 何がだ?」

「もしかして聞いてなかった?」

「ぬぬ、音楽聴いてたから」

「ふぅん。・・・その割には、プリントはしっかり見てるんだね」

「ぬぬ・・・梓と同じグループだったのだ。」

「うん、そう。よろしくね、翼?」

「ぬはは、俺こそよろしくなのだ、梓。」


翼はへらっと僕に笑ってみせたけど、すぐにいつもの表情に戻ってプリントに視線を戻した。人付き合いが苦手な翼はクラスでも孤立していて、僕がついていないと本当に一人になってしまう。
僕は従兄弟としても翼の親友としても、翼を一人にはして置けなくて、翼が教室に居る時は常に傍に付き添うようにしている。

・・・正直、僕としては、お役御免になるくらい翼には社交的になって欲しいんだけどね。

僕は翼越しに窓の外に視線を移した。日毎、景色は色鮮やかになっていく。教室に5月の爽やかな風が吹きぬけ、ふわりとカーテンを揺らした。





「失礼します」


昴に連れられるがままに職員室まで来てしまった。昴はまっすぐ担任教師の元へ行き、何やら話をし始めた。
交渉の材料に連れてこられたんだろうけど、ただ連れてこられただけの私は、手持ち無沙汰で職員室の入り口で待たされている。
私は5分も経たないうちに飽きてしまい、あくびを噛み殺していた。


「何だ、入学早々、呼び出しでもくらったか?」


突然背後から声を掛けられ、頭をガシガシ撫でられた。咄嗟に口を手で塞いで振り向くと、青いネクタイ・・・3年生の先輩がニカッと笑って私に問いかけてきた。


「え、あ、あの?」

「お。もしかしてお前が月子の言っていた1年唯一の女子生徒か。えーっと、名前は・・・確か成宮彗だったな」

「! ・・・・・・どうして私の名前を?」

「ははは、俺を誰だと思ってるんだ?なんていったって、俺はここの支配者だからな!」

「支配者・・・・・・・・・あー! 入学式の時の「白いカラス」の生徒会長!」


がくっ


何やら会長がコケた気がするけど・・・すると会長の背後から落ち着いた2年生の先輩が顔を出してきた。


「ほら、会長があんなこと言うからですよ。威厳も何もあったもんじゃないですね」

「それを言うなよ、颯斗・・・」


2年生の先輩にツッコミを入れられ、会長はちょっとバツが悪そうにしていたが、すぐにこちらに向き直ってニヤリと笑みを湛えた。


「成宮彗、気に入ったぞ。覚えておく」

「えーっと、はい?」

「ははは、俺が直々に迎えに行ってやるから楽しみにしておけ! じゃあな。」


そう言って、私の頭にポンと手を置いて会長も職員室へ入っていった。2年生の先輩・・・颯斗、と言ったか。彼は私に軽く会釈をした後、会長の後に続いた。


直々に、って・・・一体何のことだろう?



ぼーっと二人を見送っていると、昴が用を済ませたらしく私の方へ歩み寄ってきた。途中からの顛末を見ていたのか、「おい、生徒会長に何か言われたのか!?」と少々焦り気味で問いかけてきた。


「ううん、特には。ただ、名前は覚えられてたけど」

「そ、そうか。・・・何も無いならいいんだ」

「?」

「それより教室に戻るぞ。メンバーチェンジの許可は取ったから、キャンプ中は木ノ瀬のグループに俺も入る」

「え、本当に許可取って来ちゃったんだ・・・」

「む? 何か不服でもあるのか?」

「・・・イイエ。ありません」


兄の猪突猛進な行動に唖然としながらも、彗は記憶の片隅に残る会長の台詞が気になって仕方が無かった。


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