第六羽 手がかり
キーンコーンカーンコーン
4時限目の授業が終わり、お昼休みの時間がやってきた。今日は月子先輩とお昼を食べる約束をしている。
2年天文科の教室はここのすぐ上の階。下僕の分際でかわいい麗しい女神な先輩をお待たせするわけにはいかない。チャイムが鳴ったと同時に教室を飛び出した私は、階段を上ろうと階段に足をかけた。
その時、上履きに何か触れた感触を覚える。
予期せぬ出来事に あれ、と思い目線を下に向けるとピンク色のくまのぬいぐるみが仰向けになって転がっていた。・・・何コレ凄くかわいい!
彗はくまのぬいぐるみを抱えてその顔をまじまじと見た。ボタンの目が印象的で明らかに持ち主がいるとおもわれる使用感。
”さみしい。一人ぼっちはいやだ”
”おいていかないで”
”だれか、俺の傍にいて”
どこからか聞こえてきた、声。
えっ?
辺りを見回したが、ざわつく廊下に行き交う生徒達。もちろん、私の傍でささやく奴は居なかった。
・・・今の、何?
う〜ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・よくわかんないや!
って! ああ!!女神をお待たせしてしまった! 何たる失態! 急がねば!!!
急いで女神を2年天文科へとお迎えに上がるつもりだったのに、思いの他、時間を使ってしまった。その証拠に、スカートのポケットに入っていた携帯に月子先輩から「先に行ってるね〜」という母性に満ちたメールが着信なさっていた。ああ!なんて優しい先輩なんだ!!
彗が階段で一人百面相をしている横を、男子生徒たちが彗と目を合わせないように通り過ぎていった。はっ!と現実に帰ってきたときに目に入ったのは例のぬいぐるみだった。不思議な声も気になっていたので、そのまま腕に抱えて食堂に連れて行くことにした。
「あ、彗ちゃん、こっちこっちー!」
「月子せんぱーい! こんにちはーー!! 遅れてゴメンなさい!私の女神!!!」
「(何か言ったぞ、あいつ)・・・お、錫也、彗、来たぞ。」
「(ああ、何か言ったな)ああ、それなら良かった。哉太、羊と一緒に食事買って来ていいよ」
「Oui. 哉太、行くよ」
「おー」
女子二名は、わーいと両手をタッチしてがっちり抱擁。再会を喜ぶ。
星月学園で二人だけの女子はただでさえ目立つのに、お昼時の食堂でのその行動は生徒達の視線を集めた。
「マジ、癒されるよなぁ・・・」
「ああ心が満たされていくようだ」
男子生徒の生暖かい目で見守られている最中、抱擁中に違和感を覚えた月子が、彗の持っているぬいぐるみに気づく。
「あれ? 彗ちゃん、そのぬいぐるみどうしたの?」
「あ、はい。ここに来る途中で階段に落ちてたんです。何かかわいそうだったので、連れて来ちゃいました。」
「・・・それ、翼君のだよ?」
「つばさ?」
へー、この子の持ち主、つばさっていうんだ。
・・・そんな軽い考えでいた彗だった。
「この子の持ち主、つばさくんって言うんですか?何処のクラスですか?返してきますよ。」
「あ、うん、宇宙科1年の天羽翼君だよ」
「っ!ええええええええええ!!!天羽翼って、入学式の時、生徒会会長に名指しされてた人ですよね!?」
予想だにしない持ち主の名前に驚いて思わず大きな声で叫んでしまったため、周りの視線が一気に私達に集中する。
しまったと思ったときはもう遅い。周囲にぺこぺこ頭を下げて騒いだことを詫びる。
「・・・ちょ、月子先輩! 天羽翼を知っているんですか!?」
「知ってるも何も・・・翼君は生徒会の会計だし・・・」
「え、なんで生徒会?」
「私も生徒会なの。書記。」
「えええ、そうなんですか!」
うわわ、すっごい偶然!というか、その天羽くんて子、学園のマドンナと知り合いなんて幸せ者!!! そのポジション、私と代わって!
私はくまのぬいぐるみを見ながら、ある提案をしてみた。
「月子先輩、お願いがあります!」
「え、何?」
「この子、その天羽くんに返してもらえませんか? 困ってたらかわいそうだし」
「? 翼君は昴君と同じクラスだよ?」
「!!!うっそ! ・・・知らなかったですorz」
「え、そうなの?」
「はい。兄が『いいか、宇宙科には絶対に来るな!』って言うんですよ?だからまだ行った事が無いんです。兄のクラスなんだから、別に良いじゃないですか、ねぇ?」
口を尖らせてブーブー文句を言った私に、同席していた錫也先輩が笑いながら答えた。
「ああ、それは 昴君が彗ちゃんを心配しているからだろうな。」
「心配? 何をですか?」
「彗ちゃんは1年生で唯一の女の子だろ? 月子みたいに、年中付き添ってくれる奴も居ないから。」
「ええ? ないない! それはないですよー。月子先輩みたいな女神ならともかく、農民風情の私じゃ誰も相手にしませんって!」
「あ、そ、そう(・・・だんだんこの子がわからなくなってきた;)」
「じゃあ、私、放課後に宇宙科行ってきますね!」
月子とお昼を食べれたことと、落し物の持ち主が見つかったことで 彗は満足げな表情で獅子座定食を頬張った。
「あ、彗、そのタコさんウィンナー、僕にちょうだい」
「嫌ですよ。私のですから。羊先輩のお皿にだってあるじゃないですか」
「君の(タコさんウィンナー)が欲しいの」
「・・・羊先輩、誤解を招く言い方やめてください」
「え、僕何か言った?」
「羊・・・」
「羊くん・・・」
「何故さらりと歯が浮く台詞を吐ける? 何、ひつじがハーフだから?」
「ちょっと! 何で皆そんな目で僕を見るの? 意味が分からないよ、特に哉太の発言」
「おい! 何でいつも俺なんだよおおおおお#」
ぎゃいぎゃいと繰り広げられる賑やかな昼食に、彗の膝の上のぬいぐるみがコロンと転がった
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