第五羽 星の海の想い出
宙の無数の星が海に映っている。この様を「星の海」と誰かが呼んだ。
とある夏休みの夜、天羽英空は翼と梓を連れて 星が良く見える海辺の高台に来ていた。
「ほら、翼、梓。きれいだろう?」
「ぬわあああ! すごいのだ! どっちが空か海かわかんないぞ!」
「わかるでしょ、普通。でも本当にきれいだね、英空じいちゃん。」
翼と梓の反応を見て、英空は彼らににっこり微笑んだ。
「今見えている星はな、一番近くても4年半前の瞬きなんじゃよ。たくさんの星達が自分で光をだして、広くて大きな宇宙で『ここにいるぞー』って私達に教えてくれているんじゃな。」
「じいちゃん、今見えている星には行けないのか?」
「何万年もかければ行けないことは無いが、殆どの星が熱くてとても近づけないんじゃよ」
「ぬぬ! そんなに熱いのか?」
「うむ。太陽以上にな」
「ぬああ! それはあっちっちだぞ!溶けちゃうじゃないか!」
「翼、宇宙にはに宇宙船が無いと行けないし、行くには宇宙飛行士にならないといけないんだよ」
「ほほう、梓は物知りじゃな」
「へへ。この前図鑑で見たんだ」
「ぬぬぬ〜、梓ばっかりずるい!じいちゃん、俺も後で調べるぞ!」
「ははは、そうじゃな。調べてみるといい。宇宙は広くて面白いぞ」
「「面白い?」」
「ああ、そうじゃ。分かっていないことが多すぎて、面白いんじゃ。」
英空は、視線を宙へ向けた。
「今見えている光は無数の命の瞬きなんじゃ。私達もそのうち宇宙の瞬きの一つになる」
「・・・そうなのか、じゃあ、俺の父さんと母さんもあそこにいるのか?」
「翼・・・」
「・・・そうじゃな。お前をいつも見ていてくれてるんじゃ」
目に一杯の涙をためて英空を見る翼の頭を優しく撫でながら、英空は「おお、そうじゃ」と思い出したかのように表情を変えた。
「この前、私が勤めている星月学園の生徒に翼について言われたことがあったんじゃ。」
「ぬぬ? 何て?」
「予言・・・いや、翼が大きくなった時の『お話』じゃ」
「それって面白いのか?聞かせて、じいちゃん!」
「英空じいちゃん、僕も聞いてみたいな」
「残念ながら梓のは無いんじゃが・・・それでもいいか?」
「うん」
そうか、と英空は梓に微笑んだあと、一瞬真剣な表情に変わった。翼も梓もその表情を読み取って笑ってはいけないと判断したのか、じっと英空をみつめた。
「『覇王が統べる星の降り注ぐ国で星の子供達が出会い運命の輪は回る。
宙に瞬く天狼の青き星よ、その地に導かれ宙を翔ける星を探せ。
其はそなたの一番星。邂逅せし後は未来永劫失うこと無かれ。
全ては星の導きのままに』」
予言を聞き終わった翼は頭を抱え、梓については考え込むような表情に変わった。
「うぬぬ〜、難しいのだ。よく分からないのだ」
「僕もよく分からなかった」
「ははは、そうだな。今は分からないかもしれないが、大きくなったら分かる時が来るじゃろ。特に、翼、」
「ぬぬ? 何だ、じいちゃん?」
「多分、、、じゃが、お前が大きくなったらいいことがあるらしいぞ?」
「!! ほんとか?どんなどんな??」
「ははは、翼はせっかちじゃな。お前を大切にしてくれるお姫様が現れるってことじゃよ」
「「お姫さまぁ???」」
二人がぽかんとした表情をしたので、英空は思わず噴出してしまった。「お姫様って、王子様に守られてるぞ!」とか「女の子が男の子を守るの?」と口々に話し出す二人。
いつも寂しそうな翼と勝気な梓からは普段見られない表情。子供らしい一面が見られたことでも、今日ここに連れてきた良かったと思った。
「ぬぬ〜ん、お姫様って俺だけか?梓には?」
「そうじゃな、梓にも現れるといいな」
「うん、そうだね」
笑いあいながら皆で三度宙を見たその時、一筋の流れ星が空を翔けぬけた。
「あっ! じいちゃん! 流れ星だ!」
「・・・翼、3回お願い事した?」
「してない! ・・・って、ぬああ! もういないのだー!」
流れ星は長く長く尾を引いて、地平線の彼方へ流れ落ちた。三人はいつまでも宙の瞬きを眺めていた。
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