「結局、受けないのね。折角頑張って勉強していたのに」

「ごめんね、妙ちゃん。フリーターにでもなるよ」

「笑っていうことじゃないアルネ」



入試当日。私は校門前で妙ちゃんと神楽ちゃんを見送りにきていた。2人は進学先が一緒なので担任に報告してから行くそうだ。その担任も本来ならば此処に居るはずなのに、居ない。用は終わったから別に構わないけど。



「じゃあ神楽ちゃん行きましょう。それじゃあね名前」

「うん。気をつけて」

「応援しとくヨロシ」


ばいばいと2人の背が消えるまで見送ったあと、踵を返して学校を見た。……もうすぐ、この学校を卒業する。1年も居なかったけれど先生のお陰で、転校して良かったと今は思える。
先生には弱い部分をたくさん見せてしまって恥ずかしいけど、受け入れてくれた先生はすごく寛大で“良い教師”なんだろう。

ああ、卒業を考えるとすごく名残惜しい。もっと早くにクラスに馴染んでおけばよかった。



「名前!」


校舎から慌てて出てきたのは先生だった。片手に何かを持っているのを見て何かと思ったが、瞬時に理解した。……結果が来たんだ。


「なんだよこれは」


息を切らし膝に手をつけながら、もう片方の手に持つ紙を私に見せた。……合格通知だ。学校に来たということは、今頃は自宅にも届いているはず。


「なにって合格通知?」

「いやいやいや、聞きたいのはいつの間に受験したんだっていうことなんだけど」



流れ星を見るために、屋上で空を眺めたあの日から2ヶ月。寒さは増し、年は明けた。大学進学への道を閉じた私は秘密裏に専門学校への進学を決めた。勿論、全てを内緒にして受けたわけじゃなく進路指導の先生の協力も仰いだ、というわけだ。その結果が今日。


「やりたいことないっつってた割にはちゃっかりだしよ」

「あはは、これでも考えたんだから。先生、私が前の学校で何やってたか知ってる?」

「当たり前だろ。これでも担任だし。……だから美術系の学校か?」


前の高校までは美術部に所属していた私。こっちに来てから絵を描くことはなかったけど、あれから真面目に考えた結果、また絵を勉強してみたいと思った。


「学校行ったって職に就けるかわかんないけど、頑張ってみようかなって思う」


数学や英語の勉強は嫌いだけど、好きなものは苦じゃない。


「……おめでとう」

「先生の肩の荷も降りたでしょ?迷惑かけてごめんね」

「ほんっとに一番疲れる生徒だったよ全く。……でも、お前みたいな生徒に会えて俺も勉強させられた」



頭を撫でられてくすぐったい気持ちになる。風が背中を押すように吹いて、私はそのまま先生に抱きついた。……どうしよ、誰かに見られたら。……まぁいっか。



「名前?、おま……」

「私も先生が居たから頑張れたよ。最初はめんどくさいと思ったけど」

「なんだそりゃ」

「私、先生のこと嫌い。でも好き」


無言になった先生から離れて顔を上げた。至近距離にある先生の顔。とびっきりの笑顔を作って先生に笑う。



「ありがとう」



顔が赤くなるのを感じて私は一目散にその場を走り去った。2ヶ月前、決して恋愛感情はないつもり。……にしておこうと決めたのに。














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