2011 | ナノ





「……言わなきゃわかんねぇだろ」

「……」

「おい、名前」



名前を呼ばれて、びくりと反応した彼女は何も言わずに俺にしがみついていた。








えーと、なんでこうなったんだっけ?

今は真夜中で静かな部屋にチクタクと時計の針が回る。押し入れに近付けば神楽の寝息も聞こえるだろう、だけど此処は玄関で、聞こえるのは秒針の音だけ。

今は真夜中で起こされた俺はちょっと機嫌が悪いわけで、でも突然の訪問者で彼女が俺に抱きついてくるから結局何も言えねぇ。かなりの確信犯だと思う。豊満な胸まで押し付けられれば言葉もなくす。



「名前ちゃーん」

「……」



話しかければ無言で返されどれだけ時間が経ったか、わからない。そろそろ銀さんもキレたいところ。そこで漸く冒頭に戻るわけで、ビクつく名前の肩を両手で持ち、少し引き離した。顔を上げた名前は泣いてはいなかったが、今までに見たことのない消沈した表情だった。



俺は彼女の理解者……のつもり。彼女の態度でただ事じゃねぇってことはわかった。そもそもろくな奴がいねぇ周りの中で際立って名前は常識人で、本来ならどこもかしこも寝静まる夜中に来るわけがなくて、それでもこうやって来るってこたァ、ただならぬ事があったからに決まってる。俺はもう一度だけ彼女の身体を見回した。薄い寝間着に……裸足。見るからに寒そうな姿に身体がぶるりと震えて、名前を抱きしめる。




「誰がお前をそんな顔にさせたんだよ。言ってみ?すぐに銀さんが叩きのめしてやっから」

「……」

「こんな遅くによ、危ねぇだろうが。電話してくれりゃあ俺が行ったのに。それともあれか泥棒でも入ったってか?」

「……違、うの」




お、やっと話す気になったか?体温を分け与えられるくらい更に腕の力を強めると、名前も恐る恐る俺の背に腕を回した。




「あったかい……よ、かった」

「……名前?」

「銀ちゃんが居なくなるような気がして。居ても立ってもいられなくて」




胸の辺りが熱くなった。それは名前の涙が俺のそこを熱くさせた。




「なに言ってんだ。銀さんは此処に居るだろ」

「そう、なんだけど。銀ちゃんはフラッと何処かに消えてしまいそう、って思ったら……うぅっ」



はいはい、軽く聞き流し背中を撫でるように優しく叩いた。しゃくり泣く彼女の涙を止めたら、あったかいホットミルクでも飲んで、抱きしめて寝ようかな、そんなことを思いながら。






どうやら彼女の理解者になるにはまだまだ時間が掛かりそうです。








110202




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