2011 | ナノ





ただの幼なじみで居たかった。いつからだろう、こんな想いを持ちはじめたのは。……彼との関係は幼稚園から続く、所謂幼なじみ。悪くいえば腐れ縁。


『こいつとはまあ、腐れ縁ってやつ?ほんと昔からアホなことしかやってないよなァ』


小学校も中学校も高校も何故かクラスが同じだったりして、ほんとに嫌だと思ったときもあったけど、彼……坂田銀時が居たからこそ学生時代は楽しかった。嫉妬を覚えはじめたのは高1の冬。彼に、彼女が出来た。


『悪ィ、今日から彼女と帰るわ』

『うん、わかった。私は晋助と帰るから』


そう言ってからズキリと痛む身体を見ないふりして、これまた幼稚園から同じの晋助と帰った夕方。あれから銀時は女の子をとっかえひっかえ。銀時はモテやすいことを初めて知った。何故か銀時と急速に距離が離れたりして、少し寂しかったのは内緒だ。……だって私たちは別に付き合っているわけではないからだ。それに私だって色んな友達との付き合いが増え、そんなことを気にしている場合じゃなかった。……ううん、気にしたくはなかった。銀時に対して、好きという気持ちを認めたくなかった。




『俺と付き合えよ』


そう言われたのは高2の夏。相手は晋助だった。銀時同様に彼女をころころと変えた挙句、私に強引な告白をしてくるとは予想も付かなかった。だけど私は断った。


『ごめん、晋助のことは幼なじみとしか見てないや』

『……そんなに銀時がいいのかよ』

『……え?』

『銀時が好きなのかって聞いてんだよ』


銀時に彼女と一緒に帰るから、と言われたあの衝撃以上に身体が痛んだ。痛い、これ以上言わないで。第三者から突き付けられた事実は私に逃げられない現実だった。無意識に育んでいた私の銀時への気持ちは晋助の言葉で思い知らされた。


だけどあっという間に高3になり、受験を控えた私たちは私たちのやるべきことに没頭し、卒業した。さすがに進んだ大学は違っていた。大学に通い始めれば、ライフスタイルが大きく変わり、サークルやバイトで色んな人間関係にも触れられた。初めて彼氏も作った。これで、いい。あれはただの気のせいだったのだ。銀時に彼女が出来た、先に恋人を作った銀時が羨ましかっただけ、それだけ。時間が経てばそんな淡い思い出すら補正される。人間とはこうも都合のよい生き物で助かった。
だけど、悲しいかな。やっぱり全て捨て去ることはできなかった。初めて付き合った彼氏とだらだらと大学卒業まで続いて、卒業後はあっさりと私から振った。どうやら彼は結婚まで考えていたようだけど、そんなもの興味はなかった。これからの新しい環境にわくわくしていたのだ。

















会社の友達に誘われた合コン。少し遅れて居酒屋に入れば、懐かしい声が私を呼んだ。


「名前じゃねェか」

「……銀時?」


その名前を口に出すのも久しぶりだった。変わらない銀髪の天然パーマ。やる気のない目は昔と変わらなかった。私だって高校を卒業してから髪型や化粧で化けているとはいえ、変わったつもりだった。だけどいとも簡単に銀時は私だとわかった。


「ごめん、やっぱり帰るね」


えー、と友達の声。それすら遠く聞こえて、私の胃はキリキリ痛い。捨て去れなかった想いが一気に膨らむ。どうしてこんなところに居るのよ。あんたなんて合コンに参加しなくてもモテるじゃない。あの頃のようにとっかえひっかえしてるんでしょ?だって調子に乗りやすいのよあんたは。







「待てよ」






掴まれた手首を離す気はないようだった。追ってきた銀時は息を切らして、私を見る。動揺して彼を見れない。


「名前」

「なに?」

「もう会えないと思ってた。同窓会とか来ねェし。高杉とまだ付き合ってんのかよ」

「……は?」


まさかの発言に間抜けな声が出て、銀時を見た。至って真剣な目は冗談を言っているようではなかった。


「は?って、高杉と付き合ってたんじゃねェのかよ」

「待って。私は晋助に告白はされたけど、付き合った覚えはないわ」

「いやこっちこそ待てよ、俺は聞いたんだよ、高杉がお前に告白してるとこを。返事は……そりゃ聞いちゃいないが、後で仲良く帰ってたじゃねェか」


そう言われて、私は記憶の箱をひっくり返す。そう、確かに晋助に告白されで私は断った。じゃあその後は?


「……普通に帰ってただけよ。別に気まずくなるような関係でもないし」


どっかの誰かさんとみたいにね、なんて皮肉に思いながら、嘘偽りない言葉を返す。銀時は複雑そうな顔をして、私の手を離した。


「……気が済んだ?」


じゃあ、と言って背を向けて歩き出す。小さく、待てよと聞こえて、つい立ち止まった。


「ずっと言いたかったんだよ。俺ァ。お前はずっと高杉が好きなんだと勘違いしてたみてェだ」

「……晋助は幼なじみとしか見れない……そう、告白されたときに返事をしたわ」


紛れもない真実。もう、いいだろうか。さすがの私もこれから言うであろう言葉の内容が掴めた。今更、嬉しくないのだ。あれから何年経ったと思っているんだ。あの時の淡い思い出は思い出として残しておきたい。そんな女心すらわからないなんて、あんた本当にモテるの?


「だから、お前を忘れようと、色んな女に走って」

「もう、いいから……!」




再び走り出した私を彼は今度は手を掴むのではなく抱きしめた。




「もう、逃がさねェよ」







嘘よ、






(馬鹿じゃないの……)


title/家出さま



110906




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