からんころんと軽快に下駄を鳴らして繰り出すのは夏祭り。かぶき町最大の夏のイベント。どこの夜店も見知った顔が精を出している。 「銀ちゃん、銀ちゃん、綿菓子ばっか食べてないで、次はたこ焼き食べよ!」 袖を引っ張り、たこ焼き屋の屋台を指差す名前は長い髪を上にまとめて、ぽんっと団子状に結われている。もそもそと綿菓子を食べながら名前に連れられて、たこ焼きを買わされた。白地に桔梗が描かれて、立秋も過ぎた8月の終わりに程好く名前の浴衣は映えている。 「ね、」 にこりと笑う名前。揺れる簪に付いた造花は浴衣の柄と同じ桔梗だった。 「……よく簪に合わせてきたよな、浴衣」 パチンコで大勝ちした俺は、たまには名前に何か買ってやろうとよくわからない造花が付いた簪を贈った。そこで漸く俺は花の名前を知ったわけだが。それにしても上手く合わせた装いだと思う。 「だって珍しく銀ちゃんがプレゼントしてくれたんだもん、ちゃんとおめかししないとね」 「……ったく、そんな安物で大喜びされっと、銀さんなんか複雑なんすけど」 「どうして?」 「あー……なんつーかさ、あんまお前に贈ったものって数少ねェし、いつも迷惑かけてっしさ」 「そんなこと言うなら、今後依頼に首突っ込みすぎないで無傷で帰ってきてくれる?」 「いやいやいや別に首突っ込んでねェし、なんつーか」 「うん、無理なのわかってる。でも銀ちゃんが無事でいてくれるなら、それでいいの。簪、ありがとね。大事にするから」 と、ぱくりとたこ焼きを一口で頬張る名前。さっきまでの切なさを帯びた声は一転、次はりんご飴が食べたいとまた屋台へと引きずられてしまった。 ただ黙々とりんご飴を食べる名前に連れられたのは神社の石段。そこに腰掛けながら下の方で賑わう屋台が見えた。ついさっきまでその場所に居たのが遠い昔に思えた。 「もうすぐはじまるね」 からんころん。石段の上で下駄を無意味に鳴らし夜空を見上げる名前の横顔を見る。これから始まる、でけェ花見に期待を寄せて。 綺麗だった。打ち上がる色とりどりの花も、それに照らされる名前も。……ガラにもねェなこりゃ。 「あーいたアル!!銀ちゃん!名前!」 石段を登ってくるラムネを持つ神楽と定春……と更にその後ろで息切れしながら追い付こうともがく新八。 「あーあ、見つかっちゃったね」 せっかく内緒ではぐれたのに、と 小さく耳打ちする名前にしゃーねェなァと頭を掻き名前の手を取り、2人で笑った。 title/隠江さま 110904 |