2011 | ナノ





めんどくさがりな私は出席日数を計算しながら学校に通う。ほんとに面倒なの。成績も出席もギリギリの中、一番真面目に授業を受けている教科がある。担任が担当している国語。それだけは、欠かさず来ている。







(あ、今日はピンクなんだ)






肘をついて、窓の外を眺めるフリをしながら担任……坂田先生を見た。白衣の下にはピンクのシャツ。なにを着ても上手く着こなしている先生を私は好いている。教師としてじゃなく、男として。めちゃくちゃな授業、めちゃくちゃなクラス。それを束ねる先生は顔もカッコいいし言ってることも間違ってない、やるときはやる。教師のくせに銀髪でやる気のない目に私は惹かれた。


だけど私の想いは先生に届くことは一生ない。いや、伝えることがない。教師と生徒とかじゃなく、もっと明快な理由。





「あー、うるせぇぇぇぇぇ!!テスト前なのわかってるだろうがテメェら!」




ダンっと教科書を教卓に叩きつける。いつもなら教科書の向こう側にはジャンプが忍ばせてあるのに今日はなかった。ああ、ほんとに先生はテスト前だからちゃんと授業をしているんだ。そんな意外なところも、素敵に見える。教師なら当たり前なのに。




「んじゃ、苗字、6行目から読め」

「えっ」

「ボーッとすんな。一番やべぇんだからお前が」



すぐに成績のことを指しているのだと気付いて相槌を打った。



「ああ……はい」



当てられると思わなかった私の机の上はペンケースだけ。慌てて教科書を出すと先生はページ数を教えてくれた。6行目……、と。



「今日の銀ちゃんは派手アル。そんなちゃらちゃらした服似合わないネ」

「ああん?」



突然、神楽ちゃんが発した言葉に3Zのメンバーはまた騒ぎ出す。うーん、似合うのに、あのシャツ。



「はいはいはい、静まれよ。大体、これは彼女が買ってくれたんですー!ケチつけないでくださいー!」



心臓がわしづかみにされたように痛くなった。ああ、聴きたくないのに。惚気なんて、聴いたら涙が出てきそう。




そう、私が先生に想いを伝えられないのは先生には大切な人が居るから。もう何年も付き合っている彼女らしくて、たまに先生の口から出てくる彼女は綺麗で気配り上手らしい。料理も出来て、彼女が作ったお弁当も度々持ってきては皆にからかわれてた。

幸せ、なんだろうな。



先生があんなに笑顔になるんだもん。私たちがどう頑張っても先生の笑顔なんて見られないよ。



私の知らない誰かと、先生が一緒になるのはとても辛い。だけど幸せそうな先生を見ると壊したいなんて思うはずなく、片想い真っ最中。それが報われることがないって理解ってても。




「だぁぁぁぁぁ!授業進ませろよ!苗字!」

「っ、あ、はい、8行目でしたよね」

「6行目な。教科書反対だぞお前」

「あ……」




先生が近付いてきて私の教科書を取り上げる。それをひっくり返すとまた私の手の中に戻した。先生の冷たい手が一瞬だけ私のそれとぶつかった。




「いっつも苗字は声ちっせぇからな。静かにしろよー」




生徒として扱われてるのは百も承知。でも不意にこんなことされて、少ししか触れてないのに先生と触れ合った場所が熱い。

辛い、だなんて思わない。それでも大好き。想うだけは、誰だって出来るから。








この距離だけは、保ちたい。










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