「あー……美味いアル」 「おい、あんま食うなよ神楽」 「もー2人静かに食べてってば」 甘いきな粉の味が口の中で広がっていく。甘くて冷たいわらびもち。名前が安いからと買ってきたそれは暑い午後にはピッタリだった。 「……名前は食べないアルか?」 ぐったりとうちわを仰ぎソファを占領する名前は私と銀ちゃんが食べているのを見ているだけだった。 「うん、2つしか買ってないし、好きに食べて。あー暑い……」 クーラー欲しい、と嘆く名前に銀ちゃんは無言で、きな粉の中にわらびもちをころころと転がしていた。 「だァァァァァァ!もうわかりましたって!ほら、うちわ貸せよ!!」 名前の前に、きな粉にまぶされたわらびもちの皿が置かれると同時にうちわを奪う銀ちゃん。これでも食えというようにも見えた。 「銀ちゃんも食べないアルか」 「いーんだよ!こいつは、俺がせっせと皮を剥いて残してぶどうも食う奴なんだよッッ!」 「だって面倒なんだもーん。ほら扇いでくれるんでしょ?」 「それ見たことかァァァァァァ!」 「あー暑い暑い。暑いから叫ばないでくれる?」 そういう名前に弱い銀ちゃんは舌打ちをしながらもうちわを扇ぐ。面白い。なんだかんだで銀ちゃんはいつも名前のために何かをする。ぶどうだって、故意に残してあるのも、わらびもちも名前に食べてもらおうと。 「やれやれネ」 惚れた弱味ってやつだ。 彼女のためなら甘味だって我慢する (おいし) (あァそうかよ) (ありがとね) (別に礼を言われることじゃねェ) title/家出さま 110728 |