施錠されていない扉を罪悪感に駆られながらも開けて住人の名を呼んだ。冷房もなにもない、蒸し暑い部屋。の割に其処は殺風景でベッドとテーブルしか置かれていなかった。せめて今が昼間じゃなくてよかったと思う。真昼の日射しはカーテンもない部屋には辛すぎる。 ベッドの上に居るであろう人物の布団を剥ぎ取ってまた名を呼ぶ。 「おい、返事しろよ」 「……あ、せんせー」 「あ、せんせー、じゃねェよアホ。学校来いっつったろ」 「忘れてた」 「忘れて……って、そろそろそんな言い訳も通用しねェぞ」 「……あれ、じゃあその前は通用してたってワケ?」 渋々、起き上がる女は俺を一瞥して、ゆっくり欠伸をする。タンクトップにハーフパンツという格好に気になりながらも、本題をぶつける。 「……ていうか、煙草持ってないの?」 「未成年の喫煙は法律で禁止されてますー」 テーブルに乱雑に置かれた灰皿や煙草の空き箱、薬のシートを眺めてため息すら飽きた。ベッドに背を預けると後ろから手が伸びてきて、胸ポケットに入れている煙草が取られる。 「せんせー、あたしメンソール派なの。だから煙草変えてよ」 「おまえなぁ」 ライターで火を点ける音、馴染みのある煙の匂い。外からのイルミネーションが無駄に眩しくて、目を閉じた。全く、なんでわざわざ俺は不登校の生徒の家に来なきゃいけねェんだよ。本人の意志だろうが、なんて言えるわけもなく、受け持ちの生徒な訳だし、今日もちゃんと学校に来るように言わなければならない。 「なあ」 「なーに」 「学校来いよ」 「行くよ?」 「いつだよ」 「さぁ?」 「おま……」 ぞくりと悪寒がして一気に振り替えると、少女は明らかに年相応ではない笑顔だった。吸い込まれては、いけないと本能が訴える。 「メンソールに変えるわ」 「うん、なんならあたしと同じのにしなよ」 近付く唇を拒絶することはできなかった。ただ、少女の闇が俺の闇を引き出し取り込まれたかのように、一体になった、そんなような気がして。 「いうなれば好き」 「あ?」 「やっと、こっちを見てくれた」 そう言う少女の唇は妖艶に笑った。 闇が優しく手を引いた (踊らされてたってわけか) title/Aコース様 110624 |