夜遅く帰ってきた銀ちゃんはグデグデで「帰ったぞォォ」なんて呂律の回らない口調で叫ぶ。ああもう、神楽が起きるじゃない。 こんなに酔っ払って帰ってくるのはいつものことらしいんだけど、ここ毎晩飲み歩いているみたいだった。そんな銀ちゃんをなんとかしてほしいと神楽と新八が私に相談してきた。 仕方なく私は万事屋にやってきたわけで、帰ってきたのは日付がとっくに変わっていた。眠いなあ、寝ようかなあ、なんて思ってたら主のお帰りだ。 玄関で倒れ込む音を聞いて、仕方なく玄関に向かえば案の定、お土産が放り出され、寝転がりながらもフラフラと手を振っている。 「もう……」 お登勢さんにも言われちゃったし、そろそろ禁酒させなきゃ、後々怖いことになりそうだ。よし、釘を刺そう。 「ねー銀ちゃん。毎晩飲み歩くのは結構なんだけど、一生天パ直らな、……いかもよ」 ガシッと掴まれた肩は身動きできなくて酒臭い息が鼻を掠めた。臭い。 「なに、おまえ、来てたの」 「久しぶり〜なんて」 さっきまで呂律が回らなかったはずなのに恐ろしく饒舌で私を見る。ほんとに会うのは久しぶりだった。 「なに、なんで居るのォォ?ていうか天パ直らないってどゆことォォォ?!」 「ちょ、煩い、だからねぇ、お酒を飲みすぎちゃうとくせ毛になるらしいよ、だからやばいかもね」 酒を飲もうが飲まなかろうが、銀ちゃんの天パはそんじょそこらで直るもんじゃないのに、さっきまでベロンベロンだった男がそれだけの言葉で血相を変えているのを見ると笑うしかない。 「まじでか」 「まじで。テレビでやってた」 はあああああ、と長いため息をついたあと、顔を両手で伏せて脱力感を滲ませる銀ちゃんに内心ではざまぁみろなんて思いながら彼の単純さに感謝した。 「でもよォ」 「なに?」 「お前ェと会えないのが悪ィんだからな」 「……は?」 「名前と会えないから、飲み歩くんだよコノヤロー」 ―――……一瞬、思考が停止した。私と銀ちゃんは会うのは久々で、その間銀ちゃんは毎晩出歩いていて、飲みまくってフラフラして、それが私と会えないからっていう理由から来るのだとしたら、 「……寂しかったの?」 「銀さんは二度同じこと言いませーん」 きゅっと、私の手を握ったかと思えば反対の手で顎を上げられて、暗いのに、銀ちゃんの視線は私の目に向けられていて、逃げることすら敵わない。 「……寂しかったよ、俺ァ」 「え、今、なんて」 「……二度言わねぇ、つったろォが、寝るか」 手を放して、ゆっくり立ち上がった銀ちゃんは壁を伝いながらもつれる足を上手く動かして寝室に向かった。放心状態のままだったけど「早く来いよ」と言葉が掛けられて一緒に寝るんだ、と理解した。でも、もう暫くは動けそうにない。 ……銀ちゃんの率直な言葉を聞けるなんて思ってなかったんだから。 恋患いが悪化した瞬間 title/hmr様 110529 |