「……帰んの?」 出すもん出して欲求不満も解消し、暫し夢の世界に飛んでいた俺は隣で眠っていたはずのもうひとつの温もりがないことに気付いて目を覚ました。背を向けたままに座っている女の腰に腕を伸ばす。 「うん、親に泊まるって言ってないし」 「あー……。なら送るからゆっくり支度しろよ」 「いいよ、見つかったらやばいし。ね、センセ」 と、振り返った女は丁寧に化粧が施されていた。もう帰るのになんで化粧すんだよ、と問いかければ、すっぴんじゃ外出歩けない、と茶目っ気に笑う。こいつと俺の表の関係は教師と生徒という教育委員会に知れたら教師人生がめちゃくちゃになるってわかっている大変な関係だ。 しかし好きだの愛だのという関係じゃないだけマシか、とポジティブに考えたらズルズルと身体だけの関係が続いている。 「あーじゃあ、タクシーで帰れ。金払うから」 「ほんと?やったね」 「遅くまで付き合わせてしまったしな」 「だね。先生、めっちゃ溜まってたみたいだし」 「あのなあ……。先生は生徒と違って忙しいんだよ。つーか、なに、その格好?エロいんだけどォ」 俺のワイシャツを羽織りその下は下着姿。そもそも男のシャツを着る女ってエロいわ。また欲情しちまう。 「なんか寒かったし、制服は動きにくいし」 「さみぃ、か?ん、」 両手を広げたら、名前は直ぐに俺の腕の中に入ってきて、きつく抱き締めた。 「あったかい」 「おう」 暫く抱き締めて、名前は離れていく。ぼーっと、眺めていたらシャツを俺の頭に被せた。白いシャツがオレンジのライトで染まっていて、ゆっくりそれを取ると、制服姿の名前が俺を見ていた。 「帰る」 「……じゃあ、これ」 テーブルの上にほったらかしていた財布を取り、万札を出して名前に握らせた。少し驚いてそんなにいらないよ、と言うが、釣りはとっとけよと強くいえば渋々、金を胸ポケットに入れる。 「なんか、援交みたい」 「アホか」 ローファーを履く名前の後ろにズボンだけ身に付けた俺は気をつけて、と言うとその日一番の笑顔を見せてバイバイと返した。滅多と見ない彼女の笑顔に驚いて放心しているとガチャリと扉が閉まり、彼女は消えた。 「……なんというか、男心をわかっている奴だよなァ」 ぎゅっと抱いてバイバイ title/夜風にまたがるニルバーナ様 110527 |