2011 | ナノ





あたしに迫る彼。どんどん近付く唇。



嫌いじゃなかった。むしろその逆。



だけど怖くなったの。



きっと、彼のいちばんになることはできない、そう信じていた。








「さか、た……」

「……なに?」




途切れ途切れにあたしは名前を呼んだ。呼ばれた本人は語尾に少し苛立ちを表してながらもセーラー服のスカーフの先を指で揺らしながらあたしを見る。




「あの、さ」

「今更、やめれると思ってんのおまえ」

「や、でも、ね」




少し退いたあたしの肩を掴み、坂田は強引にキスをした。腔内に轟く舌。歯列をなぞり、あたしの舌を絡ませ、奥まで犯す坂田の舌は気持ちいいんだか悪いんだかわからない複雑な気持ちだった。他の女にも同じことをしているのかと思えば尚更だ。




「……ごめん、ほんとに」




しゅるり、とスカーフが解かれて、坂田の腹を力強く押す。ごめん、それはこれから行うセックスはできないと、拒否のつもりだった。




取られたスカーフもお構い無しに、キスの余韻でくらくらする頭を叱咤しながら、部屋から一目散に飛び出した。涙がたくさん出て、制服の袖で拭った。別に恋人ではなかったから追いかけてこないのも別によかった。










それから少し経って、坂田に彼女が出来たことを知った。ああ、やっぱり。あたしは、坂田の一番にはなれない。だけど、あの時のキスは一生忘れられない自信がある。





それでも、もしあの時、あんたに抱かれてたら何かは変わった?

でも、好きだったの。だから怖かった。女の子をとっかえひっかえして遊ぶあんたの餌食になりたくなかった。












―――――





風の噂で、好きだった女が結婚することを聞いた。




嗚呼、若かった、あの頃は。

あの時、俺は名前を抱こうとした。怯えて瞳に涙が溜まった名前に欲情したし、……結局はキス止まりになって逃げられてしまったが。


だけど、卒業して、違う道を進んでいけば、考え方も変わるもんで、俺は名前を抱かず仕舞いでよかったんじゃないかと思う。


あれから他の女を作ったのはいいが、それも長続きしなかった。その前はゆきずりだとか、色々と遊んでいたのは事実。だけど、名前を好きだったのはもっと真実。
あいつに似た女を探すのも楽じゃなかった。本物をこの腕で抱くことはできなかったが、おまえが幸せならそれでいいや。





それでも、もしあの時、おまえを抱いていたなら何かは変わったか?


ほんとに好きだった。キスすらも恥ずかしいくらいに。それが余計に怖かった。






「幸せになれや」






あの時、奪ったままのスカーフを、やっと捨てることができる。











title/Jungle Smile「16歳」



110508




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