2011 | ナノ





休息、なんて久し振りだ。寒さがまだ残る春の水も冷たくて、それでも久しく湯浴みができなかった身体は汗や土埃、汚れに塗れたまま。それは“一応”女として気になって仕方がない。だから近くに川がある拠点に移動してくれたり、休日をくれた小太郎と辰馬には感謝している。




「まだかよー」

「ちょ、覗かないでよ馬鹿天パ」

「覗いてませぇぇん。って天パ馬鹿にすんじゃねェ。いつかぜってー罰当たるかんなつーか与えてやる」

「あーはいはい。くるくる天パの神様だもんね」

「ちょ、てめっ覗くぞごるぁぁぁぁ」

「そんなんしたら即効で叩き斬ってやる」




こえーなおい、と呟く銀時を尻目に、河岸に置いていた手ぬぐいを取り身体の水分を拭き取る。




「ねぇ、血の臭い取れた?」




身体の前だけを隠すように手拭いを貼り付け、木の陰に佇む銀時の後ろに立った。びくりとして銀時は恐る恐る私を見る。途端に顔が林檎のように真っ赤になって私は小さく笑った。





「おま……なんつー格好してんだよ」

「別に私たち、清いお付き合いしてるわけじゃないでしょ?」




恋人だしやることやってるんだから、と付け加えれば拗ねたようにぷいっと顔を背けた彼にまた笑いが込み上げた。




「女がそーいうこと言うもんじゃねェよ」

「銀時も水浴びしようよ?」

「んなもん、俺はお前の護衛だっつーの。入れっかよ。もし天人が来たら……」

「来たら、銀時が守ってくれる」

「俺でも無理なときがあんだよ」

「じゃあ無理なときは私が銀時を守るよ」




ね?とニコッと笑うと、「だから女がそーいうこと言うもんじゃねェ」とさっきと同じ台詞を吐く銀時。そこでようやく私は腰を降ろした。






「早く戦、終わればいいのにね」

「……ああ」

「あ、銀時は戦が終わったらなにがしたい?」

「んー……」

「私は美味しいものいっぱい食べたいな。特に甘いもの!」

「……太んぞ」

「太ったら銀時にダイエットの手伝いしてもらおうかなあ」

「はぁ?!」

「一緒にジョギングとか、甘いもの断ち……とか」

「無理無理。甘いもんはお前の分まで俺が食う」

「えー……」

「なあ、」

「……なに?」





放りだしていた手の上に銀時のそれが重なって、ぎゅっと握り締められた。変に冷たくて、彼のほうを見ると、横顔がやけに真剣だった。





「お前は、いつまで戦うんだよ」

「……え?」

「そろそろ、お前は離脱する時期だ。辰馬が離れようとしているんだからよ、お前も一緒に行けばいい」




がつん、と頭を殴られたような衝撃が身体全体にのし掛かる。銀時は何を、言ってるの?




―――――銀時との距離ができた、そんな気がして握りしめられた側の自分の手を力強く握った。伸びすぎた爪が食い込んで痛い。




これは夢じゃない。大好きだった先生が殺されたのも、天人たちを恨んで剣を取ったのも……銀時と愛し合ったことも夢じゃない。





だけどどうしてかな。夢で合ってほしかった。いや、これを夢にしてほしかった。









「ご、ふっ……」




後ろから刀を刺され、貫通した。膝をつく私の目の前には刀の先があった。ああ、刺されちゃった。ふふっと笑う。

止めを差すかのように、槍が正面から投げられ突き刺さる。痛いなあ、もう。








「は……っ、」






朦朧とする意識、それでもこの気持ちの悪い生物を斬ってしまわないと。あーあ。銀時たちとはぐれたのが運の尽きってわけ?



ね、銀時。それでも此処に、あんたが居なくてよかった。みっともないところ見てほしくないもの。銀時。ねぇ……私、やっぱり、私、






「甘いものたくさん食べたかったなあ」






もう息切れすら出ない。身体に貫通したままの刀を抜き取ることすらできない。









「名前、」

「……幻覚、かな。銀時が居るよ」

「ばか、やろ」

「銀時の言う通り、辰馬と宙に出ればよかったかな。でもね、嫌なの。銀時の傍に居たい。血にまみれても、よかった」

「喋んなよ」

「銀時と愛し合ってさえなければこの世に未練なく死ねたかも、ね。……あ い し、 て る」







次に目を開くときはどんな世界が待っているんだろう。











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