狂気の一歩手前でぐるぐるしていた自分を封じ込め、気が付けば俺は成人していた。あの日、拒絶されてから名前の姿を見ていない。それどころか退学したあいつの噂は学校中で飛び交っていた。やれ妊娠しただの、ヤクザたちと関わっているだの、根も葉も……ないとは言い切れないが前者のほうは嘘であってほしい。 連絡も取れなくなり、高杉もなにも言わねェし、いやいよ俺はあいつを想うことをやめた。辛い気持ちは他の女を抱くことで少しは慰められた。だけどきっと満足感に満たされることは一生ないだろう。あいつが、……いや、もうやめだ。名前の話はもうしねェって決めたのに。 「相変わらず女遊び激しいじゃねェか」 「それをお前が言うんじゃねェよ」 ぷかり、と煙を浮かべ腐れ縁の悪態を吐けば間髪入れずに突っ込んできやがった。乾いた笑いを残し少ししか吸っていない煙草を灰皿に押し付けた。なんだかんだで高杉は俺の誘いに乗ってくる。くだらねェ話や愚痴も、よく話す。親友っつーには鳥肌もんだが悪友と考えればそれは面白ェもんだ。 「そういや、同窓会の葉書来やがったな」 「はっ、まさか行くのか?」 「んなわけあるめェよ。なんなら銀時が行ってこいよ」 「高校時代はあんま思い出したくねェの。そこの男心わかってくれよ」 「未練がましいからモテねェんだよテメェは」 お互いに失笑を漏らし、グラスを傾ける。今日は珍しく飲みすぎたみたいだ。時折、意識が歪む。 「……銀時」 「あァ?」 「……最近ガラにもねェ夢ばっか見て仕方ねェ」 「なんだよ」 「さァな」 「てめェから話振っといてそれはねェだろ」 ふっ、と高杉が小さく笑った。 「大したことねェ、昔の話だ。俺とお前と……アイツと居た若い頃のな」 「……高杉」 「アイツ、今は入院している」 「な、んで知って……」 出来ることならば聴きたくはなかった。居場所を知れば、会いたくなる。 「……いい加減にしろよ、高杉」 「お前がいつまでも引きずっているからだろ」 カウンター台を拳で殴ろうとすれば高杉の言葉で全く動かなくなったそれを代わりに強く握った。 ……悔しいが、高杉の言う通りなのだ。話も、顔も思い出したくないのは、名前のことをいつまでも引き摺っているからだ。俺は未だに逃げ続けているのだ。心の中身を全て捨てても蔓延り続ける名前への想い。 「……まあ、これ以上後悔しねェうちに一度は会っとけよ」 “長くねェ命だしな” ポツリと溢した言葉を聞かなければよかった。こいつは何を言ってやがる。……俺は何をしている。 「……死んだら元も子もねェよ」 「あー……お陰で目が覚めたよ俺ァ」 「いつからてめェのその目は閉じてたんだよ。遅ェ」 そう含み笑いの高杉の声は背中の遥か向こうで聞こえた。バーの外はひんやりとしていた。夏ももう終わるなと考えつつ、なんとなく昔、薄着でやってきた名前を思い浮かばせた。 全て捨てても、 |