名前との出会いは依頼とかそんなんじゃねぇ。街で会った、だけ。深い闇を負った目をしていた。自分は独りなんだと、寂しくて寂しくて仕方がないということをその目には映し出していた。惹かれ合うっつーか、初対面なのに見つめあい続け、俺は彼女を抱きしめてしまった。 “初対面”だ。ただ俺は街を歩き、彼女も街を歩いていて、誰かと目が合ったと思えばそんなことに至ったわけで。 涙を流した名前は両親もいねぇ、江戸から出てきたばかりで住むところもねぇときた。万事屋の仲間に加わったのはすぐの話だ。 それから俺とくっつくのもそう遠くはない話で、好き合っていた。また護りたいもんが増えた。 俺と神楽と暮らすようになってからは笑顔が絶えねぇ奴になって家事は勿論、依頼も手伝ってくれ、極貧状態になればバイトをして家計を助けてくれたりと、色々な面で支えてくれた彼女を、……彼女の闇を無理矢理にでも聞けばよかったのか。 「……銀時が、そうだったんだ」 刃を向けた名前を俺は殺すことが出来なかった。うわぁぁぁと泣き崩れる名前をもう抱きしめることができなかった。万事屋を飛び出した名前に降りかかったのは交通事故、記憶喪失。ドラマのような展開が起こってしまった。 俺を殺そうとした名前が悪いわけじゃねぇ。仕方ないことだとわかっていても、あれは俺の罪だ。 ……正直、記憶を無くしてくれてホッとしている俺が居る。だからこそ思い出してほしくはないが……いや、それは今の名前が決めることか。望むことは叶えてやろうと固く誓ったことを撤回するつもりはない。 名前の屈託のない笑顔が、瞼の裏側で弱々しく笑う顔に上書きされていく。力強く拳を握り膝の上に降ろした。舌打ちだけが響く真夜中の病院。 優しい涙 「銀さん」 「おう、悪いなわざわざ」 「いえ……これ、銀さんに」 昼過ぎに、客人はやってきた。コンビニの袋を持つ新八に、花を下げた神楽。新八はいちご牛乳が入った袋を俺に渡した。新八の気遣いが痛い。神楽が前に進んで名前の傍に立つ。 「名前!」 「……えっと」 「神楽ネ。あの駄眼鏡は新八アル」 「……ごめんなさい」 「謝らなくてヨロシ。また仲良くやるネ」 「……ありがとう」 安堵した笑みを浮かべる名前に俺は神楽に感謝した。安心した顔を見れて俺も安心した。このまま笑ってくれないんじゃねぇかと不安だったから。 「一緒に暮らして、たんですよね?」 「そうネ。でも退院したらまた一緒アル」 「……」 「神楽ァ、300円やっから酢昆布買ってこい」 「え、でも……」 「ほら神楽ちゃん。折角、銀さんがそう言ってるんだから。僕も行くよ」 ポケットの中から出した小銭を新八に預ければ新八は神楽を引き連れて病室を出る。固まった名前の傍に今度は俺が近付いた。 「どうした?」 優しく、そう問いかければおずおずと名前は話す。 「……私、貴方たちと一緒に居ていいんですか?記憶もなくて貴方も神楽ちゃんも忘れているのに、こんなに優しくしてもらったら……」 泣かないように、名前は強く俺を見た。不安な気持ちがひしひしと伝わって「ばーか」と頭を撫でた。 「んなもん、俺達ァ気にしてねぇよ。そんな泣きそうな顔すんな」 「坂田さん」 「それから名前で呼ぶこと」 「……はい」 「ほら、また泣く」 こんな名前が愛しく感じる俺は何処かおかしくなったのだろうか。 101227 |