優しい涙 結局、あたしは銀時を殺すことが出来なかった。当然っていえば当然。真実を知ってしまったから。 『……名前、……逃げ…………白夜叉が、 お前を護ってくれる』 両親はそう言いたかったのだろうか。死人に口なし、になってしまうけどあたしは銀時を信じることに決めた。いや、たぶん最初から気付かぬうちに彼を信頼していたのだと思う。 何より、あの目は嘘を吐いていない。例えあたしの目が狂って、彼が本当に嘘を吐いてたとしても、もう後悔はしないだろう。好きになったもん負けというやつ。 「……名前、起きろ」 「ん……」 ガタゴトと揺れる電車。銀時に肩を叩かれうっすらと瞼を開けば窓の向こうにはのどかな風景が何処までも続いていた。何年振りの帰郷だろう。各地を点々としていたあたしが本来の故郷にようやく足を踏み入れた。 なんにもないと思っていた。過疎化が進んでいるだけだと思っていた。だけどそれは杞憂に終わる。何故ならわたしの故郷は小さくても、ちゃんと生きているから、今も。 「……ゲリラ戦で被害を喰らった村だけどよ、話によれば他の村よりも復興しているらしい」 戦争だったのは何年も前の話だ。それでも戦場になった地域はそのまま消えてなくなったりするパターンが多い。その中であたしが住んでた村は銀時の言う通り、復興していた。都会に比べたらなんにもない。でも思い出だけは確かにあった。 「懐かしい」 「……おう」 忘れていた幼い記憶が昨日のように思い出される。あの丘の向こうで作った秘密基地。川の上から度胸試しと称して男の子たちが飛び込んでいた夏、みんなで手伝った畑。たくさん、思い出してあたしは泣いた。 「名前」 「……ん、連れてきてくれてありがとう」 「……お前の両親にこれから、約束を護るっつー報告したかったからな」 「……ん」 銀時があたしの手を取り歩き出した。朧気な記憶の中、住んでいた家の跡に、2人して泣きながら、お父さんとお母さんに会いに。 もう悲しみの涙は流れない。それは暖かくて優しい――――。 110122 |