「じゃあ、また同伴デートしようか」 「ええ、その時はまた連絡くださいね」 「うん。今夜はアフター行けなくてごめん、またね」 客が背を向けると、私は一転して無表情になり、夜の街に溶け込むその瞬間まで見送った。ああ、もう疲れた。同伴出勤は助かるけど、付きっきりは辛い。日付はもうすぐ変わる。 「眠たい」 欠伸をひとつする。吐く息が白いなぁとぼんやり思いながら遠目で街を眺めれば一瞬で私の顔は青ざめる。睡魔すら吹き飛んだ。 「やば……!」 ヒールをカツカツと鳴らし店に逃げ込む。冷や汗が半端なく私と心までをもじわりと湿らせた。 遠くで見えたのは担任だ。その隣には目立つ白髪。授業中の睡眠妨害をした男。……その2人が店に向かって歩いていた。 坂本先生はバイトをしているのは知っているが、よもや水商売をしているとは思ってないだろう。坂田は坂本先生と仲が良いみたいだし、バイトしていることを知っている……のかもしれないけど、とにかく、隠れなきゃ。 バックルームに駆け込んだ私は壁に背をつけハァハァと肩で呼吸し、なんとか自分を落ち着かせる。 「心臓に悪い…」 今日はもう上がらせてもらおうかな。でも金曜日の今夜は忙しいからどうだろう。足音が響いてびくりと身体が強張る。現れたのは店長だった。 「あ、丁度良かった」 「店長、あの」 私の言葉を聞かず、店長は身振り手振りで話す。 「新規でお客さん2人来たからさ、付いてくれない?」 頭の中で、坂本先生と坂田がよぎる。 「……それって、まさか、白髪の人……なわけがないですよね」 「あれ、なんでわかったの?知り合い?」 店長の言葉で止まった冷や汗がまた噴き出した。 100831 |