ドロップ | ナノ

「おめでとうございます」




ああ、と愕然とした。学校を早退してすぐに向かったのは婦人科。高杉先生の推測通り、私は妊娠していた。




「……」




でも素直に喜べない。先生のことは好きで、嬉しいのに。どうしよう。先生に言うのが怖い。そっとお腹を撫でた。この中に、命がある。大事にしないといけないのに。怖い。




呆然としながら家に帰り、晩御飯の支度に取りかかった。妊娠、ということがわかったから余計なのか吐き気がいつも以上にして何度も吐いた。気分が悪い。目眩がする。水道の蛇口を捻ったまま、私はその場で立ち竦んでいた。

どのくらい経っただろうか。扉の開く音が微かにした。




「ただいま……っておい!」

「おかえり。うっ……」




洗面所で項垂れ吐く私を先生は優しく背を擦ってくれた。なにも聞いてこないことが何よりも救いだった。




「大丈夫か?」

「なんか風邪引いちゃって。あ、病院は行ったから心配しないで」

「ならいいけど、飯作るからもう寝とけ」

「え、でも」

「いいから」

「……ごめん、なさい」




気にすんなとくしゃりと髪を撫でて寝室に誘導してくれる先生に頷いて、もう一度謝ってから寝室に入った。




「……ごめ、んなさ……」




先生に言えない。言ってしまったら関係が壊れてしまいそう。考えすぎかもしれない。喜んでくれるかもしれない。だけど、今の私には早すぎた。お腹の子には何の罪もないのに。なんだか、ダメな気がして。




「……」




ごめんね、先生。それからここに宿る命。私は強いと思ってた。それが今になって崩れ去ってしまうなんて……いや、私は弱かったんだろう。誰かのぬくもりに触れて、露になった自分が一番怖いのかもしれない。








101211

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