真っ白な世界に私は居た。 寒い……。 「……総悟。神楽ちゃん。妙ちゃん。…………銀八」 思い付くまま、名前を呼んで辺りを見回した。誰も居ない。じわりと涙が流れてきてお腹を腕で巻き付けるようにその場にうずくまる。私はこんなに弱かっただろうか。苦しくて苦しくて、息をすることすら辛い。 「銀八……っ、せんせ……!」 助けて。よくわからないけど助けてよ。先生。 「……い、おいっ」 「っ!先、生?」 揺さぶられている身体。はっとして、目を開けたら保健医が其処には居た。ということは此処は保健室で、私は眠っていたことのか。 「高杉先生」 私を覗き込むのは保健医の高杉先生。左目はいつも隠れていて、言動からして危ないので恐れられている先生でもある。 「ったく、魘されやがって。まぁいい、銀八もすぐ来るから待ってろや」 「……あの、私?」 ちっと舌打ちが聞こえた。やっぱり恐い人だ。 「教室でぶっ倒れて、土方が運んできてくれたんだよ。あとで礼言っとけ」 「あ……はい」 倒れた、のか。私らしくない。またとてつもない不安が私を包む。この身体が誰かに支配されているような。 「うっ……」 「おい?」 「気持ち悪……!」 慌ててベッドから降りて、室内に設置されている洗面所で吐いた。吐き気はすぐに収まって、凭れ込む私の背を高杉先生は優しく擦ってくれた。 「大丈夫かよ」 「……は、はい」 「ちょっと待ってろ、水持ってくる。…………ちっ、いちご牛乳なんぞ甘ったるいもの……銀八のやつ私物化しやがって。おい、苗字、水飲め落ち着け」 ペットボトルのキャップが外され、ボトルを手渡された私は水を一口飲んだ。冷たくて、胃酸が逆流した食道がすううっとして、冷静になれた。 「飯食ってんのか」 「あ……はい。最近は食欲あまりなかったですけど」 それどころか気分も優れず、家事をさぼってばかりで先生に悪いと思ってるのは内緒だ。先生も無理すんな、と言ってくれて全てやってくれるから余計に甘えてしまう。 「とにかく寝とけよ。水はやるから」 「あー……はい、ありがとうございます。……坂田先生と仲がいいんですか?」 先程からの疑問が口に出てしまった。高杉先生は「腐れ縁だ」と一言告げて私をベッドに戻す。 「次は魘されんなよ」 「はい」 「それから……病院も行け」 「はい」 「内科じゃねぇぞ」 「はい……え?」 内科じゃなければ何処に行けばいいの?そんな新しい疑問に高杉先生は人差し指を私に向けた。 ……正確に言えば、指は下腹部に向けられていた。 「……!」 「ちっ、気付けよ」 そう言い残して高杉先生はカーテンを閉めて保健室から出ていってしまった。頭の中がぐるぐると混乱する。嘘、まさか? 妊娠、した? 101209 |