ドロップ | ナノ

俺は気が付けば一人だった。いや親は居た。だけど親の顔は覚えていない。毎日虐待されていたことだけは今でも鮮明に蘇ってくる。まだガキの俺はやけに荒んだ生活を送っていた。そんな俺を更生してくれた人が居た。




『こっちに来ませんか?そこはあまりにも寂しいでしょう』




優しかった、暖かかった。その人は何故か俺を引き取り、育ててくれた。何年か経ち、俺はどうして自分を引き取ったのかと聞けばその人は言った。




『寒いところにあなたは居た。私はあなたを暖めようと思っただけですよ』




わけのわからねぇ言葉で返され、その数日後に彼は死んだ。

少しの遺産が残されたことを知り、俺は戸籍上、彼の息子……いつの間にか養子になっていたことをまた知った。
彼は色んなものを教えてくれたり、高校まで行かせてくれたし、父親ってどーいうもんか知らねぇ俺でもこの人は典型的な父親なんだろう、そう感じた。


だから彼の死後、俺は最後まで高校を卒業し、必死こいて大学に進学し教員免許を取った。彼の言う、寒いところに居たからから暖めようと思った。その言葉の真意を知りたくて、教師になった。昔の俺のような人間が居るかもという一抹の希望を託して。

何年か教師をやってとうとう見つけた。……違う、わかったんだ。寒いところに居る人間というものが。







「それが、お前……名前だ。前に興味があると言ったのも、それが目について離れられなかった」




海岸線を望める、石段の上に座る俺は立ち上がったままの名前に昔の話をした。むざむざ話すべきことでもないと思ったが名前と歩んでいこうとするこれからの未来には必要な話なのかもしれねぇなと悟った俺は彼女を連れ出し、話をした。
却ってよかったのかもしれねぇけど。そうじゃなきゃお互いの覚悟なんてわからなかっただろうし。




「……ずっと私を、見てたの?」




その台詞に疑問符は付いていたが、名前の声は確信めいたそれだった。ああ、入学してから、お前のクラスで授業して、すぐにわかった。この子は寂しいんだと。




「本格的に気になりだしたのはキャバクラで働いてんのを知ってからだけどな。お前と関わってから俺とお前に何が足りないのかよくわかったよ」

「……?」

「愛に飢えてんだよ。……あの人は俺に父親としての愛情を俺に注ぎ込むことで俺を暖めようとしてくれてたんだ」

「……だから、先生は私に愛情をくれる、んだ」

「そうかもしんねぇなぁ……」




煙草の煙が涙腺を崩した。……ということにしておいてほしい。後ろから抱きしめてくれる暖かさに今は甘えさせてほしい。




「俺からもお願い。……ずっと隣で居てくれよ」







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