ドロップ | ナノ

「おー、やべ、美味そう。てか出来ない言ってた割にはそんなことないな」

「そうでもない、よ。レシピ見たし、簡単なものだし」




テーブルに並べられた料理を見て先生は感嘆の声をあげる。今日は暑いからできるだけ涼しいものを、とバジルとトマトの冷製パスタにしてみた。トマトが余ったからミネストローネも付けて。それだけで先生はびっくりするから拍子抜けしてしまう。




「いただきまーす。……うめぇし!なにこれ初めて食った!」

「お気に召したようでなによりです、と、あ、先生」

「んー」




パスタを頬張る先生がまるで子どものよう。そして私は母親のような目で先生を見る。




「明日ね、携帯解約してくるから、ちょっと出てくるね」


「……なんで?」




くるくるとフォークを回していた手を止めて、じっと私を見る先生。エプロンのポケットに入れていた携帯を取り出して確認すると不在着信やメールが貯まっていた。ため息を溢して、画面を開いたまま先生に見せた。




「……お客さんから電話とか今も来るしね、なにも言わず辞めちゃったし」

「ああ、そういうことね。そういうことなら付いてってやるよ」

「え、でもさ」

「いいからいいから」




スープに口をつけた先生がそう言いながら、断れる雰囲気でもない。どんどん先生のペースに飲み込まれているなぁ。








101113

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