ドロップ | ナノ

私たちの関係は非常に曖昧だ。それが、むしろ私たちらしい。




「…これから宜しくお願いします」




気がつけば、初夏が過ぎ、夏本番だ。あれから退院した私はキャバクラを辞め、普通のアルバイトに変えた。母親を捕まえ、家を引き払い、借金は殆ど返済できた。




『じゃあね、もう好きに生きなさい』




最後の母親の言葉を脳裏で再生する。言われなくても好きに生きている。まぁ借金絡みで縛られていたことはあったけど、特に苦でもなかった。

先生が私の肩に手を置いて私は我に返る。



「おう、狭いけどな、気にすんなよ。しっかし、荷物すくねぇな」

「殆ど捨ててきたから…」

「……そっか。じゃ、またこれから新しく増やしていこうな」

「……うん」




もう一度言う。私たちは至って曖昧な関係だ。一緒に暮らして、ご飯を食べて、隣同士で眠る。



先生はたくさん、言葉をくれる。好きって。だから私も好きと言う。だって好きだから。




だけど恋人ごっこみたいで、お互いの寂しさを埋める存在だけなんじゃないかと、少し思った。









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