ドロップ | ナノ

お父さんは私の部屋に居た。部屋の物が荒らされ、ひっくり返っていた。




「お父さん…?なにしてるの…」

「おー、名前帰ってきたか。お父さんさ、金なくて困ってんだよ。親を助けてくれるよな?名前はいい子だもんな」

「……お金なんてないよ。全部借金に行ってるんだから」

「この家売ればそこそこに返済できるだろ?」




ぎくりとして、私は父を睨む。それをものともせずに父は近付いて、手を出した。それは金を寄越せの合図だとわかり、私は口をぎゅっと結んだ。




「それに稼いでんだろ、キャバクラでバイトしてるじゃねぇか。なんなら風俗でも行って楽させてくれよ。なぁ」




ぐふっと腹部に激しい痛みを覚えた。それが殴られたということに気付いたのはもう少しあとだった。

痛い、痛い。酒の匂いがして気持ちが悪い。


身体中をこれでもかというくらいに殴られ、私の意識は段々遠退いていく。




何故だろう。不思議と涙は出なかった。
久しぶりに会った父親と感動の再会にもならない、金の無心はされ、挙げ句に殴られる始末。



いったい私はどうしたらいいんだろう。私はいい子になれない。




小さい頃は、お父さんとお母さんが仲良かった。笑ってた。家族3人で笑いあって暮らしたこの家を手放せなかった。また元に戻れるんじゃないかと、過ぎ去った幸せな日々に思い馳せていたから。




散々殴ったから父は落ち着き、私の財布からいくらかお金を抜いて部屋から出ていった。鞄の中身もぶちまけられていて、私は力なく携帯を取る。



誰でもいい、側に居て。






100924

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -