ぬくもりが消える前に | ナノ




懐かしい味


「ありがとうございます」


神楽と新八を見て女は漆黒の髪を揺らして頭を下げる。


「いーってことヨ。でも一人であの道通るのは止めたほうがいいアルネ!」

「この町は質の悪い人たちも大勢居ますからね。無事でよかったです」

「はい、わかりました。あ、お礼と言ってはなんだけど…」


抱えていた風呂敷を開き、女は何かを取り出し、新八は焦る。全くもってお礼を貰うために助けたことではないからだ。


「ほんとアルカ!?」

「ちょ、神楽ちゃん。僕たちそういうつもりじゃないんで…」

「ううん、それでも恩人だもの。これ、食べ物なんだけど」


目を輝かせる神楽に微笑みながら、重箱を取り出して新八に渡す女にいいんですかという視線を向ける。


「いいのよ。お団子は食べられるかしら?」

「任せとけ!」

「ならよかったわ、私ね、今度此処で甘味屋を出すの。もしよければ来てね。ご馳走するから。あっ、住所は…」










「ふーん、お疲れー」


女と別れてから万事屋に戻ると、銀時は先ほどよりは幾分か話を聞いてくれたみたいで新八はホッとする。重箱を机の上に置き事情を話すといつものように軽い労いの言葉を掛けられた。


「銀さんも食べてください。結構、多く入ってるみたいなんで」

「おー。じゃあ、茶ァくれ」


頭をガシガシと掻いて欠伸をひとつすると重箱の蓋を開けて神楽と覗き込む。1段目は三色団子が、2段目にはみたらし団子が綺麗に並べられていた。


「美味しそうアルネ」

「どれ、味はっと」


三色団子の串に手を伸ばして、ぱくりと一口。神楽も続いてみたらし団子に手を伸ばす。

その様子を、やかんに火をかけていた新八は眺めていた。と、同時に銀時が団子を口に含んで微笑んだのを見逃さなかった。




「…!」

「銀さん」



やかんの笛が鳴って、火を止め、急須にお湯を入れてから3人分の湯呑みを持ってきた新八は銀時を呼んだ。


「…あァ?」

「僕、初めて見ました。銀さんが甘いものを食べて笑うところ」

「…何言ってんだお前。俺ァ、甘党で糖尿寸前な奴だぞ?そりゃ好きなもん食ったら笑ァ」

「それは知ってますけど、銀さんって食べた直後、辛そうな顔してるの知ってます?」


「……!」


銀時の死んだ魚のような瞳が大きく開いた。自分でも今まで気がつかなかったことに珍しく動揺を隠せなかった。


「お前、なかなか洞察力あんなァ」


神楽は団子を食べながらテレビを見ることに夢中で聞いていないのを良いことに銀時はポツリと呟いた。


「昔の女が作った団子の味に似てんだ、これ」



一串食べ終えて銀時はまた微笑んだ。今まで見たことのない笑みに新八は驚いたが、もう何も言わずに銀時の机に湯呑みを置いた。





あー、懐かしい味だなァ、オイ。誰だこんな美味ぇの作るたァ。






100804




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