花火 平賀源外のカラクリの修復も終わり、夕方になった。報酬を貰い、祭に行くことになったとき神楽が「名前も祭に誘う」とか言ったから、無言で俺はあいつらと離れた。 神楽と新八が助けた女が実は俺と知り合いとは言っていない。……名前もたぶん何も伝えないだろう。 それに神楽たちと祭にはきっと来ないと思う。だけど念のために俺は別で行動し、花火を見てさっさと帰ろうと考えていた。 もし、高杉と名前が2人で居たとき、俺はその姿を見たくないのが本音だった。 人が一番集まる広場。俺は其処に居た。さっきまで平賀のおっさんと飲んでは居たが、最後の調整だかなんだかで別れた。……もうすぐ花火が上がるだろう。 俺は今か今かと夜空を見上げる。あいつと再会してから、空を見るたび、出会った日のことを思い出す。 あいつは昔となんら変わっちゃいない。黒髪を艶やかに揺らす姿、味の変わらねぇ甘味。……恋人同士だったときと変わらない俺を見る目。 目を閉じて、今のあいつの姿を思い出したら胃が締め付けられた。ああ、やっぱ忘れられねぇ。あの時の俺はおかしかった。だけどそれは言い訳にしか過ぎない。最低なことしといて、勝手に俺は消えて、あいつを傷付けたのに、俺はあいつが、まだ好きだ。 「は…、なに言ってんだ俺」 目を開けて、飛び込んできたのは夜空に大きく咲いた花だった。花火が上がる。消えては昇る花火に俺は釘付けだった。 瞼に焼き付けて、さぁ帰ろうと思った瞬間、ぞくりと背筋が凍った。この感覚は… 「やっぱり祭は派手じゃねぇと面白くねぇな」 「――!」 「よォ、久しぶりだな。ま、この間も見たけどな」 久しぶりに聞く声。木刀に伸ばした手は、後ろに控えた高杉の刀が俺に向けられるほうが早かった。 「クク。白夜叉ともあろう者が後ろをとられるとはなァ。銀時ィ、てめェ弱くなったか」 「…この間?」 手を下ろしてなおも打ち上がる花火を見て俺は問う。高杉は笑って見てたんだろ?と言い放った。 「名前の店の前でよォ」 「…気付いてたのかよ」 「名前は気付いてなかったみたいだがな」 …名前を追いかけたあの日かと俺はすんなり納得した。 「なんで、テメーが此処に居んだよ…」 「いいから黙って見とけよ」 花火がまた上がった。 100823 |