ぬくもりが消える前に | ナノ




矛盾してることはわかってる


「ったく、面倒だなァ」



騒音問題で出向いて見ればカラクリ発明家の平賀というおっさんに掴まり、祭で将軍に披露するということで、ぶっ壊したカラクリを修復するのに手伝わされるとは面倒なことこの上ない。今の俺にはやる気なんてねぇのに。いや元からじゃね?なんて言うのはなしの方向で。


「祭まで3日か」


あいつは来るのか、と考えてしまった。来るとしたら高杉と一緒に?なんだか匂う。高杉のヤローが素直に祭に来るとは思えねぇし。

「銀時」

「!なんだ、ヅラかよ。驚かせんな」

背後の気配に気付けなかったとは、どんだけ名前のことを考えてたんだか。神楽と新八が動いてるのを見ながら、後ろに立つ桂に何か用かと尋ねる。


「高杉が、江戸に居るらしい」

「なんだそのことか…あいつなら昨日見たぞ」

「……名前も居る、のだぞ」

「……それも知ってらァ」


桂の息を飲む音が聞こえて俺はようやく立ち上がった。


「なに?あいつら付き合っちゃってるわけ?ほんと水くせぇよな」

「銀時」

「……ンだよ」

こいつだけは知っていた。いや、きっと高杉も知っていて、知らないのは名前だけだ。俺が、名前を傷付け、捨てた理由を。だから、桂はそんな情けない声で俺を呼ぶんだろう。


「名前は…高杉と京に居た。それを知っていて、お前に黙っていた。戦場に置いていった名前が生きているとはお前は思っていなかったのだろうが」

「俺が勝手に出ていっただけだ。お前や高杉があいつの側に居たんだろ。生きているっていう確信はなかったけどな」

「いいのか、それで」

「だから、良いも悪いも俺が決めてどーすんだ。…悪ィ、仕事戻るわ」



頼むから忘れさせてくれよ。あいつが今、幸せならそれで良いんだよ。あの頃は俺が幸せにするつもりだった。ほんとどっちなんだよ俺は。
俺の傍じゃ幸せになれないからってあいつを見捨てて、今じゃあ、あいつを求めてしまう自分が居る。





それなら生きていることを知らなければまだ楽だったんだよ。








100817




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