苦しい、苦しい 言ったのは私なのに、なんで苦しいんだろう。銀時の今の生活がとても羨ましかった、混ざりたかった、銀時の隣に居たかった。銀時なら受け止めてくれたのに、私は馬鹿だ。ほんと馬鹿だ。 涙を堪えて店まで歩くと、今日の朝に嗅いだのとはまた違う、嗅ぎ慣れた煙の匂いがした。目を凝らしながら店の前に立つ人物を見てみる。 「あ…っ」 「よォ、良い店じゃないかァ?」 「高杉、さん」 派手な着物を身につけて、名前を呼ぶと男は笑って近付いた。つい数日前まで一緒に居たというのに懐かしさが込み上げてきて、嬉しくなった。この人だけは、変わらない、そんな気がして。 ……銀時がふらりと消え、取り残された私は高杉さんと居た。そう、一人で京に居たわけじゃない、私の隣には、ううん、高杉さんは自分の隣に私を居させてくれた。 高杉さんの片目が私の目を意抜くように見る。この人には一生頭が上がらない。私を一緒に連れていってくれて、銀時の居場所も教えてくれて、夢だった甘味屋を立ち上げるために色んな援助をしてくれた。 「目当ての奴には会えたかよ」 「……さっき、会いました」 月日は残酷だ、誰かが言っていたような言葉が頭にリフレインする。今の私にはとても気持ちがわかる。 「おい、名前?」 「…泣かないって決めたのに」 「……泣けよ」 足音がして、至近距離で音は止まる。強く、抱きしめられた。涙が止まらなくなった。子どものように、こんなに泣いたのは、置いていかれた時以来だ。銀時に会えて嬉しくて、意地張って銀時を傷付けて、なにもかも銀時の所為にしたら、苦しくなった。 「ふぇ……」 抱きしめられる力が強くなって、私は高杉さんの肩に腕を回して泣いた。着物を汚してごめんね、そう頭の隅っこで考えながら。 「、んだよ……なんで高杉が居るんだよ……」 我に返った俺は慌てて名前を追いかけた。何処にあいつの店というか家があんのかは前に新八に聞いて、大体は把握していた。かぶき町の端の端。息を切らしながら朧気に名前を発見した。……抱きしめられている、名前を。 抱きしめている本人は暗くてよくわからなかった。…認めたくなかったのかもしれねぇ。左目に包帯を巻いた、以前の仲間を。 「くそっ…」 何も出来ず、俺は立ち去ることしかできなかった。あいつの居場所はあの男の元なんだろうと、そう考えるともうどうでもよくなった。 拒絶をされたのは俺のほうだった。 お前の幸せを考えたつもりだった。戦争とはいえ、人殺しの俺の隣に居ちゃいけないんだと思ったんだ。だけどそれは杞憂だったかもしれない。あの時、お前を連れていけば未来は変わっていたのかな、なんて後の祭りだよな。 100811 |