ヒュース 第三次アイスクリーム戦争




「ハー〇ンダッツ」
「却下」


スマートフォンの通話ボタンを押した途端、聞こえてきた抑揚のない声。私はこれでもかと拒否の気持ちを込め、ぴしゃりと言い捨てた。
ヒュース。妙に舌の肥えた、えらそうで嫌なやつ。初めて会った時に一瞬ときめいてしまった自分を殴り飛ばしたい。忘れたい過去である。


「なぜだ」
「高いから」


いつも通りのやり取りに嫌気がさし、早口になる。左手に持った買い物カゴがみしりと揺れる。通話を終わらせようと耳からスマートフォンを離した時だった。


「待ってください!」


突然飛んできた可愛らしい声に動きが止まる。


「千佳ちゃん!」
「こんにちは」


声の主、千佳ちゃんは数秒沈黙した。何かゴソゴソと声のようなものが聞こえる。わかった、と千佳ちゃんの小さな声。ちょっと待て。あいつの差し金か。


「あの、私と修くん、遊真くんも、アイス食べたいなと思ってて……お願いできませんか?」
「了解。千佳ちゃんは何味がいいかな?王道のバニラ?それとも期間限定?」


口が勝手に動いた。私の意志は千佳ちゃんの可愛らしい声とおねだりに完全に支配されてしまった。ヒュースの腹立つおすまし顔なんてどこかに飛んでいった。


「ストロベリー、ありますか?」
「あるある!あるよ!もうカゴに入れたから安心してね!」


修くん、遊真くん、ついでにヒュースは何でもいいとのことで、冷凍庫の左から順に三個つかみ、カゴに入れた。林道さんのお金だしな、とふと魔が差し、そっともう一個、自分のぶんを手に取った。
電話を切る直前、「よくやった」とあのムカつく声が聞こえたが、千佳ちゃんの可愛さの前では負の感情も霧のように消えてしまうのだった。

帰宅後、おいしそうにアイスを食べる千佳ちゃんをニコニコ眺める私の横で、ヒュースがふ、と息をもらした。


「易いな」
「かわいいは正義なの。あんたも見習いなさい」


何を言っているんだと言いたげな瞳をこちらに向け、ヒュースは期間限定の味をせっせと口に運んでいく。それ、私が食べたかったのに!可愛げのかけらもない彼を睨みながら、私はアイスの蓋を開けた。







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