カラー




「全部緑色じゃねぇか」

テーブル上に並べられたマニキュアを前に、洸太郎はボソッと呟く。そんな彼を後目に、私は真ん中のカーキ色の液体が入った瓶を親指と人差し指でつまみ上げた。

「よく見て。明るさが違うでしょ」
「あー?確かに……?」

洸太郎は全然わかってなさそうな声で、手に取った二個をまじまじ眺めている。こういう微妙な塩梅に無頓着なことはわかりきっているから、いまさらがみがみ言う気はまったくない。むしろかわいいとさえ感じてしまう。いまだにマニキュアを見比べている彼の横で、左足の小指にちょいちょいと色を乗せていく。右足の小指まで塗り終え、カーキ色に染まる爪を見つめた。なんとなく左右に揺らしてみたりした。

「ていうかオメー、『私はこの世で一番緑が似合わない』とか言ってなかったか?」
「なんかね、身につけたくなったの」

洸太郎の隊服と同じ色をまとうと、いつも一緒にいるような気持ちになるから。「推しカラー」というらしい。おサノちゃんに教えてもらった。このカーキ色を勧めてくれたのも彼女だった。
理由を言うのが恥ずかしくて笑ってごまかしながら顔を上げると、いつのまにか洸太郎の顔がすぐ近くにあった。唇を掠めるような、軽いキス。

「ええと、なんでいま?」

洸太郎は「さあな」と小さく言うとソファから立ち上がり、電気ケトルに水を入れはじめた。
バレてる、なんてことは。まさかね。仕上げに塗ろうと思っていた、シャンパンゴールドの細かいラメがたっぷり入ったマニキュアを凝視する。カーキとゴールドの組み合わせ、さすがにこれを見られたらバレるかもしれない。でも、ちょっと見られたい気もする。電気ケトルが沸騰する音を聞きながら、私は瓶に筆を戻す。コーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。







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