雨、帰り道





最寄り駅に到着すると、予報通り雨が降りだしていた。ビニール傘を広げ、雨粒の当たる音を聞きながら帰路をゆく。横断歩道に差し掛かり、赤信号に足止めされている女の少し後ろで俺は止まった。傘、服装、どれも今朝見た気がする。横に並んで盗み見ると、やはり名前だった。


「おい」
「うわっ、洸太郎」
「うわってなんだ、うわって」
「ごめん、まさか帰る時間が一緒になるとは思わなくて、びっくりした」


安心が名前の顔にゆるゆる広がっていく。隙だらけの間抜けなその表情を笑ってやると「笑うな!」と腕を三発殴られた。信号が青に変わり、俺たちは歩きだす。


「そんな態度とっていいのか?名前サンよぉ」
「なによ?」


唇を尖らせたままの名前の目の前に、ファンシーを具現化したみたいなカラフルな紙袋を差し出す。


「待って?これ、あそこのクッキーじゃない?!」
「おう」
「えーっ、えーっ?!よく買えたね?!」


紙袋を覗き込むも、雨よけのビニールが掛けられているせいで中身がまったく見えなかったらしく、名前はもどかしそうに体を揺らした。わかりやすいヤツ。「絶対名前さん喜ぶよ」とおサノになかば無理やり買わされたものだったが、あの長蛇の列に並んだ甲斐があった。
二回目の赤信号に、足を止める。


「ありがとう。洸太郎、好き好きあいしてる!」


名前はさっき叩いた箇所を撫でながら歌うように言った。そしてわざとらしく上目遣いでこちらを見上げる。頭と体に湧き上がっていく熱に舌打ちした。ふざけてやっている、そんなことはわかっているのに、いつまで経ってもこいつの言動に振り回されてばかりいる。


「知ってるわ、バーカ」
「ふふふ」


毎回、できる限り平静を装って返事をする。そしてそんな俺を名前は笑う。柔らかい、包み込むような、幸せそうな調子で。その声を聴くたびお見通しだと言われている気分になるが、悪い気はしない。


「帰ったら紅茶淹れて、一緒に食べよ」
「おー」


信号が青色に光る。俺より先に気づいた名前が歩きだした。くるり、目の前の傘が回る。本当に、わかりやすいヤツだ。









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