こじらせ男女の恋模様






スマホの画面に表示された、豪快な寝相の成人男性たち。日佐人くんが気を遣って出してくれたスナック菓子をつまみながら逆の手で画面を操作していく
と、表では言えないような姿を晒したボーダー隊員たちが次々に現れる。


「風間さん、大惨事ですね」
「おー。今回もなかなか傑作だったぞ」


見たかったなぁ、とそれとなく呟いてみた。隣で本を読んでいた諏訪さんは一瞬視線をこちらに寄越した。


「これを生で見られるなんてずるすぎますよ。私、もうお酒飲める年齢になったんですけど?いつになったら参加させてくれるんですか」
「面白くねぇだろ、男だらけの飲みなんざ」


いつも通りの返答に私は唇をとがらせる。宅飲みも男ばかりの飲み会もダメ、飲むなら女同士で行け。諏訪さんと飲みたいとお願いした時の彼のお決まりの文句である。

別に飲みに行きたいわけじゃないのです。あなたと一緒の時間を過ごしたいだけなのです。直接言えたらどんなにいいか。何度も伝えようとしたのに、どうも恥ずかしさが勝ってしまう。先月のバレンタインデーも散々だった。
決心してバレンタインチョコを買いに行ったまではよかった。会場でたくさんのチョコレートに囲まれて、私は動けなくなってしまった。かわいらしいデザインのチョコレート、華やかなラッピング。それらの上に「本命です」の文字がどうしても浮かんでくる。これを諏訪さんに渡すの?無理では?本命と思われて距離を取られたらどうする?いや本命だし諏訪さんはそんな薄情な人だとは思わないけれど。そうしていろいろ拗らせた私が手に取ったのは、缶ビールの形の容器に入った、義理を形にしたようなチョコだった。「全然もらってないだろうし恵んであげますね」。なんとも可愛くないセリフを吐きながら諏訪さんのみぞおちにチョコを押しつけたあの日、帰ってからちょっとだけ泣いた。

羞恥心なんてもの、なんで人間に搭載されてしまったんだろう。こんなのなければ、ちゃんと伝えられるはずなのに。あんなチョコ、買わなかったのに。そう、こんな感じの、某有名ビールのパッケージをマネした……


「ん?」
「なんだよ」


スワイプし続けていた指が止まる。画面には木崎さんの頭をなでる風間さんと寺島さんが映っている。その後ろの本棚に、私が贈ったあの缶ビールチョコが置かれていた。
諏訪さんは私と画面を交互に見て眉を寄せた。ごまかしがききそうにないので、冗談っぽさを声に乗せながら話題にすることにした。


「これ、まさか私があげたチョコですか?」


諏訪さんはスマホを手に取った。小さく「げっ」と声を漏らし、それっきり何もしゃべらない。


「生ビール飲んでる気分になれますもんね」

無言の時間がなんだか気まずくて口を開いたものの、出てくるのはやっぱり小憎たらしいセリフだった。またやってしまったという後悔と返ってこない反応に、私の心が折れかける。


「……あー、まぁ、なんだ」


諏訪さんはごにょごにょと言葉を濁しながらカバンを漁りはじめた。小さな包みを取り出すと、テーブルの上に置いた。


「おら、ホワイトデーのお返し」
「はい?ホワイトデーは明後日ですよ?」
「好きだ」
「はい?」


この人、まだ昨夜の酔いがさめてないのだろうか。誰かと間違えて好きって言ってる?どうにも会話がかみ合わない。「からかってます?」とおそるおそる尋ねると、かつてないほどの鋭い視線を向けられた。


「気づいてなかったのかよ!」
「だから何が……」
「あの写真見られて完全にバレたと思ったから言ったのによ……」


だから何が、ともう一度言いかけて踏みとどまる。諏訪さんの顔が真っ赤だったから。


「しょうがねーだろ、好きなやつからもらったもんなんだから……」


まっすぐ私の目を見ながら、諏訪さんは普段より小さい声で、しかし力強く言う。好きなやつ……私、で合ってるだろうか?勘違いではなく?


「うそだぁ」
「嘘じゃねぇよ……で、オメーはどうなんだよ」
「私だって……」


私だって好きです、と言いかけてとっさに言葉を切る。なぜ張り合おうとしているんだ。諏訪さんはちゃんと言ってくれたのに、私がこんなのじゃダメだ。顔に集まる熱を払うように首を横に振り、諏訪さんの目を見つめ返す。


「私も好きです」


顔はだんだん熱くなってくるし、服の内側は汗でぐっしょり濡れている。いま私、人生で一番恥ずかしくて、嬉しくて、泣きたくなってる。


「なんつー顔してんだよ」
「す、諏訪さんこそ」
「オメーがおもしれー顔してるからだよ」


そんなことを言いながら、私を見る諏訪さんの目はとても優しい。彼のこんな表情を引き出せるのなら、恥ずかしいっていう気持ちは、この世に存在していてもいいのかもしれない。












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