この景色を額にはめこむ





誕生日とは最高の日である。ほしいものを片っぱしから買ってもらって、前から行きたかったカフェでケーキを堪能して。そして何より、あの忙しい二宮匡貴を独占できる日。
シメのアイスクリームをスプーンですくう。焼肉の後のアイスクリームってなんでこんなにおいしいんだろう。


「なんだ、その顔は」
「ふふふ。今日楽しかったなと思ってただけ」


匡貴は満足そうに頷いた。私も頷く。二口、三口と夢中で食べていると、紙のこすれる音がした。何の気なしに向かいへ視線だけを向けると、匡貴の片手が延びてきた。その手には茶封筒。スプーンを置いて受け取る。A4サイズがぴったり入る、ごく一般的なもの。裏表を確認してみたが、住所などの記載はない。


「なにこれ?」
「お前が欲しがっていたものだ」


ますます意味がわからない。ほしいものはお昼にすべて買ってもらった。首を傾げてみせるも、匡貴は腕を組んだままじぃっとこちらを見ているだけだ。はいはい、開けますよ。がさがさと音を立てながら中のものをつまむ。何かの書類だろうか、緑色で書かれた文字が現れた。ええと、婚姻届……


「こっ?!」
「でかい声を出すな」


書類を封筒から抜き取り、両手で広げる。婚姻届。確かに左上に書かれている。


「匡貴さん。なんですか、これ」
「婚姻届だが」
「いや、そうなんですけど……」
「この前、結婚式に行ったと話していた時に言っていただろう」


一週間前、確かに友人の結婚式に出席したと匡貴に話した。あの時の会話をどう受け止めれば婚姻届に繋がるんだ。そんな大したことは話していなかったはず。「二人とも素敵だった」、「式場がきらきらしていた」、「料理がおいしかった」、あとは「こんな結婚式に憧れる」……。まさか、これなのか。


「ええと、嬉しい、ありがとう。あ、名前ももう書いてくれてるんだね……判子も……わぁ、完璧」


とりあえずお礼を伝えてみたけれど、混乱に混乱が重なり何も言えなくなってしまった。そんな私に匡貴はボールペンを差し出した。トドメを刺さないでほしい。思考停止と流れで受け取りそうになってしまったが、胸の引っかかりがその手を止めた。


「匡貴はいいの?相手が私で」


匡貴はいつも、私の望みに応えようとしてくれる。この婚姻届もそうなのではないか。


「いいからこうやって渡している」


ため息まじりにそう言うと、匡貴はもう一度ボールペンを差し出した。


「結婚してくれ」
「……うん」


両手でボールペンを受け取り、カチリとノックする。書き上げた婚姻届の両端を持ち広げて見せると、匡貴の口角がちょっとだけ上がった。
この世とさよならする時、きっとこの光景が一番に目に浮かぶのだろう。彼のやわらかな表情を見ながら、そう思った。








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