ヒュース 午前零時の月明かり






カーテンを開けると真っ暗な三門市が目の前にあらわれた。街灯と信号機くらいしか明かりのないこの街の夜は、空がうんと広く見える。こんなふうに眠れない日は、その景色をぼうっと眺める。なんだか心がすぅっと澄んでいく気がするのだ。
リビングの時計は午前零時を指していた。ソファに座りマグカップをテーブルに置く。背もたれに全体重をかけ、視線を窓の外から天井へと移す。体が軽くなったみたいな気分……


「あれ」


左頬にソファの布地の感触。寝てしまっていたのか。このままもう一度瞼を閉じてしまいたい気持ちを抑えながら体を起こす。不思議と体が冷えてないなと思ったら、陽太郎くんのお昼寝用ブランケットが掛けられていた。お借りしてたっけ。


「起きたか」


声のしたほうを見ると窓のそばにヒュースくんが立っていた。自分しかいないと思っていたから一瞬息が止まりかけた。青白い月明かりを浴びるヒュースくんは、静かな瞳も相まって荘厳な空気を纏っている。外の世界の人であることを改めて認識してしまう。


「ブランケット、ありがとう」


ヒュースくんは黙ったままつかつかと歩いてくると人ひとりぶんを空けて隣に座った。


「眠れないの?」
「そんなところだ」
「そっか。私もなの。あたたかい飲み物、いれるね」
「いや、いい」
「遠慮しなくていいよ」


ヒュースくんは首を振ったあとなぜかこちらを見つめてきた。なんとなく圧を感じて、浮かしかけた腰をソファに沈めた。少しして、彼は口を開いた。


「誕生日だそうだな」
「え?」
「陽太郎から聞いた」


思わぬ話題に、今度は私がヒュースくんの目を見つめる。続く言葉を待ったが彼が口を開く気配はない。


「おめでとうって言ってくれないの?」
「……誕生日、おめでとう」


ヒュースくんはいつもの真顔で期待した言葉を伝えてくれた。素直に言ってくれるとは思わなかったから若干拍子抜けした。


「ありがとう。一番乗りだよ」
「何がだ」
「お祝いしてくれたの、ヒュースくんが一番乗り」
「そうか」


急に声が柔らいだと思ったら、ヒュースくんは微笑んでいた。いや、世間一般でいう微笑みには程遠いのだけれども、確かに口角が上がっていた。


「ねえ、もう少し話さない?」
「構わない」


即答。ふふ、と、気をよくした私の口から声が漏れる。ヒュースくんとの距離をつめ、ブランケットを私と彼の膝にかけた。彼は驚いた顔をしたがそれも一瞬のことで、なぜかふいっと顔を背けてしまった。あれ?と思いつつ、「明日の朝ごはんはなんだと思う?」と聞いてみた。「卵焼き」と早口で小さな声。その言動と月明かりにほんのり照らされた神秘的な横顔があまりにもミスマッチで、私はもう笑い声を抑えられなかった。















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