フィエスタ・ローズ(診断企画)

木々のざわめきが夜の静寂をかき消して、月明かりがぼんやりと彼の陰を作り出した。
一本の木に体を預け、そっと目を閉じていた彼は、その桃色の髪と黒い洋服の裾を風に遊ばせながら細く小さく呼吸をしていた。
吸う、吐く、吸う、吐く、吸う、そして吐く。
胸の前にあるリボンがそのたびにゆらゆらと揺れる。鮮やかなフィエスタ・ローズ。彼と同じ名前をしたその色は、影で灰を上書きされようと目に鮮やかに届く。ゆらり、とまた一回リボンが揺れた。ぱちりと彼の目が開き、背が木のざらざらとした皮から浮く。
時刻はそろそろ一時と言ったところだろうか、夜更かししていようが皆が眠りについて、建物の明かりが全て落ちる時間。それは目の前の建物であろうが同じであった。貴族の邸宅、汚い金で作り上げた虚構の城、ただこれから壊されるだけの張りぼてにも近しいもの。
その建物の外観を見納めとばかりにじっと見てから、フィエスタはその薄い唇を開いた。同時に手を二回ほど叩くと、彼の周囲に木々のものではないざわめきが生まれる。幼子に示すように唇に指を当てると、そのざわめきは一斉に静寂を取り戻す。それを確認してから、彼は小さく声を出した。

「翼は北へ、鍵の役」

高い高いところから、高い高い鳴き声が響く。

「牙は南へ、錠の役」

足元から熱い息遣い、呼応するように体温がジワリと上がる。

「爪は東西、槌の役」

月明かりをきらりと反射する刃、それはまるで装飾品のようにきれいだ。

「行っておいで、ディアーズ。狩りの時間だ」

最後に一回、柏手を打つ。周りから消え失せた気配に一度頷き、フィエスタは木の根に腰を下ろした。胡坐をかいて足の間に隙間を作ると、そこにもそりと入ってくる何かがいる。

「やぁ、マム。迷子かと思ったよ」
月明かりに顔を見せたのは小さな犬だった、ふわふわの毛並みを持ったポメラニアン。胸元で揺れるリボンと戯れながら、大きな丸い目でフィエスタをじっと見つめる。
『ただの散歩だ、無駄に心配なんてするもんじゃあない。兄弟たちは行ったかね』
「ああ、行ったよ。しばらくしたら狼煙か何かが上がるだろうね」
『おまえはいかんのか』
横になりかけたような体をのぼり、肉球が頬をぺたぺたと叩く。柔らかなその感触には笑みがこぼれ、くふくふとつい声が出てしまう。
「行ってほしいのか、こうして戯れる相手はいらない?」
『子の成長を見たいのが母というもの』
そういわれたら行かないわけにはいかないだろう。ゆっくりと背を起こし足から熱を降ろすと、ゴキゴキと肩やら首やらを鳴らしていく。
「イエス、マム。期待にはこたえるよ、あなたのものならば」
『そのやる気を他でも見せよ』
「嫌だ、俺には家族さえいたらいい」
行ってくる。
笑顔で手を振りながら、フィエスタはすっかり赤くなった建物へと足を進めていった。伸ばしてあった片腕の袖をまくりあげ、その下にある傷だらけになった腕を露わにする。

「しあわせになろうね」

そうして彼は行く、焼ける木と鉄と肉の臭いの満ちる場所へ。家族さえいればいい、なんて控えめな言葉を紡ぎながら、自分たち以外の家族の居場所を容赦なく奪いに行く。自分さえよければいいのだ、それを地で行く傲慢さ。それが彼をキングと称号がつけられるまでに押し上げたのだろう。




ツイッターにて診断企画「ギフテッド」に参加させていただいているキャラクターです。
専用ページを作るか否かがまだ不明なのでとりあえず今は短編にあげさせていただきます。以下キャラクター紹介です。


名前:フィエスタ・ローズ
獣のギフテット:近隣にいる動物の使役、意思疎通を行える
物心ついたときからスラム街で生活をしており、ギフトを得てからは能力を使って日々の糧を得ていた。獣たちがいれば寂しくないし周りがどうなろうがどうでもいいと思っている。年齢は31。人があまり好きじゃないけど、押せ押せされて仲良くなった人とか気になった人は懐に入れて猫かわいがりする。小さかったり外見もふもふだったりする人は注意。ハルノートという組織に所属している。一応エグゼクティブでキングの称号をもらっているが本人に自覚はあんまりない。とにかくフリーダム。

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