気ままに呟くよー | ナノ
365...?

「ふわあぁぁ…」

アリスが大きなあくびをしてベッドに潜り込んだのは、ちょうど10時と55分を迎えた時だった。
横を向いた時に顔にかかって邪魔な髪を手でどけた時にはもう夢の世界に足を一歩踏み入れたところだった。

眠りについたアリスは深く深く、落ちていく。
夢の世界へ、そしてアリスのための世界に行くために。


アリスが眠りについたのと同時刻。
もう一人のアリスも眠りにつき、深い穴を落ちていっていた。


二人のアリスがそれぞれの不思議の国に行くために、鏡の間へたどり着いたのは同時だった。


 * * *


くらり。
いつものように鏡の間に到着したと思ったら急に鏡の間が歪みだした。
こんな事は経験した事が無く、初めての事なのでアリスは焦った。
このままでは不思議の国に行けなくなるのではないかと思って、アリスは早く不思議の国に行かなくてはと一歩二歩と足を進めたところで歪みが収まった。

何があったのだろう。
もう大丈夫なのか。
そう思い鏡の間を右左上下と見て特にどこも変わっていない事を確認してから最後に後ろを振り向いた。

そして、誰かと目があった。


 * * *


「うわあっ!?」
「きゃあっ!?」

二人は同時に驚き声を上げ、そして同時に尻もちをついた。
驚くのは当たり前だ、この鏡の間で誰か別の人間と出会うはずが無いのだから。

勿論、鏡の間なのだから自分が鏡に映るならわかる。
けれど目の前にいるのは自分とは全然違う人間だった。
声も、姿も、服も、違う。
近いところを上げるなら服装といったところか。


「えっと…え、ここは鏡の間じゃないの…?……なんで…貴方は誰?」

少しの間冷たい床の上に座ったままのお互いを見て無言が続いた後、戸惑いながらも先に言葉を発したのは灰色髪の少女だった。
状況が理解できない状態ではあったが、灰色髪の少女はどうにかこの状況を理解しようと頭を必死に動かしていた。

「え、あ…わ、私はアリス、アリス・サーバニア……えっと、え?」
それに対しもう一人の少女、金髪の少女は状況の理解をしようとすればするほど頭が空回りをしているらしく、名前を名乗りはしたものの考える事が沢山で頭の中がいっぱいいっぱいで爆発寸前でギリギリな状態だった。

「へえ、一緒の名前なんだね。私もアリス。アリス・ウィレンス。ここは……ねえ大丈夫?」
「え、あ、うん、宜しくねっ!」
「あの、落ち着いて。大丈夫だから。私もわからないから…」

爆発寸前でいっぱいいっぱいな金髪の少女アリスに、灰色髪の少女アリスは落ち着いて声をかけた。
灰色髪のアリスは落ち着いてきたらしくようやく冷たい床から腰を上げ、身にまとう空色のエプロンドレスの乱れを直してから金髪アリスの方へ近づき、大丈夫?と手を差し出した。

「……あ、ごめん。…有難う」
差し出された手を取り立ち上がり、灰色髪アリスより少し明るい空色のエプロンドレスの乱れを直す。
金髪アリスも落ち着きを取り戻してきたらしく、深呼吸をして気持ちを落ち着けていた。


「ここは、鏡の間…だよね?」
「うん、鏡の間…だけど、でもなんでアリスと会えたんだろうね」
「うーん。鏡だからかな…?私達、同じ名前だし服装も似てるし…何かあるのかな?」

夢の世界に行くために、誰もが鏡の間を通らなければならない。
鏡の間では誰とも会わない。

それらは誰が言ったわけでも教えられたわけでもない。
でも不思議な事に、それらは当たり前のように頭の中に刻まれている。
それはきっと、鏡の間を通る誰もが無意識のうちに頭の中に刻みこまれている事。
だからこそ、二人のアリスは鏡の間の事について疑問に思わないのだ。


「まさか私たちの夢が同じ夢なわけないしねー…。っていうか私アリスに会ったの初めてだし、それに不思議の国で別のアリスがいるなんて聞いたことないしなぁ」
「え、不思議の国…?」
金髪アリスが考えながら、思い出しながら、独り言を呟くように言った。
そしてその言葉に灰色髪アリスが驚いたように反応した。
その反応を金髪アリスは、変な風に思われた、もしかしたら痛い子だと思われたかも、と思い慌ててどう言えば伝わるのか考えた。

「あ、えと、不思議の国っていうのは私の夢の世界なんだけど、別に変な世界じゃなくて、でも…うーん、どう説明すればいいのか…」
「時計を持ったウサギとか、可笑しなしゃべる猫とかいるの?」
「え」

そうして慌てた結果、上手く説明できないどころか逆に慌てすぎて怪しい人になりかけている金髪アリスを見て、灰色髪アリスは笑って質問をした。
そしてその質問に、今度は金髪アリスが驚いた。



「……共通点、まだあったね。私も夢の世界は不思議の国なの」


金髪アリスの反応に笑いながら、灰色髪アリスが言った。
そしてその言葉の意味を金髪アリスの頭が理解した瞬間、鏡の間に金髪アリスの驚きの声が響き渡った。

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