二人の遊園地
2,3日近く俺はずっとそわそわしていた。だって今日は、いわゆる俺らの初デートだ。
しえみにとってはデートだなんて考えて無いのかも知れないけど。
待ち合わせしていた午前10時は15分ほど過ぎている。漫画か何かで女の子は準備が大変って聞いてたけど、それでもやっぱり不安だ。しえみって、わざとすっぽかすことは絶対ないだろうけどさ、なんか素で忘れてそうじゃん?
そんな失礼なことを考えていたら、ようやくしえみがやって来た。
「ごめんなさい燐!遅くなっちゃった…」
「ん、別に気にしてねーよ。それより早く行こうぜ!」
しえみは、ふわふわの裾の長い桜色の上着に白い帽子短パンをはいてて、びっくりした。それに普段と何かが違って見える。なんでだろ?
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予定より15分も遅刻してしまったのに、燐は優しいから笑って許してくれる。
「服、似合う?」
そう聞けば燐は似合ってるって言ってくれるとは思う。けれど怖くて聞けなかった。朴さんと神木さんに手伝ってもらった化粧も、燐はきっと気付いてない。
だけどせっかくの初遊園地を楽しみたいから、私はすぐに気持ちを切り替えて笑う。楽しまなくちゃ損だもん!
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「遊園地、すっごく楽しみにしてたの。昨日はドキドキし過ぎてあんまり寝れなかったんだー。」
えへへ、と照れ笑いするしえみはいつも以上に可愛く見える。でもさ。
なぁ、しえみ。そのドキドキの中に、俺とデートだからって理由、少しは入ってるって期待してもいーか?
…なぁんて口に出来る訳もなく。
「やっぱり人多いね…休日だからかな?」
そわそわと周りを眺めるしえみの手をぶっきらぼうに取った。…これくらい、へーきだよな?
「は、はぐれねーようにな!」
こっそりと様子をうかがっていたら、しえみは頬を真っ赤に染めてふにゃりと笑ってる。しえみは赤面症なだけなのに、かなり期待してる俺を殴ってやりたい。少し手のひらに汗をかいているし、心臓がばくばくうるさくて。なんだか手のひらから心音が伝わってしまい気がした。
「しえみは何乗りてぇんだ?」
「行けるところ全部回りたい!あれと、それと…」
「はは、一個ずつな!じゃあまずはコーヒーカップいこーぜ!ぐっるんぐっるんに回してやんぜ!」
「えぇ!?て、手加減してね?」
空いてたコーヒーカップは3分程で順番が回ってきた。
ハンドルの操作の仕方を説明してやると、エメラルド色の大きな目をきらきらさせて俺を見る。
「ね、燐!私回してみたい!!」
すぐにハマったらしいしえみは、俺に回しすぎるなとか言ってたくせに、自分で最高速で回してて。
「おっまえなぁ、足ふらふらしてるじゃねーか」
結果がこれだ。
「だ、だいじょーぶ、らもん!ちょっとふわふわしてるけど…へーきだ、っきゃ!」
「うがっ!へ!?」
胸に抱きついてきたしえみに、慌てて飛び出してきた尻尾をしまう。
「お、おい…本当しえみ大丈夫か?」
だれかこのぎくしゃくした空気をはやくなんとかしてほしいと思う。
「り、りん!あのね、その次はあれ乗りたい!」
沸騰してんじゃねーかと思う位俺以上に真っ赤になって混乱してるしえみの指先を辿ると、ちっちゃなレール上に走る機関車が。
「しえみさんしえみさん、あれ園児向けだぞ…」
「え、そうなの?燐詳しいね」
…いやいやいや!これは普通だって。
「燐って遊園地、来たことあるの?」
「他の遊園地なら親父(ジジイ)と雪男と来たことがあるけど、ここは初めてだ。コーヒーカップとか俺と親父でどっちが耐えられるかって勝負して、回しすぎて一緒に乗ってた雪男が体調崩しちゃってさー。あれは悪いことしたな、そういえば。」
「へえ、そうなんだ!雪ちゃん昔は体が弱かったって言ってたもんね。小さい雪ちゃん、可愛かったんだろうなぁ。」
俺から話題振ったけど、なんかまた雪男に取られた気がしてちょっとむっとした。せっかく今は俺と二人っきりなのに。
やっぱりしえみはコレ、デートとは思ってねーのかなぁ。
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