翌日、学園で移動教室だったのか、教科書を両手で抱えている出雲ちゃんを見つけた。こちらと目が合うと、くるりときびすを返した彼女の手を、つかむ。
「待てや!!」
ぐっと力を入れると、彼女は俯いた。強がりな彼女の目からは、今にも涙が溢れそうだ。
「俺んこと嫌いなん?なったん?やから避けとるんか?」
ゆっくりとふるふる首を振った出雲ちゃんは、蚊の鳴くような声で呟いて。
「ごめ…んなさい、ごめんなさ…」
「謝らんでええ、元から好かれとるなんて、…思うてへんかったから」
「違うの!」
ぎょっとした表情で見上げた出雲ちゃんが叫んだ。
「違うの…私、あんたのこと、…きだよ悪い!?」
「え、出雲ちゃん?」
「ッ好きだって言ってるのよ!!すきだから、どうすればいいか…分かんないし」
あ、とうとう涙がこぼれだしてしまった。それを見て、気が付くと俺はそのまま出雲ちゃんを強く抱き締めていた。ウソ、ちょっとだけ拒否られないかびくびくしてたけど。
「なんや、単なるすれ違いやん…焦ったわぁ嫌われたかと思うた…」
「ごめんなさい…」
「まったくや、せめてメール位して欲しいわぁ。俺こう見えて寂しがり屋なんよ」
いつもは凛とした子だけど、出雲ちゃんってこんな小さかったっけ。すっぽりと収まってしまった彼女の肩に顎を乗せた。
軽く言うと、出雲ちゃんはクスクス笑ったのか体が揺れている。
「ふふ、さみしがりやって…」
「ほんまやで?それで、メールの返事は…?」
「メール…デートの日程?今週の、週末なら…空いてるけど」
腕の中で、抱きつかれて行き場を失った手が、小さく身動ぎした。友達とも抱き合う行為をしないだろう彼女の手が、俺の背中に回るのはいつになることやら。そんな初々しさもかいらしいんやから、つくづく俺は重症である。
「そか、約束やで!?」
「ッ…」
顔をあげて俺に出来る満面の笑みで、こくりと頷いた彼女の瞳を眺めた。今これ、ええ雰囲気なんとちゃう?
「なぁ出雲ちゃん、キス。してもええ?」
頷く代わりに小さく服を引っ張った彼女の唇に、バードキスを1つ。
リップ音をたてて唇を離すと、見たこと無いくらい頬を真っ赤に染めて、涙が止まったはずの瞳がゆらゆら揺れていて、俺の頬も熱を持つのを感じた。
もう一度、今度は長めに唇を押し当てる。
痛そうな位ぎゅっと瞑った目を、薄く開いたのと同時に、出雲ちゃんの唇が薄く開いて、俺は思わず。
ドンッと、大きく突き飛ばされた。
「っしんじらんないっ!?」
真っ赤な顏、真っ赤な目でそう叫ぶと彼女は驚く程速く、走り去ってしまった。
そして残された残念な少年が1人。
「あかん…あかんわ、はやまってもうた…」
初カノだし、大好きな女の子だし。がっついてまうのは…仕方ないやん。
情けないぼやきはすぐに空中に広がり、消えていった。
「ぐすん、出雲ちゃん…」
「それでまた避けられる、と。ぷくく、ざまぁ…」
「志摩さん、神木さんは奥手な方なんやから…そんなに押したら引かれて当然ですえ」
「…、これでデートの約束消えるとかありませんよね?」
「謝るしかないと思います(満面の笑顔)」
朴は、すごい表情で親友の出雲が走り寄ってくるのを見た。
「い、出雲ちゃん?」
「っぱく、アイツ…しんじらんない…!」
非常に動転しているようで、出雲が自分の肩にもたれ掛かってくる。
「どうしたの?話、聞くから落ち着いて…?ね、」
とりあえず背中をさすってあげるけど、まだまだ落ち着かないようだ。
「ふ、普通ファーストキスで…舌入れる!?…ありえないッ」
「えぇ…?」
うーん、出雲ちゃんだけじゃなくて、志摩くんにもアドバイスした方がいいのかなぁ?
朴は愚痴をうわごとのように繰り返す親友の横顔を見ながら、苦笑いした。
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(つまりは二人の恋愛模様)
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