sugar is mine

※R18


「オーエン」

鼓膜に吹き込むように名を囁けば、もぞもぞと動いたオーエンが顔を上げる。互い違いの双眸がゆっくりと瞬いて、どこか恥ずかしそうに見上げてきた。少し前から感じるようになっていた胸の疼きの正体を理解してからは、尚更オーエンが可愛らしく見えてしまう。

「なに?」
「身体はまだ辛いですか」
「今はそうでもない。治癒魔法もかけて休んでたから……怪我させた責任でも感じてるの?」
「いえ。そういうわけではありませんけど」
「冗談でもそうだって言いなよ。まぁ、おおよそフィガロにでも言われたんでしょ」
「…………」
「あはは。図星?」

揶揄するように笑って、オーエンは悪戯っぽく目を細める。ミスラは黙り込んでいたが、やがて小さく嘆息してオーエンの手首を掴んだ。ミスラが顔を寄せるとオーエンは視線を上げ、熱っぽく瞬きを繰り返す。その眼差しの強さに、ミスラはどれほど自分の顔を気に入っているのかと少し呆れてしまう。

「腹が立つな……でもまあ、俺が責任を取ると言ったのもそういうことです」

オーエンはしばらく考え込むようにミスラを見上げ、頬に手を這わせる。動物を撫でるような手つきでミスラの頬に触れると、どこか嬉しそうに微笑んだ。

「責任、取らせてあげてもいいよ」
「どうして上からなんです。やっぱり生意気ですね、あなた」

苛立って舌打ちしたミスラを宥めるように撫でて、オーエンはミスラの首に腕を回す。ぐっと引き寄せられ、ミスラの鼻先を甘ったるい香りが擽った。オーエンにシュガーを与えるうちに好きになっていた、甘すぎる香り。脳がふわふわと酩酊するような感覚はひどく心地よく、ミスラはささくれかけていた心が凪いでいくのを感じた。オーエンはそんなミスラを満足げに抱き締めて、大好きな顔をそっと覗き込む。

「それで、どうするつもりなの?フィガロに手取り足取り教えてもらった?」
「変な言い方をしないでくれますか。それに今、フィガロの名前を出されると……無性にむかむかします」

ミスラはオーエンの身体をベッドに押し付け、魔法を唱えた。オーエンが着ているジャケットのボタンが外されて、するりと脱がされていく。不思議そうに見上げてくる表情に劣情を煽られるまま、ミスラは薄いシャツ越しにオーエンの腹を撫でる。びく、と震えた身体に思わず笑みを零せば、オーエンの口元が僅かに引き攣った。

「なに……、っ…」
「対処法を教えてもらいました。もう、あなたが望むだけのシュガーを与えることはできませんが」

呟くように口にしながら、ミスラは指先で悪戯に臍の窪みを擽る。ふっと息を呑む気配を感じて、それだけで体温が上がっていく気がした。両手でわき腹を優しく掴むと、魚のように痩躯が大きく跳ねる。ミスラは手を滑り込ませ、薄いシャツを捲り上げた。滑らかな感触を楽しむように肌を撫でると、オーエンの頬にじわりと朱が広がっていく。

「依存するのはシュガーじゃなくて俺にしてください」

強請る声はどこまでもあまったるい。落ちてきた唇を受け止めれば、柔らかく何度も啄まれてオーエンの心はふわふわと浮ついた。ぷちぷちとボタンが外される音が遠くに聞こえて、気付けば胸元がはだけられている。ミスラの大きな掌が柔らかな肌を撫で、ぷっくりとした尖りに優しく触れた。オーエンの唇からあえやかな吐息が漏れ、細い腰がくねる。

「ン……っ、ふ…ぅ……」

ミスラの指先がくにくにと尖りを捏ねる。血液が集まって硬く芯を持ったそこは、次第に赤く色づいていく。オーエンはぎゅうと目を瞑ってその刺激に耐えていたが、生ぬるい感触に襲われて身体が跳ね上がった。大きく目を見開くと、ミスラの真っ赤な舌が尖りを這っている。ゆっくりと押し潰すように圧を掛けられたと思えば、舌先で弄ぶように転がされた。ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸いつかれるとたまらない気持ちになって、オーエンはミスラの癖毛を掻き回す。それをもっと、の合図だと思ったのかミスラは強めに吸いつきはじめた。赤子のような行為だと揶揄してやりたいのに、身体を駆け巡る電流のような快感から逃れられない。ミスラはオーエンの反応を窺いながら、赤く腫れ上がった尖りに歯を立てた。オーエンは悲鳴のような声を上げ、同時に太腿に当たる熱の存在に気が付く。

「ミス、ラ……」

以前に奉仕した時のような、疲労に起因する勃起ではない。自分に対して興奮しているのだと思い知らされて、オーエンはぞくぞくとした喜びを感じた。見上げた先の翡翠は熱を孕んで濁っている。隠しきれない情欲の炎を真っ直ぐに向けられて、存在しない心臓がきゅんと疼くような錯覚に襲われた。オーエンはミスラの肩を掴んで頭を持ち上げる。顔を寄せて口づけると、ミスラの腕がオーエンの背中へと回される。支えるように回された腕に体重を預けると、ミスラはうっすらと微笑んだ。角度を変えては何度も口づけられ、ミスラの舌がオーエンの唇を割って侵入してくる。上顎を擦られて背筋がぞわりと震えた。

「っん……ン、ん……っふ、ぁ…」
「……オーエン」

掠れた低い声に名を呼ばれるだけで性感が高まっていく。ミスラの舌が上顎の内側を舐め、歯列をなぞっていった。流し込まれた唾液を飲み込めば、シュガーもないのにあまい気がする。口内を貪られるうちに、頭の中までどろりと溶けていきそうだと思った。オーエンはミスラの首に腕を回し、必死に食らいつく。そうして互いの口腔内を心ゆくまで貪り合い、ようやく唇が離れた時には二人の呼吸はすっかり乱れていた。ミスラはオーエンの口端から零れる唾液を獣のように舐め取り、首元へ顔を寄せる。鎖骨に強く吸いつかれてジリッとした痛みが走った。オーエンからは視認できないが、ひどく満足げなミスラの表情からまた赤い刻印が刻まれたのだと分かる。

「ミスラのそれって、癖?」
「何がです」
「キスマークつけるの」
「はあ……別に、癖というわけではないですが」

顔を上げたミスラはじっと考え込むように軽く目を伏せる。新しく刻んだばかりの鬱血痕を見つめて、それから顔を上げた。小首を傾げながら、自分でも理解できていないように呟く。

「あなたの肌って、北の国の雪原みたいだといつも思っていたんです。どこまでも続いている、まだ誰にも汚されていない新雪のような……。朝陽を浴びればきらきら輝いて綺麗なのに、ひとたび踏み込めば汚してしまう。汚したくない気持ちがあるのに、一方でぐしゃぐしゃに汚してやりたいような……そんな気持ちになります」
「なに、それ」
「分かりませんか?」
「……わかんないよ」
「どんな酷い殺し方をしても、生き返った時には汚れ一つない身体に戻ってるじゃないですか。俺が滅多刺しにしようが、身体に穴を空けようが、何も残らない。でも……こうやって痕をつけると、少しだけ満足できる気がします」

並べられた曖昧な言葉ばかりであったが、それでもミスラが何を言わんとしているのかは分かった。茫とした表情で見つめてくるミスラを見つめ返して、オーエンはふっと目元を緩めた。こうして所有印を残したところで、死なずとも時間が経過すればすぐに消えてしまう。一時的な痕跡などに何の意味もないのに、それに縋るような真似をして。

「おまえってほんとに馬鹿だよね」
「はあ?」
「僕にずっと痕を残すなんて無理だよ」
「…………」
「……だけど、嫌いじゃないかも。そういうところ」

オーエンは消えりそうなほど小さな声で囁く。不器用に独占欲を剥き出しにする愛しい獣を抱き寄せて、うっそりと微笑んだ。ミスラは不満そうな表情を次第に軟化させ、オーエンの胸へ片耳を寄せる。空っぽの胸の中からは何の音も聞こえてこない。それをどこか虚しく思う一方で、静謐なこの身体を好ましく思っていることにも気付かされる。ミスラはしばらく静穏に浸ってから視線を上げ、刻んだばかりの所有印を撫でた。

「ミスラ」

静かな声に呼ばれてミスラは目を瞬かせる。オーエンはじっとミスラを見上げて、何かを言い淀んでから小さく息を吐いた。大きな手を取り、自らの胸へとそっと押し当てる。自分の体温よりも高いミスラの掌の温度を感じながら、オーエンは薄く微笑んだ。

「痕を残すならこっちにして」
「……オーエン」
「僕の空っぽを、おまえで満たしてみせてよ」

瞠目していた翡翠がゆっくりと細められる。柔和な笑みを浮かべて、ミスラは呆れたように呟いた。

「本当に偉そうですね。でも……俺も、そういうあなたは嫌いじゃありません」

ミスラはオーエンの身体を引き起こし、ミスラは細い肩に額を押し付ける。胸に添えたままの掌を滑らせて、シャツのボタンを全て外した。肌を滑らせるように薄い布を脱がし、ベルトを緩めて引き抜く。オーエンは抵抗することなくスラックスを脱いで、下着姿になった。見上げてくる互い違いの瞳は僅かに不安を滲ませていて、ミスラはなだらかな額へ口づけを贈る。驚いたような反応に笑みを零すと、不服そうに睨まれてミスラは安堵した。しおらしく大人しい態度は面白いと思うが、やはり跳ねっ返りの強い態度の方がオーエンらしいと思う。

「≪アルシム≫」

自分の服を一枚ずつ脱ぐのは面倒で、ミスラはおもむろに呪文を唱える。躊躇うことなく下着姿になったミスラを見てオーエンは目を瞠り、誘われるように手を伸ばした。細い身体ではあるが、しっかりと筋肉がついた均整の取れた身体つきをしている。ミスラの裸を見たのはこれが初めてではないが、薄明かりの下で見ると妙に艶めいて見えた。凹凸を確かめるように触れると筋肉がひくりと震える。ふと見上げるとミスラの唇は何かを堪えるように引き結ばれていて、オーエンはむず痒い気持ちになった。もっと触ろうと手を動かしかけると、ミスラがそれを制止する。オーエンはむっと唇を尖らせたが、ミスラはそれを無視して下肢へと手を伸ばしてきた。熱い掌が太ももの内側を撫で、下着越しに性器をやわく撫でる。ゆっくりと揉まれると鈍い熱がじんと溜まっていき、オーエンの唇からは熱く湿った吐息が漏れた。

「ぁ、ふっ……ぅン、んっ……」

オーエンはうずうずと腰を揺らしたが、ミスラは気にすることなく指先を動かした。弄ぶように揉まれ続けて性器には熱が募っていく。それに伴って先端が濡れていく感覚を覚え、オーエンは腰を引きかけた。しかし、ミスラは計ったようにそのタイミングで下着の中に手を差し入れてくる。直接触れられると背筋が震えて肌が粟立った。オーエンは反射的に脚を閉じようとするが、膝裏を持ち上げられて下着を取り去られてしまう。

「あッ…!や、やだ……」
「今更恥じらうこともないでしょう、オーエン。ほら、ちゃんと見せてくださいよ。……ああ、だらしなく涎を垂らして…本当に貪欲ですね」

喉を鳴らして揶揄しながらミスラは震える性器を握り込む。熱い掌に触れられているだけでオーエンは可哀相なほどに震えて、うっすらと涙を滲ませた。それでいて相手を煽っている自覚がないのだから、タチが悪い。ミスラは小さく舌打ちを零してオーエンの性器を扱きはじめる。先端から溢れる透明な先走りを全体に塗り込めるように擦れば、粘着質な音が響いた。ぬちゃぬちゃと水音を立てながら、ミスラの手中でオーエンの性器は大きく脈打つ。うっすら赤らんでいたオーエンの頬は今や林檎のように紅潮していた。眉根を寄せ、目を伏せて快感をやり過ごそうとしているようだが耐えられないのは目に見えている。ミスラはオーエンの噛み締めた唇を指先でなぞって、誘うように開かせた。手の動きはそのままに口づけると、開かれた唇から嬌声が溢れ出していく。

「あ、ァ……っう、……ふ、ぁあ…あ、ンッ…!」

鈴口から溢れる液体はいつの間にか白く濁っていた。ミスラはオーエンの表情を窺いながら、一定だった動きに強弱をつけはじめる。時折思い出したように舌を絡めると、オーエンはろくに応えられずにミスラにただ翻弄された。限界が近いことを察し、ミスラは鈴口を親指で強く刺激する。オーエンの細い腰が大きく跳ね上がり、見開いた瞳からぱっと涙の粒が弾け飛んだ。逃げようとずり下がる腰を押さえつけて、ミスラは追い立てるように手を動かす。絶頂を促すよう激しく動かされて、オーエンは悲鳴じみた声を上げて達した。勢いよく飛び散った白濁液がミスラの掌をどろりと汚す。オーエンは絶頂の余韻に包まれたまま荒い呼吸を繰り返し、大きく胸を上下させた。ミスラは視線を自らの掌に落とすと、おもむろに顔を寄せる。ぎょっとしたオーエンが口を開くよりも早く、真っ赤な舌はオーエンの精液をべろりと舐め取っていた。

「ミ―――ミスラ…ッ!」
「……以前よりはあまくないですね」

ミスラの行動の理由は理解できているとはいえ、目の前で行われた行為の生々しさに眩暈がする。オーエンは呼吸も整わないまま起き上がり、握った拳でミスラの側頭部を殴りつけた。

「痛っ」
「本当に、やめろ!」
「なんですか。ただの確認ですよ」
「そうだとしてもやめろって言ってるの…!嫌なんだよ」
「俺は嫌じゃありませんけどね。少し青臭いですが、あなたの精液は悪くない味だと思いますよ」
「そういうフォローいらないから!」

そもそもフォローになっているのか、という疑念もあるがオーエンは重い溜め息を吐くに留める。そのまま視線を彷徨わせると、ミスラの股間が苦しそうに張り詰めていることに気が付いた。手を伸ばして下着をずり下げると、勢いよく飛び出してきた性器は既に臨戦態勢になっている。

「オーエン…?」

頭上から落ちてきた声は少し戸惑いを含んでいるようだった。オーエンは無言のまま手を添えると、ゆっくりと扱きはじめる。硬度を保ったまま天を仰いでいる性器は、雄の象徴として申し分のない立派な形をしていた。オーエンはそっと目を細めて、唇を寄せる。柔らかな唇に迎えられてミスラは息を飲んだ。それが伝わったのか、オーエンは薄く微笑みながら口腔内に性器を招き入れようとして―――ミスラに強く腕を引かれた。

「っ、……ミスラ?」

視線を上げた先では苦虫を噛み潰したような顔をしたミスラがこちらを見下しており、オーエンは困惑した。こちらから奉仕してやろうと言うのに何が不満なのか。邪魔をされたことによって羞恥心が込み上げ、怒りに任せて文句を言おうとした唇がそっと塞がれる。すぐに顔を離したミスラは、少し困ったように眉根を下げた。

「……気持ちは嬉しいんですが、それは駄目らしいです」
「は…?駄目って、何が」
「精液ですよ。この前はシュガーと同時に与えたわけではありませんが、結果的に胃の中で混ざって魔力が増幅してしまったようなので……」

ミスラはそう呟いて、性器に添えられているオーエンの手を握り込んだ。顔を上げたオーエンの顔を覗き込み、そっと首を傾げる。まるで強請るように、どこか甘えるように囁きを落としながら。

「あなたの手で、お願いします」

オーエンは黙ってミスラを見上げていたが、やがて軽く嘆息して頷いた。熱い視線に落ち着かない気持ちになりながらも、輪の形を作った指をゆっくりと上下させる。先端から溢れた先走りを掬い取り、ぬめる液体を広げるようにして擦れば粘性のある水音が響きはじめた。オーエンはミスラにされたばかりの手淫を思い出しながら、だんだんと緩急をつけてみる。見透かされているのか、ミスラの唇が笑みをかたち作るのが分かって悔しくなった。とはいえ、拙い奉仕でもミスラが感じているのは明白で呼吸は僅かに乱れはじめている。

「あは……気持ちいいんだ、ミスラ?」
「……まぁ、へたくそではありますけど…っ…趣がある、というか」
「はぁ?むかつくな……ミスラのくせに生意気だね」

オーエンはひくりと口元を引き攣らせ、動かしていた手の動きを遅める。緩慢にも程がある手淫は、育ちきった性器にとって生温い刺激であることは明白だ。ミスラは物足りなさに眉根を寄せ、オーエンの手に腰を押し付ける。その様子が妙に可愛らしく映って、オーエンは思わず小さく笑った。

「もっと扱いてほしい?僕の手で気持ちよくなりたい?」

蠱惑的な笑みを湛え、オーエンはうっとりと瞳を細めた。ミスラの耳に唇を寄せて、低めた声で誘惑するように囁きを吹き込む。鼓膜が揺らされて脳髄までもが震え、動揺にも似た感情にミスラの双眸が揺らいだ。昏く濁った翡翠が煌めいて、射殺しそうな強さでオーエンを睨みつける。

「オーエン……ッ…」
「ふふ、いい気味。ねぇもっと強請ってみてよ。北のミスラが媚びへつらう姿なんて傑作…」

オーエンの言葉はそこでぷっつりと途切れた。ぐるりと一瞬のうちに視界が反転したと思えば、オーエンは柔らかなベッドに押し倒されていたからだ。え?と目を瞬いた先で、ぎらりと鋭い光を宿した翡翠が眇められる。ぐっと押し付けられたミスラの性器の熱さに息を飲むと、大きな掌がオーエンの性器ごと一纏めにして包み込んだ。粘膜同士が密着し、敏感な裏筋や亀頭が擦れ合う感触にオーエンは悲鳴を漏らす。

「や……っ、ミスラ、これやめて…ッ!」
「やめて?もっとの間違いでしょう」

ミスラは容赦なく一纏めにした性器を荒々しく扱く。オーエンの拙い手淫とも、先ほどまでの優しい愛撫とも違う。痛みすら覚えるほどの快楽にオーエンは背をしならせて喘いだ。互いの性器から溢れる体液によって、滑りを帯びた摩擦が快感へと変わる。ミスラの張り出たカリ首がぐりっと強く擦り付けられて、オーエンの眼前にちかちかと星が散った。強引な速度で快感が高められ、全身が痙攣してわななきはじめる。オーエンの性器は痛いほど張り詰め、いつの間にか絶頂はすぐ傍まで差し迫っていた。オーエンは必死になって抗おうとしたが、ミスラは責め立てる手を緩めてはくれない。

「あ、ァ……っ、や、あっ!ミスラ、だめ……ッ…!」
「駄目になってしまえばいいでしょう」
「やだ…っ……」
「強情だな……ほら、俺に媚びへつらってもいいんですよ?」

オーエンは焦燥を覚えて、なんとか逃れようと身を捩る。しかしシーツの海を泳ぐように藻掻いたオーエンを見て、ミスラは更に興奮を覚えたようだった。獣のような獰猛な荒い息が聞こえたと思うと、噛み付くように唇を奪われる。熱い舌が絡み合い、手加減なく口腔内を蹂躙された。酸素が欠乏して思考が鈍くなり、オーエンの意識には靄がかかっていく。

「は…ぁっ、……ふ…ぅ、んン…ッ、は……」
「……オーエン」
「ミ、しゅ……ら、ぁ……っ…」
「、ッ……は…」

舌足らずな声で名を呼ばれ、熱に浮かされた瞳で見上げられてミスラはごくりと唾を嚥下した。心臓を持たないせいで指先まで血が通わない男が、今やミスラの手によってどこもかしこも真っ赤になっている。縋るように握られた手は火傷しそうなほど熱く、露出した肌のあちこちが上気して扇情的だ。汗ばんだ額に貼り付いた銀糸を掻き分けてやりながら、ミスラはオーエンの額に口づける。性器を握り込んでいる手に力を込め、次第に速度を速めていく。オーエンの唇から零れる嬌声が断続的なものに変化し、ミスラは限界の近さを感じ取った。

「オーエン、一緒にイキましょう」
「ぅ、ん…っ……いっ、しょ…に……」

オーエンはミスラの言葉にこくこくと頷き、寄せられた唇にちゅうと吸いついた。甘えるような仕草に煽られて、ミスラはオーエンを追い立てるよう激しく扱いた。ぐちゅぐちゅという水音とともに一際激しく性器が擦れ合い、オーエンの爪先がぴんと伸びて空を蹴る。

「アーーー、…ッ…!」
「…ぐ、っ……」

甲高い悲鳴と噛み殺した低い呻きが同時に響き、二人分の精液がオーエンの腹に飛び散る。絶頂の余韻に震える身体を抱き締められ、オーエンはぼんやりとした頭のまま目の前の男を見上げた。ミスラの呼吸もまた荒く乱れており、熱っぽい視線が注がれているのを感じる。その表情にぞくりと背中が粟立ち、オーエンの胸はあまく疼いた。

「……ミスラ」

名を呼べばミスラは呼吸が整っていないにも関わらず顔を寄せてくる。湿った呼吸の合間に触れるだけのキスが何度も降ってきて、オーエンはくすぐったさに身を捩った。笑みを零しながらもそれに応えて、ようやく唇が離れたことに安堵の息が漏れる。

「息、できなくなるかと思った……」
「あなたの方から強請ってきたんでしょう」

軽口を叩きながら顔を見合わせて互いに笑う。ミスラはオーエンの腹に手を伸ばし、二人分の混ざり合った精液を指で掬い上げた。膝裏を持ち上げると僅かに抵抗を感じてミスラは顔を上げる。足したことで少し思考が落ち着いたせいか、オーエンは恥ずかしそうに目を伏せていた。

「照れてるんですか?」
「……だって……」
「大丈夫ですよ。あなたのここ、綺麗ですから」
「っ、……まじまじ見るな…!」
「あはは。本当なのに」

オーエンとしては不浄の場所という自覚があるのに、ミスラは慎ましく閉じられた後孔を観察するようにじっと眺める。かあっと顔が熱を感じて首を横に振っていると、精液を纏ったミスラの指先がそこへ触れた。あやすように硬く窄まった後孔に触れ、やがて円を描くように動きはじめる。ミスラは精液の滑りを借りながら少しずつ綻ばせていき、まずは一本だけ指を挿入した。オーエンはぎゅっと目を瞑って異物感を堪えているようだったが、その表情に痛みは見当たらない。ミスラは第一関節まで埋めた中指をぐるりと動かしてみた。熱くうねる胎内は驚いたように締め付けてきて、その強さに思わずミスラは苦笑する。こんなにも狭い場所に本当に入るのだろうかという不安が脳裏を掠めるが、それはオーエンも同じらしかった。視線を上げると戸惑いの滲んだ表情で見つめ返される。

「ミスラ……」
「大丈夫ですよ。男同士でも出来るって聞いてます」
「それは、僕も知ってるけど…」

信じられないと言いたげなオーエンを安堵させるように微笑み、ミスラは埋めていた中指をゆっくりと引き抜く。再び押し込むとオーエンは眉根を寄せて浅く息を吐き出した。それを見てミスラはフィガロから渡されたものの存在を思い出し、脱ぎ捨てたスラックスを魔法で引き寄せる。ポケットを漁って小瓶を取り出すと、蓋を開けて中の液体を引き抜いた指に纏わせた。仄かなピンク色をしたそれは、精液よりもずっと粘性がある。

「何それ」
「潤滑油です。これを使うとスムーズだと言われたことを思い出したので」
「……ねぇミスラ。おまえ、フィガロにどこまで言ったの…?」

オーエンの声色に僅かな怒気が滲む。ミスラは返答しようとして口を噤み、粘液を纏わせた指を後孔へ挿入した。オーエンの呼吸が乱れ、悲鳴が上がる。潤滑剤のお陰で抜き差しは円滑になり、少しずつだが締め付けが緩和されていくのを感じられた。ミスラはふっと口元を緩めてオーエンを窺う。

「ほら、受け入れはじめてます」
「無視するなよ…!はぁ……それ、何か変なものとか入ってたりしない…?」
「変なもの?……ああ、弛緩剤は入ってるって言ってた気がしますね。その程度じゃないですか?」
「……そう」

オーエンは何か文句を言おうとしたようだったが、結局何も言わずに口を閉ざした。これ以上フィガロの話題を広げる方が嫌だと判断したのだろう。実際、ミスラとしてもあの忌々しい医者の名を何度も出されれば堪忍袋の緒が切れかねない。オーエンの賢明な判断に感謝しながら、指の抜き差しを繰り返した。ねっとりと絡みつく内壁は温かく心地良い。この中に自分のものを突き入れたならどれほど気持ちが良いだろうと想像し、ミスラは無意識のうちに喉を鳴らす。

「二本目、挿れますよ」
「……うん」

オーエンが頷いたことを確認してミスラは二本目の指を挿入していく。締め付けが増すのを感じて潤滑油を足し、塗り込めるように指を動かした。時折指を開いて肉壁を拡げてやると、オーエンの唇から僅かに苦しげな吐息が零れる。

「痛いですか?」
「…ん、痛く、は…っ……ない、けど…なんか、へんな感じ……っ…」

ミスラは指を動かしながら、ふと思い立って軽く指を折り曲げてみる。指先に何か硬い感触が触れて、オーエンの身体がびくりと跳ねる。しかし、痛みを感じてのことではないようだった。ミスラは慎重に指先でその場所を探り、そっと撫でてみる。

「や、っ……ミス、ラ…っ…?」

オーエンの声が不安そうに揺れる。瞬きを繰り返した瞳の縁からぽろりと涙が零れ落ちた。ミスラはしょっぱい雫をそっと舐め取って、あやすように頬へ口づける。小さなしこりのようなそこを撫でさすり、オーエンの反応を窺いながら指先に力を込めてみた。圧迫するように押してみるとオーエンの腰がびくびくと跳ね、胎内が収縮して指を強く食い絞めてくる。どうやらここが前立腺という器官らしい。知り得たばかりの知識が役立ったことにミスラは忍び笑う。前立腺を刺激されるたびにオーエンは声を上げ、快楽を堪えるようにぎゅっと目を瞑った。

「はっ……ァ、あ…ん……っぅ、はぁ…」
「三本目……挿れます」

ぐぢゅっ、と熟しすぎた果実が潰れるような水音が響く。オーエンの後孔は揃えられた三本の指を難なく飲み込んでいった。すっかり解れきったそこは、ミスラの指の動きに合わせてひくついている。

「……すごいな」
「ぁ……う、っ…ん、ン……、ふぁ…っ」

思わずミスラが感嘆の声を漏らしてしまうほど、オーエンの内部は変化を遂げていた。きゅうきゅうと締め付けてはくるものの、内壁はひどく柔らかくて温かい。指に対する締め付けも、まるでもっとと強請ってきているように感じられる。ミスラが指を動かす度に粘着質な音が響き、空気を含んで潤滑油が泡立った。淫靡すぎる光景にミスラはごくりと喉を鳴らし、熱い息を深く吐き出す。引き留めるかのように絡みついてきた媚肉を振り切り、指を抜き去った。喪失感に喘いだ後孔が物欲しげに口を開く。熟れた粘膜の鮮烈な赤が卑猥すぎて、ぐらりとした眩暈を覚える。

「オーエン」

ミスラは興奮を抑えながら囁く。ただ名を呼んだだけだが、オーエンにはその意図が伝わったらしい。涙で濡れる睫毛を震わせながら、オーエンは視線だけでミスラを見上げる。

「……ミスラ、いいよ」

オーエンは自ら大きく脚を開き、薄く微笑んでみせる。ミスラはオーエンに覆い被さる形になって既に屹立している性器を軽く扱く。そのまま後孔へ押し当てようとして―――ぴたりと動きを止めた。

「危ない。忘れるところでした」
「……何?それ」

驚いたオーエンが目を瞬いている間にミスラは小さな包みを取り出した。見慣れぬ形状のそれは、下品な色合いのパッケージに入っている。刻まれた文字列を見てオーエンは眉を顰めた。

「……僕、女じゃないけど…?」

訝しむような眼差しとともに低い声で問われ、ミスラは肩を竦める。包装を剥がして中身を取り出すと、オーエンの瞳が丸く見開かれた。その反応を横目で見ながらミスラは口を開く。

「人間が使う避妊具です。ペニスに装着すると、膣に精液が流れ込まないんだそうです」
「ふぅん……それもフィガロに貰ったの?」
「はい。あなたが女じゃなくても、精液を体内に注ぐとまずいようなので…」

ミスラはそう言いながら手早く避妊具を装着する。勃起した性器は先端から透明な液体を滲ませており、薄い膜越しにも熱く脈打っているのが見て取れた。ミスラは再びオーエンに覆い被さり、被膜に包まれた性器を後孔に押し付ける。表面のぬるついた感触は避妊具に塗布された潤滑油だろうか。人工的なつるりとした感触が落ち着かず、オーエンは思わず視線を彷徨わせた。

「オーエン?」
「これ、つけてても……ちゃんとお前は気持ちよくなれるの?」
「はい。多分ですけど」

ミスラはオーエンの言葉に瞠目し、言葉の真意を測りかねながら頷く。しかしオーエンの反応はどうにも鈍い。お預けを食らった状態にも関わらず、ミスラは辛抱強く我慢しながら言葉を続けた。

「魔法だと全て終わってからの処理になりますし、今のあなたは完全に回復していないので身体に魔法をかけるのは良くないそうです。だから今回はこれを使えと言われました」
「……そう」

素っ気なく答えたオーエンの声色は硬い。ミスラはじっとオーエンの顔を覗き込んで、ふと首を傾げる。

「ああ、オーエン……もしかして残念だと思ってます?」
「は……?」
「生で入れてほしいと思っていたからそんな言い方をするんですよね」
「ち、違……っ…、ちが、う」

顔を背けたオーエンの顔は茹で上がったように真っ赤に染まっている。視線を泳がせながら、必死に言い訳の言葉を探しているらしかった。ミスラは苦笑しながら、被膜に包まれた性器をオーエンの後孔へ押し付ける。ひっと声を詰まらせたオーエンはわなわなと唇を震わせた。可哀相だと思うのに、オーエンを追い詰めるのはどうしたって楽しい。嗜虐心を刺激する反応を見せるオーエンが悪いのだ。

「ご希望に添えなくて残念ですが、我慢してください」
「……ッ、だから、ちが…うって、言って―――」

オーエンの言葉が途切れ、不意に呼吸が乱れる。後孔に押し当てられていた性器のまるい先端がぐっと圧をかけて入り込んできたからだ。つるりとした感触に息を飲んだ瞬間、亀頭がぐぷっと潜り込んでくる。反射的に呼吸を止めそうになったオーエンの唇を、ミスラの指先が優しく撫でた。誘うような手つきに薄く唇を開いて、オーエンは息を吐き出す。ぼやけるほどの至近距離で翡翠を見上げれば、ミスラはゆっくりと目を細めてみせた。

「オーエン、少しだけ腹に力を込めてください」
「ん…っ……、ふ…」
「……そう。いい子ですね」

ミスラがオーエンの頭を撫でながら腰を押し進めると、互い違いの双眸が蕩けていく。先程まで指を飲み込んでいた後孔は、潤滑油の助けもあって比較的スムーズに性器を受け入れた。とはいえ太い性器が内壁を押し広げる感覚には慣れず、オーエンは僅かな息苦しさを感じる。それでも痛みがないのは、ミスラが念入りに解したからに他ならない。やがて根本まで飲み込んだところで、ミスラは一度動きを止める。大きく肩を上下させるオーエンを見下ろしながら、深く息を吐き出した。オーエンの中は想像以上の熱さと締め付けで、入ったばかりだというのに気を抜けば持っていかれかねない。ミスラは奥歯を強く噛んで手を伸ばし、シーツを掴んでいたオーエンの手を取る。白い手を開かせて自分のそれを重ねると、ぼんやりとした眼差しで見つめ返された。ミスラはオーエンの手をぎゅうと強く握り締めて腰を引く。オーエンは性器が抜け出ていく感覚にぞわぞわと背筋を震わせ、切ない声を上げた。

「ひ…っ…!み、すらぁ、あッ…!」

引き抜かれた性器が押し込まれた瞬間、オーエンの背中が大きくしなる。甘ったるい悲鳴が室内に響き、狭い隘路はミスラの性器を食い締めるように包み込んだ。ミスラはオーエンの手を握り込んだまま、内部を蹂躙していく。当初に比べれば締め付けは和らいでいるものの、オーエンの胎内は狭すぎる。熱い粘膜はミスラの性器を離そうとせず、絡み付いては奥へと誘おうとする。まるで搾り取ろうとしているような収縮を振り切るようにミスラは律動を開始した。

「あァ…っ!ひあぁ……、あ…ぁぁっ…」

結合部から響く水音は激しく、肌を打ち付ける音がそれに重なる。潤滑油のお陰で抽挿はスムーズで、締め付けも次第に緩和されていく。オーエンは時折身体を跳ねさせながら、無意識のうちにミスラの手を握り返していた。激しい抽挿に喉を反らして喘ぎつつも、滲む視界の中のミスラを食い入るように見つめる。燃え盛るような鮮烈な赤だけが眼界に広がっていて、充足感で胸がいっぱいになった。空っぽな胸の中に熱い何かが注がれているような感覚に、思考がどろどろに蕩けていく。ミスラはそんなオーエンを見つめ、眉根を寄せて低く笑った。

「あなたって…本当に、俺の顔が好き、ですね……っ…」
「ふっ…、は…ぁ……うん…ミスラの顔、すごく好き……」
「はは、びっくりするぐらい…素直ですね……っ、でも、俺のことはもっと好き、でしょう…?」

汗で張りついた髪を鬱陶しげに掻き上げる仕草すら色っぽく、オーエンは思わず目を奪われた。しかしただ肯定するのはなんだか癪で、オーエンはミスラの首へと手を回す。ぐいと引き寄せれば内部の性器が入り込んできて苦しかったが、虚を突かれたミスラの顔を見て気分は向上した。無防備な唇に食らいつき、肉厚な舌を吸い上げる。首が苦しくなってすぐに手を離してしまったが、ミスラの驚いた表情を見れば意趣返しが成功したことは明白だ。

「っふふ……そうだよ。おまえの…ことが、好き―――、…ッ!?」

がつんっ!という激しい音が響いたのは体内だったのか、それとも体外だったのか―――オーエンには分からなかった。肺の中の酸素が一気に押し出されるほどの衝撃を感じて息が止まり、ひゅうっと喉が鳴った瞬間に脳髄がびりびりと電流を浴びたように痺れる。

「ひあ、ぁ…ぐっ…!あ、ァ…あぁ…っ…!」

陸に上げられた魚のようにオーエンの痩躯が跳ね上がる。ミスラはそんなオーエンの身体を折り曲げるように抑え込み、上から突き刺すように性器を突き入れた。ごちゅ!ばちゅ!と聞くに堪えない激しい水音が鳴り響く。内臓を圧迫されるような衝撃に、オーエンは声にならない悲鳴を上げて仰け反った。しかしミスラの性器は容赦なく前立腺をごりごりと抉り、まだ拓かれていない奥地を目指して進んでいく。オーエンの性器からは精液がとろとろと零れ続け、抽挿に合わせて揺さぶられる。ただでさえ強い快感を得ているというのに、激しく穿たれ続けてもう何も考えられなかった。ミスラは苦しげなオーエンに構うことなく上体を屈め、朱く染まった耳朶へ顔を寄せる。薄く開かれた唇から、掠れた囁きが落とされた。

「俺も、好きです……オーエン…っ」
「ッ、……!」

ミスラの言葉を耳にした瞬間、オーエンの頭の中でぱちぱちと火花が弾ける。激しくスパークする意識の中で必死に手を伸ばすと、それに気付いたミスラはオーエンをぐっと抱き締めた。腰が浮き上がるほどの力強さに背骨が軋むが、そんな些末な痛みは快感の奔流によって押し流されてしまう。ミスラは荒い呼吸をしながら腰を引き、一呼吸のちに最奥までを一気に貫いた。目の前が真っ赤に染まるような強烈な刺激に、オーエンは全身を痙攣させる。同時に、ミスラの性器を包み込む内壁がぎゅううっと収縮し―――ミスラは耐え切れず、薄い膜の中へ射精した。

「、ッ…は……」
「ふ…ぅ、ぁあ……ッ、…みす、ら……ぁ…」

内壁へ直接浴びているわけではないのに、放たれた熱い奔流がはっきりと感じ取れる。ドクドクとした脈動とその熱さに身体を震わせながら、オーエンはミスラの身体にぎゅうとしがみついた。その瞬間、オーエンは先ほどと同じ充足感を感じた。伽藍洞なはずの胸が熱いものでとぷとぷと満たされていく。実際に身体の中に精液が注がれているわけではないのに、空白が埋められていく意識に身体が大きく震えた。被膜の中に全てを注ごうとしているのか、ミスラは緩慢な律動をなおも繰り返す。密着したミスラの硬い腹筋がオーエンの性器を擦り上げ、その刺激に追い立てられるようにオーエンも限界を迎えた。弾けた性器の先端からは勢いのない精液がどろりと流れ落ち、互いの腹部を汚していく。ミスラはゆっくりと性器を引き抜いてスキンを取り外し、口を結んで放り投げた。薄い膜の中で揺れるミスラの精液を見つめ、オーエンはぼんやりと瞬きを繰り返す。

「は、は……っ、は……あ、ぁ…」
「……オーエン」
「っん、ン……ミスラ……」

寄せられた唇を受け入れ、オーエンは唇を開く。侵入してきたミスラの舌を吸い上げると、鋭い歯を押し当てられて背筋が震えた。甘噛みをするように繰り返し歯を立てられ、じゅうっと吸い上げられれば力が抜けてしまう。オーエンはミスラの舌技にすっかり翻弄され、頭の芯を痺れさせた。やがて唇を解放されても、目の前の男をただ見上げることしか出来ない。オーエンの口の端から零れた唾液を舐め取って、ミスラは満足そうに唇を歪めて笑う。

「素直なあなたも悪くないですね」
「……うるさいな」
「まあ、たまにだからいいのかもしれないですね。常に素直なあなたなんて気味が悪いですし」

呼吸を整えながらミスラを睨み上げ、オーエンは広い背中に回していた手を離した。ほとんど無意識だったが、ミスラの背に思いきり爪を立てていたらしい。爪先には自分のものではない血が滲んで真っ赤になっていた。オーエンは黙って爪をシーツに擦りつけて嘆息する。ミスラは特に気にした様子もなくそれを見遣って、どさりとオーエンの隣へ倒れ込んだ。手を伸ばして汗ばんだ銀髪を梳き、静かに唇を開く。

「オーエン。俺は……あなたの空っぽを、満たせたんでしょうか」

オーエンは瞬きをしてミスラを見つめ返して、ふっと吐息混じりに微笑んだ。北のミスラらしくないどこか不安げな物言いが面白かったのか、揶揄するように瞳を眇める。

「へえ。おまえは分からないの?」
「……俺自身のことではないので分かりませんよ。いいから、答えてください」

焦れた様子で呟くミスラに笑い、オーエンは身体をすり寄せる。覗き込んだ先の翡翠は、宝石のようにきらきらと煌めいていた。

「満たされたよ。ちゃんと、ミスラでいっぱいになった」
「……そうですか」
「だからもっと僕を依存させて。シュガーじゃなくて、おまえ自身に」

オーエンの言葉にミスラは頬を緩め、オーエンの額に自らの額を押し付けた。そっと触れた先の唇は、以前ほどあまい味はしない。それなのにミスラにはどうしたってあまく感じられて、それを心地よく感じている自分がいる。ミスラが自嘲気味に笑えば、まるで心を読み取ったようにオーエンも微笑んだ。あれほど恋しがっていたシュガーを欲することは、もうない。飴玉のような双眸にただ一人、ミスラだけを映して―――オーエンはとびきりあまい笑顔を浮かべた。




end.




ホーム / 目次 / ページトップ



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -