乙女の匙は投げられた

※バレンタイン


白く細い指先がピアノ鍵盤を叩くように軽やかなタイピングを繰り返す。カタカタという規則正しいリズムを響かせ、文章を紡いでいた臨也は別れの言葉を入力すると、モニターの電源だけを落として立ち上がった。広い自宅兼オフィスには自分だけしかおらず、口うるさい秘書の不在が少しだけ物足りなく感じられる。窓の外に視線を移すと、すっかり空は暗くなっており、街の灯りやネオンが夜闇に映えていた。数多の灯りを見渡し、その数だけ存在する人間たちに想いを馳せ―――臨也は形の良い唇をゆがめて笑った。仕事を終えて食事をしている者、家庭で一家団欒をしている者、友人や恋人との逢瀬を楽しんでいる者、はたまた残業や夜勤で仕事に追われている者、裏社会の片隅で息を潜めている者―――一体どんな人間たちが今この時間を生きているのかと考えているだけで全身を愉悦が駆け巡る。ルーティンとなっている人間観察に繰り出すか、それとも空腹を訴える腹を諫めるべく食事を作るか。頭の片隅で思考を巡らせながらフローリングを歩き、エスプレッソマシンのボタンを押した。まずは仕事と趣味で軽い疲労を覚えている頭をすっきりさせたい。臨也がコーヒーをゆっくり嚥下していると、不意にチャイム音が部屋に響いた。壁掛け時計に視線を移すと、時刻は既に22時前を回っている。通常の宅配業者が来るには少々遅く、それを訝しがりながら臨也はインターホンの通話ボタンを押した。

「……はい?」
「折原さんですね。お届け物です」

カメラ越しに確認した宅配業者の男はきちんと制服と帽子を身につけており、口振りや挙動におかしな点は見受けられない。画面越しで分かりにくかったが、問題ないだろうと判断した臨也は開錠ボタンを押す。男はこちらに軽く頭を下げ、開いた自動ドアを抜けて画面から消えていった。若干のラグを残して画面が消えると、臨也は手にしていたカップをデスクへ置く。クローゼットのコートから備え付けのナイフを取り出して袖口に忍ばせると、リビングを抜けて廊下へ向かった。手にした判子を手の平で弄んでいると玄関のチャイム音が鳴り響く。注意深く覗き穴から外を覗き、玄関のチェーンがかかったままなのを確認する。こんなご時世だ、判子だけ押して荷物は地面に置かせれば万が一でも危険はないだろう。鍵を開けるとドアノブに手を掛けて扉を押し開き、臨也は視線を上げた。

「あぁ、こんばんは。夜遅くにすみませんね」
「……いえ。遅くまでお疲れ様です」

男は深く帽子を被ってマスクをしており、表情までは窺えない。しかし、ちらりと覗いた目元が柔和に微笑んでいることは確認できた。チェーンが外されないことに少々引っ掛かりを覚えていたようだったが、臨也が判子を持った手を差し出しているのを見てこちらの意図を察したのだろう。男は臨也の方へ伝票を差し出してきた。

「ええと、こっちに判子を……チェーンしたままで押せますか?」
「はい。すみません、今ちょっと忙しくて……荷物は置いておいてください」

臨也が困ったように眉根を下げると、男は静かに頷いた。手にしていた大きめの段ボールを扉の脇に置いて臨也を見る。

「分かりました。こちらに置いておきますね」
「はい。お疲れ様です」

男はにこりと微笑んだ臨也に会釈をして去っていく。臨也は男の姿が完全に見えなくなってからチェーンを外した。床に置かれている段ボールは妙に大きく、臨也の胸の中には不信感が積もっていく。ゆっくりとそれを持ち上げると予想していた重さはなく、代わりに甘く瑞々しい香りが臨也の鼻孔を擽った。

「花……?」

花を贈られるような覚えはなく、花をカモフラージュにした何かかと思考を巡らすが心当たりはない。訝しく思いながらも臨也は段ボールを持ち上げて部屋の中に入れ、チェーンを掛け直して鍵を閉める。貼られている伝票を確認すると、明らかにダミーと分かる架空の住所が記載されている。筆跡を確認しようにも文字は印字されており、差出人の判断材料になるようなものは無い。一瞬だけどうしようかと迷ったが、こんな手の込んだ真似をしてくる人間を知りたいという好奇心の方が勝った。臨也はカッターで封をしているガムテープを切り、蓋を開ける。噎せ返るような甘い匂いが立ち込め、箱の中には大きな花束が入っていた。花束は全てが深紅の薔薇で構成されている。流石の臨也も面食らい、他に何かが入っていないかと花束を持ち上げる。俄かに重いそれを持ち上げると、下に小さな箱が入っていた。こっちが本命かと手に取るが、裏を返せばラベルに見慣れぬ文字が印字がされている。フランス語で書かれたそれはそこまで難解ではなく、ゆっくり読み解くと品名の欄にはチョコレートという記載があった。臨也は軽く首を傾げ、ようやく今日がバレンタインデーだったことに思い至る。臨也は込み上げる笑いを我慢できずに思わず声を上げた。

「バレンタインにチョコを送ってくるような奴がまだ居たとはね」

池袋を拠点にしていた頃は沙樹と同じように囲っていた信者が多く居たため、学生時代とそう変わらない数のチョコレートを受け取っていた。しかし拠点を新宿へ移してからはその数は減り、しかし出来合いのチョコレートに然程の興味もない臨也は特に頓着していなかった。臨也へチョコレートを渡すために女子の心が揺れ動く様は観察していて楽しかったが、正直それさえも高校の3年間で飽きていたからだ。臨也はチョコレートの箱を持ち上げて眺め、それを来客用テーブルの上に置く。食べるかどうかは別だが、ラベルにフランス語で印字されていることから高級品であることは分かった。珍しいものをわざわざ捨ててしまうことはないだろう。そう考えながら臨也は再び段ボールを覗き込んだ。よく見ると、花束を包んでいる包装紙の間に一枚のカードが挟まっている。臨也が不審に思いながらも手に取ると、そこには流麗な手書きの文字が綴られていた。

『折原臨也様 バレンタインの夜、どのようにお過ごしでしょうか。チョコレートと花束をお贈りします。愛を込めて』

文章を読み終えた臨也は深紅の瞳をすっと眇め、溜息を吐く。こんな言い回しをするような相手が一人しか思い浮かばなかったからだ。先ほどまで素知らぬ顔でチャットしていた癖に、こんなことを仕込んでいるなんて不気味だ。画面越しに笑みを浮かべていただろう相手を思うと腹が立ち、手にしていたカードを握り潰しそうになった。そこでふと我に返り、先ほどの宅配業者を思い出した。

「……もしかして」

臨也は花束を段ボールに戻し、カードを手にしたまま立ち上がった。チェーンを外して玄関の扉を押し開くと、先ほどの男が壁に凭れかかっていた。臨也に気が付くと視線をゆっくりと移動させ、マスクをずり下げて微笑んだ。

「やぁ」

低く耳障りのよい声が臨也の鼓膜を揺らす。思わず一歩後退ると、壁から離れた男はマスクを外してポケットに突っ込み、帽子のつばに手を掛けた。臨也の方へ歩み寄りながらも、口元には柔和な笑みを浮かべたままだ。

「気付かなかったらどうしようかと思ったよ。まぁ、見知らぬ相手に猫のように警戒するお前が見れたのは貴重だったがな」
「―――お前」
「分かってるくせに。そんなに警戒してくれるなよ」

臨也の目の前に立った男は陰になっている瞳で臨也を見下ろした。男が自ら帽子を外そうとした瞬間、臨也は手を伸ばす。手と手が触れ合い、男の帽子が弾かれたように地面に落下した。柔らかそうな髪がふわりと広がり、整髪料か香水の淡く爽やかな香りが臨也の鼻先を掠める。

「ようやく会えた。折原」

男は穏やかな笑みを湛えて臨也を見下ろした。不思議な色の虹彩が臨也を静かに見つめる。臨也は暫し口を噤んでいたが、やがて迷いながらも薄く唇を開いた。

「九十九屋……?」
「疑問形か?お前のことだから、顔を見た瞬間に俺だと確信して刺してくるかと思ったが」

揶揄されてようやく隠し持っていたナイフの存在を思い出し、臨也は僅かに頬を紅潮させた。間違いない、この人を食ったような言動でこちらを翻弄するような奴が九十九屋真一以外に居てたまるか。ナイフの存在を確認しながら九十九屋を睨み上げ、臨也は僅かに視線を逸らす。

「どういう風の吹き回しだ?頑なに個人情報を晒そうとしなかった奴が、こんな手の込んだ嫌がらせをしてくるとは思わなかった」
「嫌がらせ?お前、本気でそう思ってるのか」
「当たり前だろう。あんな大量の薔薇に……なんだ、あのメッセージカードは。俺をからかってるんだろう」
「へぇ、折原はそう思ったんだなぁ」

九十九屋は静かにそう呟くと、臨也に向けていた笑みを深くした。臨也がナイフを取り出すよりも早く玄関の扉を抑えて室内に押し入り、ガチャリと扉を閉める。突然のことに目を見開いた臨也を面白がるように九十九屋は笑い声を上げる。

「はは、やっぱり生の折原はいいね。そういう顔をすると画面越しで見るよりずっと可愛い」
「……お前、からかうのもいい加減に……」
「からかってないよ」

静かに、だが有無を言わせぬ口調で断言されて臨也は押し黙る。狭い玄関で壁を背にして追い込まれるような形になっているが、ナイフを向ける気にはなれなかった。

「なぁ折原、その物騒な刃物を手放してはくれないか」
「……勝手に家に押し入ってきておいて、よくそんなことが言えるな」

そうは言いながらも、九十九屋にじっと見つめられれば不思議とささくれ立っていた気持ちが鎮まっていく。玄関の鍵を閉めてチェーンを掛け直し、ちらりと九十九屋を伺いながらナイフを靴箱の上に置いた。九十九屋は安堵したように息を吐くと、廊下に転がっている段ボールとその中の花束に視線を移す。

「贈り物はお気に召したかな」
「……お前の、意図が分からない」
「おや。賢い折原なら理解していると思ったんだが」

九十九屋は屈み込んで手を伸ばし、花束から一本の薔薇を引き抜いた。薔薇の香りを楽しむと柔和な笑みを浮かべ、臨也に向かって差し出す。

「それにほら、お前によく似合う色だろう」

柔らかな花びらが頬を撫でる。九十九屋が真っ直ぐに自らの瞳を見つめていることを感じ、臨也は軽く目を伏せる。こんな風に強引に踏み荒らされるのは臨也が最も嫌う手段だ。それなのに、九十九屋の声と瞳には抗えない何かがある。俯いたまま、臨也の唇は自然と言葉を紡いでいた。

「……上がるなら勝手にしろ」


×


臨也がリビングへ戻ると、少し遅れて花束を抱いた九十九屋が上がり込んできた。いつまでその恰好で居るつもりだと突っ込むと、九十九屋はあっさりと上衣を脱ぎ捨てた。下には厚手のインナーを着ており、下は黒のスラックスなのでそれだけで普段着らしき姿に見える。九十九屋真一が実体を持って目の前に現れていることへの違和感がどうにも拭えない。臨也はそんな感情を誤魔化すように花束を奪い取ると、九十九屋を洗面所へ追いやった。洗面所から聴こえる水音を聞きながら花束を来客用テーブルの上に置き、臨也はデスクに置いていたコーヒーカップを手に取った。3分の1ほど残っていたコーヒーはすっかり冷めきっており、臨也は溜息を吐いてエスプレッソマシンのボタンを押した。ついでにカップをもう一つ取り出し、そちらにもコーヒーを注ぐ。リビングに入ってきた九十九屋はソファーに腰掛け、花束を手に取った。薔薇を一輪ずつ確認している面差しは妙に穏やかで、臨也はそれを横目にしながら頭が痛くなるのを感じる。花束とチョコレートを送りつけてきた上に家に押し入ってくる―――九十九屋が何を考えているのかさっぱり理解できなかったからだ。メッセージカードの言葉がからかっていることだけは分かったが、からかっていないと否定されて胸がざわついた。黒い液体が注がれた二つのカップをテーブルに置くと、臨也は立ったままで九十九屋を見下ろす。

「それで、どういうつもりだ?」
「やけにご機嫌斜めだな。そんなに怒らないでくれよ」
「別に怒っているつもりはない」
「チョコレートは……あぁ、ここにあったか」

九十九屋は花束の陰になって見えなかったチョコレートの箱を持ち上げる。コーヒーを啜りながら視線を落とした臨也を見上げて笑った。

「これはフランスの有名なパティシエが手掛けたチョコレートだ。これなら調理者の個性が見えるし、折原の眼鏡にも適うかと思ってな。俺もこれが好きなんだ」
「そんな高級品を俺に贈る理由が判らないと言っているんだ。……その花束も」
「はは、折原。今日が何の日か知らないわけじゃないだろう?」

臨也はカップを置いて九十九屋を静かに見つめた。意味深な笑みを浮かべている九十九屋に手招きをされ、ゆっくりと歩み寄る。不思議な色の虹彩は少しも臆することなく臨也を見上げていた。不意に伸ばされた長い指先が臨也の手首にひたりと触れる。少し冷たい指先に掴まれたと思うと、臨也の身体は重力に従ってソファーに倒れ込んだ。どさりという音と衝撃で九十九屋が抱いていた花束が僅かに潰れ、深紅の花びらが周囲に散らばる。臨也は九十九屋を押し倒す形でマウントを取り、瞳を細めた。余裕を崩すことなく見上げてくる九十九屋の視線が鬱陶しく、臨也は僅かな苛立ちを覚える。

「バレンタインだからなんだって言うんだ」
「メッセージカードにも書いたじゃないか。愛を込めて贈ったのさ」

胡乱げな表情を浮かべる臨也に手を伸ばし、九十九屋は指先で滑らかな頬を撫でた。腕から抜け落ちた花束が床に落下し、それを横目で見ながら九十九屋は微笑む。

「お前は人間のことは愛すくせに、愛されることには慣れていない」
「……知った風に言うな」
「折原のことはよく知っているさ。ずっと前からな」

九十九屋の指先は臨也の頬に何度か触れ、それからこめかみを伝って髪を摘んだ。長い指が絹糸のような髪を優しく梳き、宥めるように撫でる。臨也は口を閉ざしたまま九十九屋を見下ろしていたが、やがて目を閉じて息を吐く。

「……お前のやり方は横暴で気に食わない」
「そんなことを言われたのは初めてだよ。俺は極めて紳士的なつもりだが」
「どの口で言ってる」
「―――そうだな、この可愛らしい唇ではないことは確かだが」

薄紅色の唇を九十九屋の指先が押す。薄く瞳を開けた臨也はじっとりと九十九屋を見下ろし、呆れたように溜息を吐く。

「自分で言っていて恥ずかしくならないのか」
「そうだな。正直言って、恥ずかしい」

九十九屋は上体を起こして臨也の腰を抱き寄せた。嫌がられないことを確認すると、顔を寄せて微笑んだ。

「でも、お前のそんな顔が見られるなら……恥じらう必要なんてないからな」

空気が震えて、九十九屋が笑ったのだと判った。臨也は黙って九十九屋を見つめていたが、やがて胸を押し返して距離を取った。

「悪趣味だ」
「折原だけには言われたくないな。……なぁ、チョコレートは食べてくれるか」
「お前の態度次第では捨てても構わないぞ」

九十九屋は突っぱねた態度の臨也に苦笑し、チョコレートの箱を手に取った。渡された箱を受け取った臨也はしぶしぶ箱を開ける。中には綺麗な形のトリュフチョコレートが幾つも並んでいて、その造形だけでレベルの高さが窺えた。その中の一粒を手に取り、臨也は暫く眺めてから口に運んだ。周りを覆っていたミルクチョコがゆっくりと溶けていき、中からは甘いプラリネクリームが溶け出す。口腔内を満たしていく甘さと鼻に抜けていく芳醇な香りを堪能し、臨也はぺろりと唇を舐めた。

「まぁまぁ」
「少し甘かったかな。じゃあ、こっちはどうだ?」

長い指で九十九屋はダークチョコレートを摘み上げた。臨也は口元に差し出されたそれを戸惑ったように見つめる。体温で僅かに溶け出したそれを押し付けられそうになり、やむなく口を開いた。少し苦めのダークチョコレートはカカオの風味が強く、若干の酸味が舌先に残る。内側にはピスタチオとガナッシュクリームが入っていて、咀嚼すると香ばしい味が口腔内に広がっていく。先ほどよりも好みの味だったのか、臨也は微かに目元を緩ませた。

「お気に召したかい」
「……まぁまぁ」

臨也の表情変化に目敏く気が付いた九十九屋が声を掛けると、臨也はふいを顔を背けてしまう。先ほどと同じ言葉を口にする臨也の様子はどうにも素直ではない。九十九屋は笑いながら指先に残ったチョコレートを舐め取った。臨也の頭を優しく撫で、身体をずらしてソファーから立ち上がる。床に落ちていた花束を拾い上げると、座ったままの臨也の胸に押し付けた。

「俺はそろそろ帰ることにするよ。あぁ、俺に盗聴器の類を付けても無駄だぞ。全部分かってるからな」

臨也がどさくさ紛れに取り付けた盗聴器を容易に外しながら微笑み、九十九屋は軽く手を上げた。臨也は悔しげに眉を顰めるが、同時に困惑した様子で声を上げる。

「お前、本当に何しに来たんだ」
「嫌がらせやからかい目的じゃないと言ったろう。それに、愛を込めて贈ったつもりだよ」

九十九屋はチョコレートを指差し、薔薇の花束に溺れている臨也を愛しげに見つめた。その眼差しはチョコレートよりも遥かに甘ったるく、視線を受けるだけで臨也の胸は焦げついてしまいそうに疼いた。臨也が花束に顔を埋めて黙り込むと、九十九屋は呆れ気味に微笑む。

「俺は気が長いからな。返事はホワイトデーに聞かせてくれればいいさ」

臨也が顔を上げる気配がないことを確認し、九十九屋は踵を返す。コーヒーご馳走様。そんな声を残して廊下へと続く扉を開けた瞬間だった。ぐっと肘の辺りを引っ張る感触があり、九十九屋は後ろを振り返った。視界の端に漆黒の髪が映り、次の瞬間には背中に暖かな感触が訪れる。

「―――もう答えを聞かせてくれるのか?」

九十九屋は笑みを含んだ囁きを落とし、背後をゆっくりと振り返った。腰に回されている細い指先を辿るように触れると、臨也は導かれるように顔を上げる。ルビーよりも深い赤の虹彩が九十九屋を真っ直ぐに射抜いた。臨也は手を伸ばして九十九屋のインナーの襟を掴む。背伸びをした臨也に合わせ、九十九屋は苦笑しながら腰を屈めた。臨也は噛みつくという表現が相応しい勢いで九十九屋へ口づける。薄い唇を割って侵入してきた臨也の舌は噎せ返るほどに甘い。九十九屋は甘さが残る口腔内を容赦なく蹂躙した。次第に荒くなっていく呼吸でさえ甘く、その呼吸さえも奪い去るほど酩酊は深くなっていく。

「     」

眩暈を覚えそうな熱量の中、零された言葉はチョコレートよりもずっと甘い。


end.



title by moss




ホーム / 目次 / ページトップ



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -