淡雪に秘める <前>

※クリスマス


ちらちらと降り始めた真白い雪の結晶は、広げた手の平に落ちて溶けていく。静雄の手中を覗き込んだ上司は、感嘆の声とともに目を丸くした。

「雪か!通りで寒いと思ったぜ」
「トムさん」
「寒いのに待たせて悪かったな。さっきの客には話つけてきたからよ、さっさと次行こうぜ」
「うす」

促すように背中を軽く叩かれ、静雄は静かに頷く。髪や肩に落ちてくる雪を視界の端に捉えつつ、硬いアスファルトの上を歩き出した。12月25日。クリスマスの今日も漏れなく仕事の静雄とトムは、いつもと変わりなく借金の取り立て業務に勤しんでいた。年末が差し迫った時期ということもあり、後ろめたい事情から返済を延滞している客もピリついている。今日も朝から3件連続で静雄の拳が振るわれており、クリスマスだというのに気が滅入って仕方ない。しかしホワイトクリスマスともなれば少し気分が上向いた。静雄は帰りにケーキでも買って帰ろうかと思案を巡らせながら周囲を見渡した。平日ということもあり、街を行き交う人間はビジネスマンが多く忙しない。しかし中には腕を組んだ仲睦まじいカップルや冬休みの学生も見られ、その誰もが楽しげに笑みを浮かべている。

「いいっすね」
「ん?」
「いや……みんなクリスマスを楽しんでるじゃないですか」
「あぁ」

静雄の独白を聞き逃さなかったトムは柔らかく微笑み、大きく伸びをする。いちゃつくカップルを見つめるサングラス越しの瞳は僅かに憂いを帯びていた。

「一緒に過ごす奴がいるのは羨ましいよなぁ」
「トムさんも彼女いないんですっけ」
「ここ数年ずっとだよ。あーあ、俺にもいい加減に春が来ねえかな」
「今は冬ですよ」
「そういう意味じゃなくてだな…」

静雄のマジレスに苦笑しながらトムは視線を前に向ける。小さな公園の中で小さな子供が母親に駆け寄るのを微笑ましく見守り―――その視線をベンチへ向けて思わず動きを止めた。

「……?トムさん?」

静雄は固まった上司の様子に首を捻り、視線を公園のベンチへ向ける。そこに座っている"誰か"の姿をを目にし―――静雄の血圧が急上昇した。儚くも美しい青年の横顔に、周囲の誰もが見蕩れている。静雄は拳を強く握り締め、全身を襲った怒りを必死に抑えようと努力した。しかしそれは叶うことなく、静雄は怒りに任せて公園に足を踏み入れる。大きく跫音を響かせて歩く静雄に周囲の人間は慄き、蜘蛛の子を散らすように避けていく。そんな周囲の喧騒も気にすることなくベンチに腰掛けていた青年は、目の前に仁王立ちした静雄をゆっくりと見上げた。紅玉に似た赤い虹彩が何の色も浮かべないままに煌めく。怒りに震える静雄が口を開こうとした瞬間、青年は形の良い唇を吊り上げて微笑んだ。

「やぁ、シズちゃん」
「……臨也ァ……」
「ご機嫌麗しく…はないようだね。こめかみに青筋が浮いているよ」

臨也は薄く微笑みながら自らのこめかみを指先で叩き、頭上から降ってくる雪を見上げた。整った容姿のせいもあり、雪を見上げているだけでも溜息が零れそうになるほど美しい。しかし臨也の容姿に一度も頓着したことがない静雄は、鬱陶しいとばかりに舌打ちを零す。行儀悪くベンチに足を乗せ、屈み込んで臨也に顔を寄せた。

「手前、ここがどこか分かってんのか…?」
「池袋でしょ」
「分かってるのにどうして来る!?池袋には来るなって言ってんだろうがァ!!」
「うるさいな、俺の自由だろ」

低く轟く声で静雄が詰め寄ろうとも、臨也は余裕のある表情を崩さない。つまらないと言いたげに静雄を冷たく一瞥すると、視線をついと逸らす。相手にされていないことに苛立った静雄が臨也の胸倉を掴もうとした瞬間だった。慌てて駆け寄ってきたトムが恐る恐る静雄に声を掛ける。

「し、静雄!」
「…………何すか」
「そのー……だな、今日はクリスマスだろ…?臨也にも喧嘩する気がないんなら、その…放っておくのはどうかと思って」
「えー?田中さんたら俺に冷たいなぁ」
「……手前は黙ってろ、ノミ蟲……」
「ひっどーい」
「あー…っとな、正直に言うと午後からの集金も忙しいし、お前が居なくなると俺…困るんだわ」

困ったように苦笑する上司に静雄はぐっと言葉に詰まる。確かに朝からの忙しさを鑑みれば今日は一日忙しいだろう。ここで静雄が臨也と喧嘩を始めれば数時間はトムが一人で集金に勤しむことになる。トムも腕っぷしが立つが、面倒な客に当たれば静雄の存在だけで抑止力になり、時短になるのは明白だ。静雄は伸ばしかけた手を引っ込めて大きく深呼吸を繰り返し、臨也を強く睨めつける。退屈そうに脚を揺らしている臨也はスマホの画面を眺めながら小さく欠伸を零す。マイペース極まりない様子に再び怒りが込み上げそうになるのを必死に堪え、静雄は踵を返した。トムは安堵の息を吐きながら静雄に微笑みかけ、一度だけ臨也の方を振り返る。

「…………」

退屈そうにスマホを眺めていた臨也が一瞬だけ視線を上げた。トムと視線が合わさった瞬間、臨也の眼光が鋭さを増す。言い表せない威圧感を感じてトムは身震いするが、次の瞬間には臨也の視線は逸れていた。眇められた赤い瞳で静かに画面の文字を追う姿は、一見すれば男子学生のようにも見える。トムは眩暈のするようなアンバランスさから逃れるように前を向く。願わくば、折原臨也の中にあるざらついた感情に自らが巻き込まれることがないようにと祈りながら。


×


昼食を摂った後、静雄とトムは集金業務を再開した。頑なな態度の客が多く苦労したが、燻ぶった怒りを孕んだままの静雄が一歩前に出ると途端にしおらしくなった。静雄から発せられる威圧感の凄まじさはトムさえも気圧されるほどで、静雄を敵に回している客たちに同情を禁じ得ないほどだった。トムがふと腕時計に視線を落とすと、時刻は15時を過ぎている。軽く休憩にするかと言いながら、トムはコンビニの駐車場で縁石に腰を下ろす。買ったばかりの缶コーヒーのプルタブを捻って開けると、真白い湯気とともに香ばしい香りが立ち昇った。熱い液体を啜って視線を上げると、立ったままの静雄は数メートル先にある公園の方を注視している。眉間に深い皺を寄せ、鳶色の瞳には燃え上がるような怒りが浮かんでいた。その公園に臨也がいることに思い至り、トムは密かに溜息を吐く。静雄が視線を逸らしている間に自販機でカフェオレを購入し、トムは静雄の頬にカフェオレ缶を軽く押し当てた。急な熱に驚いた静雄は弾かれたように振り返り、トムは静雄を見上げて笑いかける。

「んな難しい顔してんなって」
「トムさん」
「俺の奢りだ。冷める前に飲んじまえ」
「でも……あの、俺ちゃんと金払いますから」
「いーって。年上のお節介は甘んじて受けとくもんだぞ」
「……ありがとう、ございます」

ぎこちなく礼を口にした静雄に微笑みかけ、トムは自分の分のコーヒーを飲み干した。静雄はしばらくカフェオレ缶を手にしたまま公園の方を見ていたが、やがて視線をトムの方に戻す。プルタブを捻ってカフェオレを一気飲みすると、片手で缶を捻り潰してゴミ箱へ入れた。ガコンという音にトムが顔を上げると、静雄はやけに晴れやかな笑顔を浮かべている。トムが違和感に首を傾げた瞬間、静雄は深々と頭を下げた。突然のことにトムが声を上げて後退ると、静雄は頭を下げたまま声を張り上げる。

「トムさん!すんません!」
「ぅおっ!?な、なんだぁ?どうしたんだよ、静雄…」
「……やっぱり俺、このままじゃどうしてもモヤモヤしちまって……やっぱ無理っす」

顔を上げた静雄は申し訳なさそうに眉根を下げていた。トムはしばらく呆気に取られていたが、ボリボリと頭を掻いて快活な笑みを浮かべる。

「仕方ねぇなぁ」
「ほんと、すみません……」
「謝んなよ。ま、お前が頑張ってくれたお陰で今日はあと4件だしな。この程度なら俺一人でも平気だし、事務所の書類仕事も俺がやっとくさ。お前はモヤモヤをどうにかしちまえ」
「トムさん…」

にかりと笑ったトムに再び頭を下げて、静雄は公園に向かって歩き出した。トムはその大きな背中を見送り、空になったコーヒー缶を手持ち無沙汰に振る。いつの間にか雪が降りやんだ鉛色の空を見上げながら、長く息を吐き出した。

「今年も俺は一人かぁ」

男二人で過ごしたところで色気のある展開にはならねぇけどな、とトムは苦笑する。素直になれない後輩の性格を熟知しているからこそ、わがままを受け入れてしまう。自分のお人好しっぷりに涙が出てきそうになったトムは、今年の聖夜も行きつけのバーで過ごすことを心に決めたのだった。


×


静雄が公園に足を踏み入れると、夕方の公園はカップルや子供連れだらけになっていた。視線を彷徨わせ、黒衣の青年を視界の端に捉える。数時間前と変わらない体勢でベンチに腰掛けていた臨也は、相変わらずつまらなさそうにスマホの画面を眺めていた。なるべく周囲の目を引かないように近付いてから声を掛けようと一歩踏み出した瞬間、臨也の近くにいた男数人のグループから一人の男が飛び出してきた。長身の男は見るからに軽薄そうな顔つきをしていて、髪はくすんだ黄土色をしている。首や腕にはジャラジャラと趣味の悪い髑髏モチーフのアクセサリーをつけており、ダメージ加工のジーンズは下着が見えそうなほどの見るに堪えない腰パンだ。教養の無さそうな間延びしただみ声が臨也に投げ掛けられる。臨也はちらりと顔を上げ、すっと赤い瞳を眇めた。相手を見定めるような居心地の悪い視線だった。

「お兄さぁーん、一人なの?それともぉ、誰かと待ち合わせしてるんッスかぁー?」
「……一人だよ」

てっきり無視をするかと思えば、臨也は何の色もない表情で男へ返事をした。男は仲間と顔を見合わせて下卑た笑みを浮かべると、臨也の隣に腰を下ろして顔を覗き込むように顔を近づけた。臨也が返事をしたことで相手にされたと勘違いしたのか、周囲の仲間も臨也を取り囲むようにベンチに集まる。

「今日はクリスマスですよー。なのにお兄さん一人なんだぁ?ね、ここ寒くないッスか?」
「別に」
「強がらなくてもいいんッスよぉ。さっきからずっとここに居るじゃないですか」
「…………」
「ほら、身体冷やしちゃ風邪ひきますよぉ?俺らと一緒にあったかい場所行きませんかー?なんつってぇー、ぎゃははっ」

男は下品な笑い声を上げ、周囲の仲間たちもそれにつられて笑い合う。しかし臨也は既に興味をすっかり失ったらしく、男たちに視線を向けることなくスマホの画面をスライドする。沈黙が数十秒続き、男たちは顔を見合わせる。男は臨也の反応が無くなったことが気に食わないらしく、指先で臨也のスマホを突いた。

「ねぇお兄さぁん、無視しないでくださいよぉー?こんな日にこんな場所に座ってさぁ、ナンパ待ちなんじゃねぇの?それともわざとやってたりするぅ?綺麗な顔してっから相当自信あるんだろうなぁー?」

苛立ち交じりの口調で煽るように男は笑う。臨也は黙り込んでいたが、再びスマホを突かれたことで視線を上げた。燃えるような赤い瞳に見据えられ、男は一瞬たじろぐ。臨也はスマホをコートのポケットへ滑らせると、唇を吊り上げて艶然と微笑んだ。

「ナンパ待ちではないけど、俺が自分の顔に自信があるっていうのは事実だよ。まさか君たちみたいな品のない人間に声を掛けられるとは思わなかったけれど……俺は等しく人間を愛しているからね。君たちの愚かしさも嫌ったりはしないさ」

唐突にぺらぺらと喋り出した臨也に男たちは呆気に取られる。数秒の間ぱちくりと瞬きを繰り返していたが、やがて臨也に言われた言葉の棘に気が付いた男は拳を強く握り締めた。臨也の胸倉をがしりと掴み、無遠慮に顔を近づける。

「なぁ、お兄さんよぉー……俺たちのこと馬鹿にしてんッスかぁ…?」
「やだなぁ、馬鹿になんてしてないよ」
「してんだろォがぁ!!へらへら笑いやがって、顔がいいからって調子こいてんじゃ…」

男の怒声はそこでぷつりと途切れた。静雄が公園の入り口にあった標識で男たちをフルスイングしたからだ。臨也が座るベンチの前に横一列で並んでいた男たちは一振りで綺麗に吹っ飛ばされ、臨也の隣に座っていた男は腰を抜かして地面にべしゃりと滑り落ちる。静雄は臨也を無視して一直線に男へ向かうと、首根っこを掴んで思いきりぶん投げた。情けない断末魔が尾を引きながら男は消えていき、静雄は手を叩いて大きな溜息を吐く。周囲の人間たちは怯えて離れていったが、ただ殴るよりは大ごとになっていないだろうというのが静雄の認識だった。ふと視線を落とすと、ベンチに座ったままの臨也が目を丸くしてこちらを見上げている。静雄はばつが悪い気持ちでがしがしと頭を掻き、これ以上周囲の目を引くわけにはいかないとその場に屈み込んだ。視線を合わせると臨也ははっとしたように顔を背ける。しかし静雄の強い視線に耐えられなかったのか、ゆっくりと視線を戻して首を傾げた。眉根には至極嫌そうに皺が寄っている。

「……何のつもり?」
「別に、何のつもりもねぇけど」
「そんなわけないでしょ。何の理由もなく俺を助けたっていうの?第一、君まだ仕事中でしょ?田中さんもいないし、なんで戻ってきたんだよ」
「……手前、助けてもらっておいてその言い草たぁいい度胸だな…?」
「俺は助けてほしいなんて言ってないし、そもそも君に助けてもらわなくても自衛できた」

臨也はしかめっ面のまま胸元からナイフを静雄だけに見えるようにちらつかせ、顔を背ける。不機嫌さを隠しもしない態度に静雄は苛立ったが、ここでキレてしまっては駄目だと必死で自分に言い聞かせた。ギリギリと音がするほど強く拳を握り込み、臨也を見つめる。

「……手前、なんで戻ってきたのかって言ったよな」
「は?」
「じゃあ俺もお前に訊くぜ。お前はどうしてここに居るんだ?」

静雄がキレると踏んでいたらしい臨也は、予想だにしなかった問いに目を瞬かせる。臨也はそのまま数秒間黙り込んでいたが、ベンチから立ち上がって深くフードを被った。静雄が慌てて立ち上がると、臨也は突然走り出す。普段の臨也なら、適当な言葉を並べ立てて誤魔化すだろう。あまりにも唐突すぎる行動に驚きながら静雄は公園を突っ切り、大通りを走り抜ける。

「待て!臨也ッ!!」

臨也は器用に人波を掻き分けていき、やがて路地に消えた。静雄は急ブレーキをかけ、靴底が摩擦熱で焦げたせいで発生した異臭に顔を顰める。路地を覗き込んだ時には臨也の身体は更に奥へ消えており、静雄は慌てて大股で路地に踏み込む。狭い道に転がるドラム缶やゴミ袋にぶつかるのも構わずに先へ進むと、曲がり角の塀の上に登れそうな場所を見つける。臨也の姿は完全に消えていたが、直感で判断をした静雄は塀を掴む。砕いてしまわないように加減しながら塀に自らの身体を引き上げ、そこから廃ビルの螺旋階段に登れることに気付いた。臨也がこちらにいることを確信して螺旋階段を駆け上がる。やがて現れた金属製の扉に鍵がかかっていないことを確認し、深呼吸してドアノブを捻った。その瞬間、部屋の奥から何かが雪崩れる音を耳にして静雄は部屋に飛び込む。

「いざっ……!?」

思わず言葉を失った。部屋の中央、奥にあった金属製の棚が倒れている。その近くに倒れているのは間違いなく臨也だった。静雄は埃っぽい室内に踏み込み、倒れ込んでいる臨也の腕を掴んで引き上げる。

「おい、臨也。しっかりしろ」

臨也はすっかり血の気を失った顔で倒れているが、棚が直撃した様子ではない。コートの裾に擦れた痕があるので、棚の金具部分に引っ掛けたらしい。軽く頬を叩いても反応がないことを確認し、小さな頭をそっと触る。倒れた時にぶつけたのか、臨也の側頭部にはたんこぶが出来ていた。

「う、っ……」

痛みのせいか軽く呻き声が上がったが、臨也が目覚めそうな気配はない。静雄は臨也の身体を抱き上げ、頭にしっかりとフードを被せて部屋を出る。外に出ると再び雪が降り始めていて、寒さに自然と身体が震えた。臨也の細い身体を抱え直して静かに螺旋階段を降りていく。家に帰ろうと思ったが、走っているうちに随分と池袋から離れてしまったらしい。細い路地裏を歩いていると繁華街に入り、その中にいくつものホテルがあるのを目にした。臨也を担いでいるせいでどうしても人の目を引いてしまい、大通りに出れば職務質問をされてもおかしくない。静雄は逡巡ののちに小綺麗なホテルに足を踏み入れた。

「あの、すんません。休憩したいんッスけど」

静雄の声に受付に居たバイトらしき青年が顔を上げる。肩に臨也を担いだ静雄を見て、胡乱げに視線を上下させる。

「あー……その肩に抱いてるのは誰?お兄さんの恋人?」
「こ、恋人じゃ、ねぇッ!!」

静雄は思わず言い返すと、青年は目を丸くした。それから担がれている臨也を眺めて勘弁してくれと手を振る。

「恋人じゃないの?気を失ってるとかなら無理だねぇ。同意のないセックスは犯…」
「へ、平和島静雄……さん!?」

青年が言いかけた時、奥の方からオーナーらしき初老の男が姿を現した。静雄の姿を目にすると、あからさまに怯えた表情になり青年の頭をがしりと掴む。そのまま深く下げさせたまま、初老の男は静雄にカードキーを手渡した。まだ受付もしてないけど、と静雄が言うが初老の男は深く顔を下げたままで会話が出来る状態ではない。

「ど、どうぞどうぞっ!ご自由にお使いください!あの、警察が来ても庇いますので!どうぞご自由に……ルームサービスも無料にさせていただきますッ!」
「そ、そうか…?じゃあ、お言葉に甘えて」

静雄は首を捻りながらも促されるままエレベーターに乗り込み、指定された部屋がある最上階へ向かう。エレベーターの扉が閉まり、初老の男は大きな溜息を吐き出す。解放されたバイトの青年は目を白黒させながら顔を上げた。

「オーナー、あれ芸能人か誰かなんですか?」
「馬鹿ッ!あいつは平和島静雄だ!言っただろ、俺が借金取りに押し掛けられてるって話…!」
「え!?あれが平和島静雄なんですか?大人しい兄さんでしたけど……もっとゴリゴリのマッチョかと思ってました」
「今日も午前中に自宅に来て……なんとかこっちのホテルに逃げて居留守したが、年が明けりゃまた来るだろうよ……あいつが顔覚えてないっぽいのが幸いだったが」

オーナーと青年はその場で震え上がり、静雄が消えていったエレベーターを見つめる。エレベーターのランプは、静雄がちょうど最上階に到着したことを示していた。


continue...




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