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※R18


「だからさ、何回言えば分かるの?俺は仕事で来てるんだってば。君に取り立ての仕事があるように俺にも情報屋の仕事があるの。シズちゃんと遊ぶためだけに池袋へ来てるんじゃないんだよ。……だから、この手離してよ。痛いんだけど」

薄い唇から棘のように険のある声が吐き出される。その言葉を聞いて、相対していた男―――平和島静雄は眉を顰めた。細い手首を掴んでいる手にほんの少し力を込めると、骨が軋む嫌な音が聴こえた。眼前の薄っぺらい笑顔が歪み、余裕が消えていく。静雄はそれを確認しながら舌打ちを零し、空いていた手でかけていたサングラスを胸ポケットに突っ込む。クリアになった視界で、憎い仇敵がこちらを睨み上げていた。

「うるせえ。手前の胡散臭い仕事なんか知ったこっちゃねえ」
「……あのさぁシズちゃん、理不尽なことばっかり言わないでくれる?俺も忙しいんだ。これ以上君に構っている時間はない」
「どうせ怪しい情報を売りつけてんだろ。人を嵌めて、それを見て楽しむような卑怯で悪趣味なお遊びを仕事とは言わねえ」
「……いい加減にしてよ」

ギラリ、と緋色の瞳が静雄を射抜いた。次の瞬間、静雄の鼻先を刃の鋭利な切っ先が掠める。気付けば臨也の手にはサバイバルナイフが握られており、身体には冷たい殺気が纏われていた。完全に臨戦態勢に入った臨也はすっと瞳を眇め、形の良い唇を器用に歪めてみせる。

「今日はえらく饒舌みたいだね、シズちゃん。でも、そろそろ黙った方がいいんじゃない?今日が君の命日になるかもしれないからさぁ」
「はッ……手前に俺が殺せるかよ。まともに傷もつけられねぇくせによぉ」
「俺のこと、あんまり舐めないでくれるかな」
「……そうか。じゃあ、その余裕も俺が崩してやるよ」

静雄の言葉に臨也の唇がニヤリと弧を描く。それを見て静雄も唇の端を吊り上げて凶悪に笑った。―――そして殺し合いの火蓋が今、切って落とされた。


×


「〜〜ッ、だから!お腹空いてたんだってば!」
「腹減ってたら人のもん勝手に食っていいのかよ!大事に残してた最後の1個だったんだぞ…!」
「知らないよ!だいたい君、名前書いてなかっただろ。いつもはでかでかと書いてるくせに」
「書く時間がなかったんだよ!」
「じゃあ自業自得だ。名前を書いていなかった君が悪い」
「あァ!?どんな暴論だよ、手前ッ!」
「あーもう、うるさいなぁ!別にいいじゃん、たかがプリン1個ぐらい。シズちゃん心狭すぎ!」

路地裏へ移動してまで続いていた喧嘩は、いつしか静雄のアパートの冷蔵庫に昨夜まであったプリンを巡るものに変遷していた。端から見れば間抜けそのものだが、当の本人達は至極真剣だ。静雄は臨也の言葉に我慢の限界を迎え、掴んでいた胸倉を強く引き寄せる。危うく額同士が激突しかける寸前で臨也は後ろに仰け反り、至近距離で静雄を睨み据えた。

「プリン1個ぐらい、だァ…?」
「あぁそうさ。たかがプリン、たかが1個じゃないか。たったそれだけで大人気なくキレるなんて、シズちゃんはなんて心が狭いんだろう!やっぱり頭は子どものままなんだねぇ。可哀想に」
「ッ、手前……ッ!」

明確に煽る言葉を浴びせさせられ、静雄の怒りは限界を突き抜ける。硬く握り締めた拳を振り上げると、それを目にした臨也が胸倉を掴んでいた静雄の手の甲をそっと撫でた。滑らかな指の腹に撫でられた瞬間、静雄はビシッと音がしそうな動きで固まってしまう。石のように硬直した静雄は振り上げた拳を振り下ろせなくなり、臨也はそんな静雄を満足そうな視線で舐め回した。

「―――暴力反対、だよ」

囁くような甘い声に静雄の鼓膜が揺らされる。甘美な響きを持って落とされた言葉に強制力があるわけではない。しかし、媚びを含んだその声に静雄はどうにも弱かった。臨也は静雄の手の甲を慈しむように何度か撫で、それからゆっくり手を離させる。ガラ空きになっていた静雄の胸にぎゅっと抱き着き、甘えるように頭を擦りつけた。

「シズちゃん、殴っちゃヤダよ……痛いのはキライ」

静雄は振り上げていた拳を下ろし、臨也の背に手を回そうとする。しかし、その瞬間―――ドンッと衝撃が静雄の背中に訪れた。遅れて、"何か"によって皮膚を刺される痛みが襲ってきた。

「―――、ッ…!」

静雄は自分の背に手を回し、痛みの正体である"何か"を手に取った。強靭な筋肉に数ミリしか刺さらなかったその"何か"は、先刻目にしたばかりのサバイバルナイフだ。

「やっぱり君は化け物だ。こんなに丹念に手入れしているナイフが数ミリしか刺さらないなんて、本当どうかしてるよ」
「……臨也ァ……」
「結局殴るのかい?痛いのはイヤだって言ったじゃないか」
「人を刺しといてよく言えるなぁッ…!?」
「シズちゃんは人じゃないからね」

怒りに震える静雄を一瞥し、臨也はさらりと言ってのけた。静雄から十分に距離を取ると、逃げようと周囲を素早く見渡した。しかしそれを容易く見逃す静雄ではない。ファーコートのフードをむんずと掴み、痩躯を壁に押し付けた。ざらりとした壁に頬を押し付けられ、臨也は不快そうに眉根を寄せる。

「やめてよ。俺、仕事があるっていったよね?」
「俺だって仕事の途中だ」
「それなら尚更、さっさと戻りなよ。田中さんに迷惑掛けたくないだろ?……あの人、俺と顔を合わせるたびに文句言ってくるんだよ。俺の知ったことじゃないのに……ねぇ、シズちゃん聞いてるの?」
「臨也くんよぉ……」
「なに」
「……話脱線させんじゃねえ……」

深く息を吐き出しながら静雄は低い声で囁いた。臨也は赤い瞳をゆっくり瞬かせ、それから呆れたように笑った。壁に押し付けられた状態で身動きもままならないというのに、その態度には余裕が現れている。

「まだプリンの話?しつこい男は嫌われるよ」
「うるせえ!手前が俺のプリンを食ったことには間違いねぇんだ」
「……食べたけど。だから何?」

開き直ったのか、臨也はへらへらと笑いながら静雄を振り返った。嘲るように浮かべられた笑みは自分が悪くないと雄弁に語っている。その笑みを目にして、ついに静雄の堪忍袋の緒が切れた。

「……ちょっと、シズちゃん何し―――、ッ!?」

突然距離を埋めてきた静雄を訝しみ、臨也は言葉を紡ぐがそれは半ばで途切れることになった。がしりと肩を掴まれたと思えば、身体を反転させられて背中から壁に強く押しつけられる。静雄としては手加減していただろうが、臨也にとっては息が詰まるほどの衝撃だった。臨也は端正な顔を苦痛に歪め、呻き声を漏らす。呼吸が止まり、衝撃に肺から空気が押し出されていった。冷や汗がこめかみを伝っていき、強かに打ち付けた背中が鈍く痛む。静雄はそんな臨也の顔を覗き込むと、細い顎に指を掛けた。痛みに呻く臨也と視線を合わせて顔を寄せ―――その唇に食らいつく。あまりにも突飛すぎる静雄の行動に、臨也は瞳をめいっぱい見開いて瞬きを繰り返す。呆然としそうになった寸前で意識を取り戻し、静雄の胸を押し返そうとした。しかし静雄の強硬な胸板に叶うわけもなく、臨也の両手はただ静雄の胸に添えられただけになってしまう。静雄はそれをどう受け取ったのか、口づけの合間にフッと笑みを零した。静雄は手を伸ばして臨也の細い腰を引き寄せる。それにより口づけはより深くなり、臨也は抵抗することも儘ならない。呼吸のために何度か唇が離されることはあれど、静雄はいつまで経っても臨也を解放しようとはしなかった。長いキスで酩酊が深まり、酸欠で臨也の視界がぼやけかける。ようやく肩を掴まれて離されたと思えば、熱い舌に上唇をぺろりと舐められて臨也の肩はびくんと跳ねた。

「ッ、…!?」
「―――……めぇ、な」
「……は?」

臨也は呆然と静雄を見上げ、小さく零された呟きを聞き返した。静雄は至極真剣な表情で臨也を見下し、口を開く。

「甘ぇな、つったんだよ。手前の唇」

サングラスを通さない鳶色の瞳が眇められ、真っ直ぐに臨也を貫いた。熱く身を焦がすような視線に晒され、臨也の顔はたちまち真っ赤に染め上がる。吐き出された台詞の甘ったるさも相乗効果となり、動揺で視線が泳いでしまう。

「シズちゃ……なに、言って……」
「なぁ、もっと味わわせろよ」
「え……ひ、あっ…!」

静雄は腰を曲げ、どぎまぎと慌てる臨也の顔を覗き込んだ。抱き込んでいた腰を更に引き寄せ、熱を帯びた吐息を耳朶に吹きかける。思わず首を竦めた臨也に笑みを浮かべながら、低い囁きを落とした。

「今朝食ったんだろ、プリン。カスタードがすげー甘い」
「ちょ、っ、待っ……ん、んぅっ……」

臨也の制止を無視して静雄は再び唇を重ね合わせる。引き結んでいた唇を割って肉厚な舌が口腔内に侵入し、奥に縮こまっていた舌が捕らえられてしまう。そのまま絡め取られ、擦り合わされれば臨也の唇からは鼻にかかった声が零れ落ちる。静雄の胸元に添えられていた臨也の手は、いつしかカマ―ベストを強く握り締めていた。静雄はそれに応えるように臨也の小さな頭を抱き込み、角度を変えて何度も唇を合わせる。歯列をなぞられ、上顎を舐め上げられ、臨也はぞくりと背筋を震わせた。徐々に力が抜けていく身体を支えきれず、臨也はずるりと壁に凭れ掛かる。それでも静雄の口づけが止まることはなく、口腔内を好き放題に荒らされた。十分に呼吸が出来ず、臨也の息は次第に上がっていく。静雄はようやくそこで臨也を解放すると、やはり最後に唇をペロリと舐めた。二人の間を銀糸が繋ぎ、やがてぷつりと切れて落ちる。

「ん……カラメルソース、か?ちょっと苦いな」
「っは、ぁ……ばか、息……くるしっ……」
「音を上げんのはまだ早いぜ」
「は?」

臨也はくったりと壁に身を預けたまま荒い呼吸を繰り返し、呆然と静雄を見上げる。至近距離にある静雄の瞳には情欲の色がはっきりと浮かんでいて、どきりと鼓動が高鳴った。臨也はそれを誤魔化すように静雄から視線を逸らす。しかし、焦れた静雄に腕を掴まれて顔色を変えた。じたばたと暴れるが、静雄に捕まって逃げられるわけがない。

「離してよッ…!」
「暴れんじゃねえ。観念しろ」
「これから仕事が―――」
「行かせるわけねーだろ。大体、そんな顔で取引先に行けるのかよ?」

笑みを含んだ声で揶揄され、臨也の頬にカッと朱が差す。反論の余地を失った隙にぐいと腕を引っ張られ、臨也はたたらを踏みながら歩き出した。前を歩く静雄の背中を見上げ、臨也の胸の奥は切なく疼く。口や態度では拒絶しながらも、こうして強引に迫られると求められているという実感がある。悪い気分がしない自覚は多分にあり、そんな自分に嫌気が差した。

「臨也」
「……何?離してくれる気になった?」
「あー……まぁ、その……プリン食われたのは腹立つけどよぉ」
「……?」

少し歯切れの悪い静雄の言葉に臨也は首を傾げた。振り返った静雄はぴたりと足を止めると、臨也をじっと見下ろす。鳶色の瞳の奥に何か不穏なものを感じ取って臨也は一歩後退るが、それよりも静雄の腕が伸びてくる方が早かった。ふわりとした浮遊感に包まれたと思えば、臨也の痩身は静雄の腕の中に収まっている。臨也は目を白黒させて暴れようとしたが、ずいっと迫ってきた静雄の顔にその動きが止まった。

「代わりにお前を食っちまうのも悪くねえな」
「―――は?」
「勝手に俺のプリンを食ったんだ。俺に食われる覚悟は出来てんだろうなぁ?」

獣のようにギラリと輝く瞳に射抜かれ、ぞわりと背筋が震える。静雄が歩き出したことにより身体が不安定に揺れ、臨也は慌てて太い首に腕を回す。それによって身体がより密着する結果となり、臨也は無意識下の自分の行動に頬が熱くなるのを感じた。静雄はどこか楽しげに喉を鳴らして笑う。

「手前はそうやって大人しくしてりゃいいんだよ」
「ど、どこ行くつもり…?」
「決まってんだろ。手前を食える場所だ」


×


静雄に連れられて到着したのはすっかり行きつけになってしまった池袋のラブホテルだった。手慣れた様子で無人受付を済ませると、静雄は臨也をエレベーターに引き摺り込んだ。狭い箱の中でも我慢できないとばかりに繰り返しキスをされる。フロアに到着すると静雄は唇を離して舌打ちを零し、臨也の腰を抱いて歩き出した。臨也はすっかり静雄のされるがままで、息を乱しながら部屋へと踏み入れる。

「シズちゃん、せめてシャワー…」
「待てねえ。味が変わっちまうだろうが」

臨也の懇願を無慈悲にも斬り捨て、静雄は痩身をダブルベッドに押し倒した。受け身を取る間もなく転がされてしまうが、柔らかなマットレスは臨也の身体を優しく受け止めた。身を起こす隙など与えずに静雄はその上に覆い被さってくる。乱暴な扱いに抗議しようとした臨也だったが、静雄に腕を押さえ付けられてそれも叶わない。

「諦めて俺に食われろよ」

甘く低い囁き声を耳に吹き込まれ、臨也の肌がぞくりと粟立つ。血に飢えた肉食獣のようなぎらついた瞳に見据えられ、身体が動かなくなった。静雄が顔を寄せてくると、スプリングがギシリと軋む。その音を合図にするように、臨也は目蓋を閉じた。唇に柔らかな感触が落とされる。熱い舌が侵入してくるのを受け入れながら、臨也は隠せない期待感に胸を高鳴らせた。

「……んっ、ぅ……ふ、ぁ……」
「甘い、な」

静雄はひとしきり熱い口腔内を蹂躙し、名残惜しげに顔を離した。薄い胸を激しく上下させている臨也を見下ろすと、満足げな笑みを浮かべる。それから腰に手を差し入れ、臨也のファーコートを脱がした。空調が効き始めていたので寒さを感じることはなかったが、外気に晒されて反射的に肌が粟立つ。臨也は落ち着かなく視線を彷徨わせ、それから静雄を見上げた。静雄は自分のリボンタイを抜き取ったところで、今度はカマ―ベストを脱ごうとしている。しかしボタンが上手く外せないのか、焦れたように舌打ちを零す。

「っ、クソ」

臨也はそれをぼんやりと眺めていたが、やがて手を伸ばしてボタンに触れた。静雄は動かしていた手を止めて瞠目し、臨也の行動を静かに見守る。細い指先は一度も止まることなく器用にボタンを外していく。全てのボタンを外し終えても臨也は視線を落としている。耳朶がほんのりと赤らんでいることに気付いて、静雄は熱い手の平でその頬に触れた。

「臨也……」

濡れた声で名を囁き呼ばれ、臨也はぎゅっと目を瞑った。陶磁のように滑らかな肌の感触を楽しむように撫でられ、それから顎を持ち上げられる。否が応でも視線が合う形になり、臨也は羞恥に頬を赤らめた。何度情交を重ねても始まる直前のむずがゆい雰囲気には慣れない。甘ったるい空気が苦手な臨也の視線は自然と逸れそうになる。しかし、それを逃さないというように静雄は唇を重ねた。先程よりも性急に舌を差し入れ、臨也のそれと絡め合わせる。

「ん、んっ……は、ぁふ……ぅ、んっ…」

静かな部屋に淫猥な水音が響く。臨也は太い首に縋りつくように両腕を回し、静雄からの口づけに応えた。静雄が時折漏らす吐息だけで期待感が高まっていき、身体の奥に熱が溜まっていく。やがて静雄の手がインナーシャツをめくり上げ、素肌の上を撫でるように這い回る。脇腹や臍、肋骨といった薄い皮膚の部分を撫ぜられるたび、臨也はビクビクと肩を震わせた。直接的な刺激はまだ与えられていないというのに、積もっていく熱だけでどうにかなってしまいそうだ。そのうちインナーシャツを脱がされ、ベルトに手を掛けられる。カチャカチャと金具が外されたと思えば、ズボンごと下着を引き下ろされてしまった。緩やかな反応を示していた性器が晒されて臨也の頬は火照る。

「や、っ……シズちゃん、電気消して」
「あァ?なんでだよ。この方がよく見えていいじゃねえか」
「だから嫌なんだってば…!」

臨也は哀願したが静雄は聞く耳を持たない。喉を鳴らしてククッと笑い、自身のシャツを手早く脱ぎ捨てた。それからサイドテーブルに置いてあるローションを手に取り、手の平の上に垂らす。体温で温めたローションを指に纏わせ、臨也の後孔に触れた。くるくると円を描くように指先でなぞられ、臨也は熱い吐息を零した。ローションの滑りを借りて人差し指が飲み込まれていく。強い締め付けに静雄は眉根を寄せたが、やがて探るようにぐるりと内部を掻き混ぜる。中を解すように抜き挿しされると、知らず知らずのうちに腰が揺れてしまう。臨也は腕で顔を覆い、声が漏れないように必死に耐えた。

「こら、隠すんじゃねえよ」
「あっ……ぃ、やっ……あ、ァ、ああっ……ん、はっ…」

しかし静雄はそれを許さなかった。臨也の腕を退けさせて顔を覗き込み、次第に抽挿を速めていく。臨也の唇からは堪えきれない嬌声が零れ落ち、静雄は満足そうに唇を歪めて笑う。

「そうだ。もっと聞かせろよ」
「や、ぁっ……!」

二本目の指を挿入され、圧迫感が増して呼吸が苦しくなる。静雄の指は的確に臨也が感じるところを攻め立ててきた。臨也は快楽を逃すため爪先に力を込めたが、シーツを握って耐えようとする努力は虚しく空回る。静雄が三本目の指を挿入すると同時に、臨也は呆気なく達してしまった。

「あ―――、ッ!」
「……随分と早いな」

荒い呼気を繰り返している臨也を見下ろしながら、精液で汚れた薄い腹に飛び散った白濁を掬う。指先に付着したそれを見せつけるように赤い舌でベロリと舐め取り、眉根を寄せる。

「にげぇ」
「あ……あたり、まえ、でしょ……っ」
「お前のなら甘そうなのにな……知ってるか?果物食うと甘くなるらしいぞ」
「そんなの……どうせ、デマに決まってる……っ、信じるなんて馬鹿の―――ッ、あ、ぁ…!」

臨也の言葉を遮り、静雄は挿入したままの指をぐちゅりと動かす。達したばかりで敏感になっている内壁は小刻みに痙攣しており、火傷してしまいそうな熱を孕んでいる。臨也は内壁を押し広げるような動きをする指の感覚に背中を仰け反らせた。静雄の長い指は奥まで突き入れられ、すぐに引き抜かれてはまた奥を責めてくる。それを何度も繰り返されるうちに、臨也の中がじわりと疼きはじめた。もっと大きな質量を求めて肉筒が収縮し、もどかしさから臨也の腰が揺れる。静雄はそれに気付いているはずなのにまだ挿入しようとはせず、ナカを押し拡げるように指を開いた。入り口がくぱりと広がり、真っ赤な肉襞が覗く。奥からどろりとした液体が溢れ出し、シーツに染みを作っていく。

「エロ……」

それを見た静雄は低い声でぼそりと呟く。臨也はカッと顔を真っ赤に染め、わなわなと唇を震わせた。反射的に足を閉じようとしたが、すかさず足首を掴まれてしまう。じたばたと暴れる臨也を易々と抑えつけ、嫌がる臨也を無視して静雄はそこを観察しはじめた。すっかり潤みきった後孔は熱い視線を感じてひくひくと収縮する。ひどく淫蕩な光景に静雄は舌なめずりをし、さらに熱い視線を向けた。

「ぁ……シズちゃ、ッ、嫌ぁ……み、見ないでっ…」

臨也は声にならない声を上げて暴れるが、その全てを静雄は軽々と抑え込む。それどころか開いた指を入口でぐるりと回したり、顔を寄せて熱い息を吹きかけてきた。その度に後孔はひくひくと震え、涎のように透明な蜜を垂らす。静雄は溢れ出した粘液を指で掬い上げて後孔に塗り込め、再び抽挿を開始した。指の動きは内部を広げるためではなく、臨也を追い詰めるために動いている。激しすぎる抜き差しに臨也は息も絶え絶えになり、上擦った悲鳴を上げた。込み上げる快感を逃そうと頭を振れば、シーツに黒い髪が触れるたびにパサパサと音が鳴り、目の縁からはいつの間にか涙が零れている。

「や、やだ……もう、やめて……やッ…!」
「ヤダヤダって手前はガキかよ」
「は、ぁ……ん、んぅっ……」
「あー……泣いてんのか。可愛いな…」

静雄は臨也の顔を覗き込み、額や頬に触れるだけのキスの雨を降らせる。すっかり感じ入っている臨也はそんな些細な刺激にも過剰なほど反応し、一度も触られていない性器からトロトロと白濁混じりの蜜を溢れさせた。蕩けたキャンディーのように潤んだ赤い瞳がいじらしく静雄を見上げる。薄い唇が僅かに開かれ、涎と汗で湿ったそこが掠れた声で言葉を紡いだ。

「し、ずちゃん……」

辿々しい声がどこか舌っ足らずに静雄の名を呼ぶ。涙を湛えた瞳は健気なほど真っ直ぐに静雄を見つめていた。静雄はごくりと音を立てて唾を嚥下し、臨也の後孔から挿入していた指を抜き去った。ガチャガチャと忙しなく音を立ててベルトを外し、僅かな手間も惜しむようにズボンと一緒に下着をずり下げる。勢いよく飛び出した静雄の性器は今にもはちきれそうなほど勃起している。臨也はそれを目の当たりにし、これから与えられる快感を予期して身体の奥が疼くのを感じた。頭上に静雄の影が落ち、距離が近くなる。ギラギラと輝く静雄の瞳から視線が逸らせなくなり、期待感で心臓の鼓動がドクドクと速まっていく。

「……挿れるぞ」

静雄は低く呟き、臨也の両膝の裏に手を入れて持ち上げる。そのまま両足を大きく割り開かれれば臨也の腰は自然と上がり、まるで自ら強請っているような体勢になった。羞恥で顔に熱が集中するのを感じたが、臨也の視線が静雄から逸らされることはない。頭の中で鳴り響く自分の鼓動の騒がしさに気が狂ってしまいそうだった。何かを破くビリッという音が聞こえ、熱塊が後孔に押し当てられる。その正体を察し、一際大きく心臓がドクンと跳ね上がった。何度身体を重ねても挿入の瞬間は緊張してしまう。自然と身が固くした臨也の緊張が伝わったのか、静雄は宥めるように臨也の額に口付けた。

「臨也」
「な……に、…」
「痛くしねぇから」

甘さを帯びた声で囁かれ、臨也はこくりと小さく首肯する。ゆっくり息を吐き出すと、手を伸ばして静雄の頬に触れた。少し荒れた頬を指の腹で確かめるように撫で、鳶色の瞳を静かに見つめる。静雄は満足そうに微笑み、腰を押し出すように進めた。ぐちゅ、と熟れた果実を押し潰すような淫靡な水音が響く。臨也は耳を覆いたくなるのをぐっと堪え、力が入りそうになる肩から意識して力を抜いた。隘路を押し開くようにして入り込んでくる剛直にしなやかな背中が仰け反る。全身が総毛立ち、びりびりした甘い痺れが駆け抜けていく。圧倒的な質量が体内に埋められていく苦しさに呼吸を忘れ、はく、と口を開閉させた。

「ひ、……あ、ァっ……」
「、ッ…!」

静雄は食い縛った歯の間から熱い吐息を零し、腰の動きを一旦止めた。臨也は圧迫感を紛らわそうと静雄の頬から首へ手を滑らせる。静雄は大きく息を吐きながら上半身を屈めた。臨也はそれによって静雄の首に手を回せるようになり、ぎゅっと抱き着く。静雄の吐息が胸元にかかるとくすぐったく、臨也の身体からは自然と力が抜ける。それに加え、密着したことにより静雄の性器は更に奥へと入り込んだ。内壁は反射的に性器を強く締め付け、静雄はぐっと息を詰める。しばらくじっとしていると内部の締め付けは緩んでいき、静雄はそれを見計らってゆっくり性器を引き抜く。ようやく馴染みはじめた肉襞をこそげるような感覚に、臨也の背筋を電流が駆け抜ける。

「ひゃ、あ……ぁ、…ッん…!」

強すぎる快楽を堪えようと臨也は唇を噛み締めるが、さざ波のように襲いくるそれから逃れることは叶わない。浅い部分まで引き抜かれた性器が再び突き入れられ、その衝撃に甲高い悲鳴が上がる。反射的に逃げを打った身体を静雄は容赦なく押さえ込み、何度も挿入を繰り返す。

「臨也、逃げ、んなッ…!」
「あっ、ア……! ん…っふ、ぅ……ァ、あッ…」

圧迫感を強く感じていたはずの身体は、次第に快感を強く享受するように変化していた。最初は浅くゆっくりだった抽挿は、徐々に深く速くなっていく。薄紅色の唇からは甘ったるい嬌声がとめどなく零れる。理性はどろりと蕩けていき、臨也は静雄に与えられる悦楽を素直に追いかけはじめた。

「っ、ふ…ぅ、んん……は、ァ……っ」

静雄によって大きく開かれた脚は、いつしかだらしなく開かれたままになっている。律動に合わせて、淡く慎ましい色の性器と細い脚が揺れる光景はひどく淫猥だ。プライドの高い臨也を組み敷いているという事実は充足感となり、静雄の胸を満たしていく。紅潮している臨也の顔は汗や唾液ですっかり濡れていて、しかしその美貌を損なうどころか匂い立つほどの色気を醸し出していた。臨也は浅い呼吸を何度も繰り返し、ぼやけた視界の中に静雄の姿を捉える。静雄は満足げに笑みを零し、臨也の唇に自らの唇を重ねた。ただでさえ酸素が不足している状況で唇を奪われた臨也は、頭の芯がぼうっと浮かされる感覚の中で静雄に応える。力が入らなくなっている舌をジュッと吸われ、鋭い歯を立てられればビクリと肩が跳ねてしまう。

「 ん……っは、ぁ……」
「やっぱり甘いんだよな、お前の唇」
「ぁ、まくなんか……な、っ…気の、せいだよ……ふ、ぅ…」
「……臨也……」

耳元で名前を呼ばれ、臨也の肌がぞわりと粟立つ。名前を呼ばれるだけで快感に繋がってしまう。ようやく唇を離されたと思えば、静雄は力の入っていない臨也の脚を高く抱え上げた。腰が浮き上がったことで体勢が不安定になり、臨也は荒い呼吸を繰り返しながら不安げに視線を上げる。静雄は臨也の視線を受けて唇をニヤリと吊り上げると、挿入していた性器を一気に引き抜いた。突き入れられる時よりも引き抜かれる時の快感の方が強く、臨也は言葉にならない快楽の奔流に身悶える。抜け出てしまうのではないかというほど抜かれた性器に、内壁の締め付けは追い縋るように強くなった。静雄はギリッと音がするほど歯を食い締め、狭くなった内部を抉るように思いきり性器を突き入れる。バチュン!と聞くに堪えないほど大きな水音が室内に響き渡り、強すぎる衝撃に臨也は引き攣った悲鳴を上げた。

「あ〜〜〜、ッ!は……ァ、っ……ふ、…っ…」

静雄の腰と臨也の腹が密着し、硬い腹筋に擦られた臨也の性器からどぷりと白濁液が溢れる。一度も手で触られることなく絶頂に達し、臨也の性器は壊れた蛇口のようにとぷとぷと精液を垂れ流した。静雄はそれを目にしても手加減することなく激しい律動を繰り返し、臨也は達した性器を擦られるという強烈な悦楽に目を白黒させるほかない。頭の中ではバチバチと火花が弾け、前後不覚になったように意識が酩酊していく。

「は、あっ…ぁ、アッ……お、っ…!」
「あー、やっべ……めちゃくちゃ気持ちい……腰持ってかれそ」

静雄は深く息を吐き出しながら、最奥に擦りつけるように腰をグラインドさせる。臨也は声にならない声を上げて脚を伸ばし、爪先をピンと引き攣らせた。内壁は痛いほどに静雄の性器をぎゅうぎゅうと締め付けてくる。絞られるような感覚を必死に堪え、静雄は無心で抽挿を繰り返した。少しでも気を抜けば達してしまいそうで、意識して下腹部に力を込める。どこを責めれば感じるのか、どうすれば乱れるか、静雄には手に取るように分かった。感じやすい箇所ばかりを狙って突けば、臨也は絶頂へと押し上げられていく。

「ア、ぁあッ……!も……無理…っ、だめ、に、なっちゃ…、うっ……」
「なっちまえばいいだろ」
「ゃ、やだ……ッ、は、恥ずかし……ぃ、からぁ…!」
「―――強情な奴」

静雄はボソリと呟き、再び性器をギリギリまで引き抜く。臨也は何をされるのかすぐに理解したようで、必死に手を伸ばして静雄の腕を掴もうとした。しかしそれは容易に振り払われてしまい、静雄を制止するには至らない。追い縋るように締め付けてくる内壁に強く歯を食い縛り、静雄は思いきり腰を打ち付ける。

「アーーー、…ッ!?」

限界を訴える間もなく臨也は呆気なく達した。静雄の性器が最奥に入り込んだ瞬間、痛いほど張り詰めた臨也の性器から押し出されるように精液が飛び散る。中にある静雄の性器をきつく食い絞め、静雄は苦しそうに眉根を寄せた。低い呻き声とともに胎内の性器が一際大きく膨張し、ドクンと脈打つ。その感覚にすら反応を示してしまうほど敏感になった隘路へ、薄いゴム越しに夥しい量の精液が流し込まれてくる。ゴムが破れてしまうのではないかというほどの勢いで射精される液体をつぶさに感じ取り、臨也は声にならない声を上げて身体を震わせた。

「は、ぁ……っ……」

長い時間を掛けてようやく全てを出し終えた後、静雄はゆっくりと身を起こした。そして未だ絶頂の最中にある臨也を見下ろす。半開きになった唇からは荒い呼吸音だけが漏れており、閉じることを忘れた瞳はぼんやりと虚空を見つめている。全身は小刻みに痙攣しており、時折思い出したかのように背筋が反った。静雄は装着していたゴムを外し、中身が零れないように口を結んでゴミ箱に放る。臨也の精液を拭ってやるか迷ったが、おそらく風呂に連れて行った方が早いだろう。静雄は自分の呼吸が落ち着くと、まだ少し苦しげな臨也の顔を覗き込んだ。焦点が定まっていなかった瞳がゆらりと揺れ、静雄と視線を合わせる。静雄はそのまま臨也に覆い被さり、啄むような軽い口づけを繰り返した。

「……もう甘くなくなっちまったな」
「そりゃ、そうでしょ」

静雄の言葉に、臨也は呆れ混じりに溜め息を吐いた。それでも静雄は満足したらしく、最後にもう一度軽くキスをしてから身を離す。伸ばされた逞しい腕に引き寄せられるままに身を預け、臨也は薄く微笑んだ。

「もう機嫌は直った?」
「……まぁな」
「シズちゃん、こういう時びっくりするほどしつこいよね」
「食べ物の恨みは怖いって言うだろ。そもそも勝手に食う手前が悪い」
「君だって名前書いてなかっただろ」
「書いてなかったら食っていいわけでもねえだろ」
「あーはいはい、ごめん。これでいい?」

臨也は適当に相槌を打ちながら身体を捻る。静雄と向き合った状態で抱きつき、厚い胸板に頬を押し当てた。汗ばんだ肌を通して伝わってくる鼓動の音を聞きながら、そっと目を閉じる。

「プリンなら新しいのを買ってあげるよ。君が食べたこともないような高級なやつをさ」
「……それだと、"アレ"できないだろ」

思考が纏まらない脳では呟かれた代名詞の指すものが理解できず、臨也は眉を顰める。

「……プッチン」

静雄は少し逡巡した後にそう一言だけ口にし、臨也はそれを聞いて噴き出した。

「あははっ!確かにそれは、出来ないかもね…っ」
「笑うな」

腹を抱えて笑う臨也の反応を横目で見て、静雄はバツの悪そうな顔になる。子どもっぽいことを言っている自覚があるのか、少し恥ずかしそうに目を逸らした。臨也はひとしきり笑い終わり、笑みを浮かべたまま静雄の髪に指を差し入れる。度重なる脱色ですっかり痛んだ髪を優しく梳き、猫のように目を細めた。

「分かったよ。プッチン出来るやつね」
「……馬鹿にしてるだろ」
「してないよ。君があんまり可愛いこと言うからびっくりしたんだ」

臨也の言葉を疑うように静雄は眉間に深い皺を寄せる。あからさまに疑念を向けられていることに苦笑し、臨也は静雄の頬を指で突いた。少し硬い皮膚の弾力を楽しむように何度も突いていると、煩わしくなったのか静雄はその手を押し退ける。臨也はそんな静雄をじっと見つめ、言い聞かせるように囁く。まるで幼いきょうだいに言い含めるような喋り方に、静雄は形容し難い気持ちになった。デジャヴのような感覚に陥り、そうして思い出したのは高校時代に双子の妹たちと居るのを初めて見た時の記憶だ。

「そんな拗ねた顔しないで。君もちゃんと名前を書くこと、いいね?」
「……おう」

自分も兄であるはずなのに、臨也に諭されると何も言えなくなってしまう。むず痒さに似た感覚を覚えながら静雄が頷くと、臨也はどこか満足げに微笑んだ。静雄はそっと臨也に口づけ、瞳を閉じる。ささくれ立っていた気持ちはすっかり落ち着いていて、妙に晴れやかな気持ちだった。キスの合間に目蓋を持ち上げれば、臨也の頬は僅かに赤らんでいる。大事なものには名前を書いておく―――それは、きょうだいが居る二人にとって幼少期から当たり前に存在したルールだ。しかし、それはものだけに限定されるものではないのかもしれない。長いキスが終わり、しつこいと言いたげに臨也が静雄を見上げてくる。それを見下ろしながら、静雄はゆっくり唇を開いた。

「―――名前、書いといた方がいいかもな」
「え、何……プリンに…?」
「いや、手前に」

静雄の言葉を理解するより早く臨也の唇が塞がれた。臨也には静雄の言う甘さは感じられない。しかし、この空間に流れる空気の甘ったるさは否定しきれなかった。臨也はキスを受け入れながら呆れたような笑みを零す。

「馬鹿じゃないの」

―――手のかかる恋人ほど可愛いものはない。


end.




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