聖夜のサプライズ

※クリスマス


キラキラと輝く煌びやかなイルミネーション。見上げると首が痛くなるほど大きなクリスマスツリー。ショーケースに並んだ美しいデコレーションが施されたケーキ。12月下旬の煌びやかな街は、私たちを誘惑するもので溢れ返っている。

「うっわぁ…!綺麗だね、クル姉!」
「肯(そうだね)」
「クリスマスの前ってさ、街がびっくりするくらいにキラッキラしてて、鮮やかで、綺麗で……ワクワクしちゃう!私ほんとクリスマス大好きっ!あ、もしかして今の私ってリア充ってやつかな!?それとも陽キャ!?ジメジメしたところにばっかりいる黴の生えそうなイザ兄は死んでもなれないやつだよね!」
「肯(そうだね)」
「あーんクル姉っ!そっけない返事しないでよ、私寂し……いだだだっ!私のほっぺた抓らないで―――クル姉?どうしたの?」
「黙…此…見(黙って…これ見て)」
「ふぇ?」

誠に遺憾ではあるものの柔らかな頬を抓られたまま、私はクル姉の細い指が示した先に視線を移す。ケーキ屋さんのショーケースの上にある、茶色いバスケット。その中に並んでいるのは、赤と緑と白の三色―――所謂トリコロールカラーのリボンがあしらわれた、クリスマスブーツだった。真っ赤なブーツは空洞になっていて、クッキーやチョコレート、キャンディーなどのお菓子がこれでもかというほど詰め込まれている。容器はブーツ以外にも雪だるまや星、ハートを模した物もあった。

「うわ、かわいいーっ!えっなになに、クル姉ってばこれが欲しいの?」
「違(そうじゃない)」
「違うの?じゃあ何?」
「此…見…思…?(これ見て…思い出さない…?)」
「え?」
「昔…兄…(昔…臨也兄さんが…)」
「―――あっ!」

首を傾げるクル姉の瞳は懐かしそうに細められている。その瞳を見て、私の中に遠い記憶が蘇った。ひどく懐かしく、あたたかい思い出だ。

「思…?(思い出した…?)」
「うんっ!まだ私たちが幼稚園の頃にイザ兄が買ってくれたやつだよね!」
「肯(うん)」
「懐かしいー!幼稚園の迎えに来てくれたイザ兄におねだりしたんだよね」
「兄…困…(臨也兄さん…困ってた…)」
「そうそう、すっごい困ってた!」

顔を見合わせて、クル姉と私はクスクスと笑う。もうずいぶんと昔のことだというのに、鮮明に思い出せるイザ兄の困った顔。意地でもこれが欲しいとねだる私たちに、イザ兄は自分のお小遣いで買ってくれた。中学生の少ないお小遣いをはたいて1個ずつ、2個も。

「本当に……懐かしいね……」
「肯…(うん…)」

クリスマスブーツを抱き締めて大喜びする私たちにイザ兄は苦笑しながら、しゃがんでマフラーを巻いてくれた。「風邪ひくぞ」という声はぶっきらぼうなのに優しくて。両手に私たちの手を握って、雪が降り始めた道をゆっくり歩いてくれたっけ。

「―――ねぇクル姉、これからイザ兄のとこ行っちゃおうよ!」
「何…?(どうして…?)」
「どうせイザ兄のことだからクリスマスも仕事入れてるか独りでしょ?これとケーキ買って押しかけちゃおう!」
「……肯(……うん)」
「よーしっ!お姉さん、この雪だるまとブッシュ・ド・ノエルくださーい!あ、メッセージカードも2枚お願いします!」


(ばばーん!突撃!イザ兄の家!)
(来……兄……)
(なっ……何しに来たんだお前ら!)
(独りで惨めなクリスマスを過ごしているお兄様にプレゼントの配達でっす!)
(プレゼント…?どうせまた如何わしい玩具でも持ってきたんだろ)
(違うよー!ひっどいなぁイザ兄は)
(違……信……)
(うるさい!どうでもいいからさっさと帰れ)
(あっれー?イザ兄、そんなこと言っちゃっていいの?その豪華な高級オードブル、1人で食べれるのかなー?)
(ぐっ……よ、余裕に決まってんだろ)
(嘘……)



end.




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