眩しい朝に君とシーツに包まって笑っていた

※帝人誕


午前七時。帝人は眠い目を擦りながら、ゆっくりと寝床から起き上がった。喧しく鳴り響いていた目覚まし時計を止め、大きなあくびをひとつ。しばらく頭の中がぼうっとしていたが、頭を振って纏わりつく眠気を振り払う。それから布団を丁寧に畳み、押入れへと仕舞う。帝人の身長では少々背伸びをしないと布団を片付けられないのが難点だ。

「ねむ……」

呟きながらもう一度あくびをする。少し厚めの靴下を履き、帝人は廊下へ出た。ひんやりした冷気に包まれて軽く身震いをする。顔を洗うために洗面所へ向かうが、その短い距離でうっかり転びそうになった。洗面所の戸棚から新しいタオルを取り出し、冷たい水道水で顔を洗う。冷たい水で強制的に目が覚め、やっと意識がはっきりしてきた。タオルで水気を拭き取り、しばらく柔らかい感触に顔を埋める。ふんわりと香る柔軟剤は数日前に変えたばかりだが、帝人は気に入っていた。廊下を通って台所へ向かい、テーブルの上に置いている籠から食パンの袋を取る。開封して1枚の食パンを取り出すと、トースターにセットしてつまみを捻った。

「よし、っと」

戸棚からインスタントコーヒーを取り出して粉をカップに入れ、7分目までポットの湯を注ぐ。冷蔵庫から取り出した牛乳を少しだけ加えて、カップをレンジに入れた。1分間加熱すれば十分に温まり、帝人は熱々のそれを立ったまま一口だけ啜る。冷えていた身体が僅かに温まり、ほっとする。帝人は小さめのフライパンをコンロに置いて弱火にかけ、そこへバターを落とした。少しずつ溶けていくバターから甘い香りが漂いはじめ、帝人は軽く目を細める。冷蔵庫から取り出した卵を慎重に両手で割り、卵の横にベーコンを2枚引く。ぱちぱちと弾ける音が聞こえはじめ、蓋を閉める。ちょうど焼き上がったトーストを皿に乗せ、帝人はカフェオレを飲みながらベーコンエッグの焼き上がりを待つ。数分経って蓋を開けてみると、ベーコンは香ばしく焼き上がり、卵はいい塩梅に半熟になっていた。塩胡椒を振ってコンロの火を消し、木べらで周囲を浮かしながらフライパンを傾けて食パンの上にベーコンエッグを滑らせる。テーブルを拭いて皿とカップをテーブルに運んだ。食べようと椅子を引いたところで、帝人は新聞を取り忘れていることに気が付く。肌寒さを堪えながら再び廊下を歩き、玄関へと向かう。郵便受けから新聞を抜き取ると、新聞の間から白い何かがひらりと落ちてきた。

「…?これ、なんだろう」

帝人は首を傾げつつ、床に落ちてしまったそれを拾い上げる。よく見ればそれは真っ白な封筒で、裏を返すとセロハンテープで封がしてあった。帝人は見るからに怪しいそれを見て逡巡したが、封筒を破らないようにセロハンテープを剥がして開封する。封筒の中を覗き込むと、3枚の紙が入っていた。2枚はつるりとした小さめの紙で、鮮やかなカラー印刷が施されている。帝人が指先で摘んで引っ張り出すと、見覚えのある店名が大きく印字されている。

「露西亜寿司の食事券…?」

もう一枚の残っていた紙は少し触り心地の悪いメモ用紙だった。中央には走り書きのような文字が短く記載されている。『誕生日おめでとう』その短い文章を目にし、帝人は瞳を大きく見開いた。既視感のある独特な筆跡は、今は池袋から遠く離れた地にいる親友のものだったからだ。メモ用紙の右下には、小さくだが『正臣』とも記載されている。帝人は、一瞬だけ泣きそうに表情を歪め―――それから安堵を含んだ微笑みを浮かべた。

「ばかだなぁ、正臣ったら」

零した声は今にも消え入りそうに掠れていて、俯いた肩は小さく震えていた。帝人はしばらく黙り込んでいたが、やがてゆっくりと顔を上げて微笑を浮かべる。その表情にはもう悲哀は感じられない。廊下を戻り、テーブルの上に新聞と封筒を置く。一番上に置いたメモ用紙を眺めながら、少し冷めてしまったカフェオレを啜った。照り出した太陽に照らされながら帝人はトーストにかぶりつく。卵の優しい味とベーコンの香ばしい味が口腔内に広がる。あっという間に平らげてしまい、カフェオレを飲んでいると携帯が震える音が響いた。メールの着信を知らせる音に手を拭いて立ち上がり、帝人は携帯を拾い上げる。メールの送信相手は杏里で、思わず帝人は上擦った声を上げてしまう。焦りながら文面に目を通すと、珍しく杏里から遊びの誘いだった。帝人は慌ててリビングへ戻り―――テーブルの上から露西亜寿司の食事券を手に取る。誂えたように2枚用意されたその券を眺め、自然と苦笑が漏れた。きっと正臣にはこんなことも予想済みだったのだろう。幼馴染のお節介にはもう慣れきっていた。ありがとう、小さく心中で呟いて帝人は目を伏せる。それから大きく深呼吸をして指先に力を込めた。想いを寄せる彼女へ、承諾の返事をするために。


end.



title by moss




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