砂時計







貴方には、聞こえますか。







砂 時 計





砂時計の砂が落ちてゆきます。

さらさらと。



「土方さん」



もっと。

貴方の傍に居たかった。

貴方の声を聞きたかった。

貴方の笑顔が見たかった。

貴方の優しさに触れていたかった。

もっともっと。

ただ、傍に。

もう、それさえも叶わないのですね。

無理なのですね。

きっと、夢でしかないのですね。

もうただの儚くて脆い夢でしかないのですね。





私を抱き締めて下さい。その腕で。

せめて優しい響きの声とともに。

それさえ駄目ならば桜散る中で。





あぁ、砂時計の砂が落ちてゆく。

時間は、流れてゆくのですね。

止められはしないのですね。

どんなに永遠を願っても、時間は流れて。

それでも、祈りと、想いだけは取り残して去ってゆくなんて。



あぁ、人間とは愚かなものですね。

悲しいからと言って泣いても 結局は忘れられないのですか。

楽しいからといって笑っても 結局は忘れてしまうのですか。

言って下さい。

大切なものを忘れることと 大切なものに忘れられること。

果たしてどちらが辛いのでしょうか。

大切なものを裏切ることと 大切なものに裏切られること。

果たしてどちらが悲しいのでしょうか。

貴方は言うでしょう。

私の、想う通りの答えを。

ならば、最期に。

大切なものを置いてゆくことと 大切なものに置いてゆかれること。

果たしてどちらが苦しいのでしょうか……。





...聞こえますか。





砂時計の砂が落ちてゆく音が聞こえます。

この砂は、流れゆく時間ですか。

それとも。

もうすぐ消えゆくだろう私の…?

聞こえるはずのない音は、少しずつ大きくなって近付いて来る。

もう、私には止める術さえ分からなくて。

あとは、全て落ち切るのを待つのみですか。

貴方さえも失くして。



まだ私の身体は貴方の腕の温かさを覚えているのに。



何故でしょう。

記憶はこんなにも鮮やかで。

もう戻れはしないと言うのに。



…還りたいと。



貴方へ。



まだ私の身体は貴方の腕の温かさを覚えているから。





それすら忘れてしまう前に。

ゆっくりと瞳を閉じて。





還りましょう。

貴方の腕の中に。





「土方さん」





----------貴方には、

聞こえましたか。













土沖








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