すき
怖い夢を見たときは、どうしても。
いつも以上に貴方に甘えたくなるんです。
す き 「…総司」
土方は、軽くため息を吐いてコトリと筆を置いた。
そして自分の隣に座って机を覗き込んでいる総司に瞳をやる。
「何です?」
にこにこと見上げてくる総司に、もう一度ため息をひとつ。
「なんです、じゃねぇ。オイ総司、俺は今何をしてる?」
「お仕事、ですね」
「分かってんじゃねぇか。そんなに見られるとな、やりにくいったらありゃしねぇんだよ」
そう言うと、総司は軽く頬を膨れさせて見せる。
「…構ってくれないんですか?」
「俺は忙しいんだ」
俯く総司。黒い髪が、さらりと流れてその表情を隠してしまった。
「だって土方さん…桜が綺麗なんです」
今日私は非番だから…と小さく呟いて。
「……」
黙ったまま、土方は総司を見つめる。
------------随分と今日は甘えてきやがるな。そう、思いながら。
「…今は無理だ」
言葉少なく、そう告げた。
総司は、顔を上げて土方を見つめる。
「…そうですよね、ごめんなさい土方さん。邪魔しちゃいました」
微笑いながらそう言って、土方の隣から総司が立とうと腰を浮かした--------瞬間。
土方の腕が総司の腰に伸びてそれを邪魔する。
「…土方さん?」
首を傾げて、総司はそのまま止まった。
一瞬の沈黙。
「総司」
土方が、口を開く。
「今は、と言ったろうが」
そう言って、総司の方を見た。
総司は大きな瞳を更に丸くして、土方を見上げる。
そして、土方が言う言葉の意味を理解して、微笑んだ。
「土方さん…」
「いいからここでおとなしく待ってな」
土方は笑うと、筆を持って目の前の書面に流暢に筆を走らせる。
------------つくづく俺はコイツに甘い、と思いながら。
頬に、苦笑が滲んで。
総司は、黙ってそんな土方の横顔を微笑みながら見つめていた。
「土方さん」
名を呼ばれて、土方は一瞬手を止めて総司の方に顔を向けた。
土方の両頬を総司の掌がそっと包んで、そのまま軽く口付けられる。
驚いて総司を見ると、総司はちょっと照れたように微笑って見せて。
「ごめんなさい、おとなしく待ってろって言われたのに」
「…いや、こう言う類のは悪かねぇな」
土方はそう言うと笑って総司の髪の毛に指を滑らせる。
「土方さんったら…」
苦笑する総司の肩に手を回し、無抵抗な身体を引き寄せて耳元でわざと低く囁いた。
「------------もう一度してくれよ」
「…もう…」
忙しいんじゃなかったんですか。
また苦笑してから、総司は土方の首に柔らかく腕を絡めてもう一度口付けた。
桜を、見に行きましょう。
独りで桜を見上げている夢を見ました。
怖いほどに、綺麗な桜でした。
周りには誰も居なくて、泣きたくなるほどの静かさなんです。
土方さん、貴方さえ居なくて。
------------夢で、良かった
「土方さん」
「…あぁ?」
貴方がここに居てくれる。
それだけで、こんなに私は幸せ
「…あのね」
...大好き。
終
土沖