やまない雨





この雨は、

降り止むことを知らずに。













やまない











雨の日は嫌い。



じめじめしていて、ただでさえも思うように言うことを聞かない身体がいつもに増して更に重く感じてしまうから。

その身体を床に就かせると、考えたくないようなことばかりが頭をよぎるから。









「……」



布団に横になる私のすぐ横に、貴方の身体がある。

大人しく寝ているかと、部屋を訪ねてくれて、暫くの間他愛も無い話をした。

そんな何気ない貴方の優しさと、貴方と過ごす時間の一時が愛しくて。

湧き上がる幸せを、噛み締めていたら貴方はすぅ、と眠りについた。

...まるで存在を確かめるように触れ合った手を、握り締めたまま。





少しだけやつれたように感じるその頬をそっと指で撫でて、額にかかる前髪をそっと掻き上げる。









「…辛いですか、--------土方さん…」





この手の温もりが、私の心を安らげる。

あぁ、傍に居るのだと。



この手の温もりが、私の心を波立てる。

あぁ、離れたくないのだと。





「…私は、……へいき」



平気なはずなど、有りはしないのに。

強がることに、もうこんなにも慣れてしまって。





慣れた、はずなのに。



...囁いた声は、震えていた…。















雨の日は、嫌いだった。





けれど、今は。



この雨のおかげでこうして、貴方を傍に繋ぎ止めておけるから。



この雨が、止まなければいい。

貴方が、私の傍に居てくれらたいい。



貴方は、こんな私にもまだ優しいから。

まだ、傍に居ても良いのかと。

心は葛藤するけれど。

傍に居たい。



傍に、居たい。

貴方の傍に。



貴方と、居たい。



この身体が、最期の呼吸を吐き出すまで。



…許されるならば。



この身体が、温かさを失う刻まで。



離さないで居て欲しい。





足手纏いになるのは嫌。

その前に、この呼吸を止めてしまえたら良い。



その時は、きっと もう遠くは無いけれど。



あと少し。



あと、少し。





少しだけで良いから。



時間を、下さい。



私に。



...そして、愛しい彼に。











私がいつか消えて、あの人がそれを静かに受け止めてくれるようになるまでの時間を下さい。













思い上がりですか。







貴方を遺して逝くことが、私は恐ろしいのです。

忘れられてしまうことが恐いのではなくて。









私の死が、貴方にどうか安らかに、穏やかに届きますように。

貴方は貴方のままで、前へ歩み続けてくれますように。



出来ることなら、心の片隅にでも私の影を遺して。







いつか こうして離れることが



私と 貴方の さだめだったのでしょうか。





誰にでも、別れはいつか来るものだけど。



…でも。



愛しているのに。

こんなに愛しているのに。



別れは容赦なくやってきて、二人を引き裂いて。







あまりに、時間の流れは早すぎて。

あまりに、時間の残りは少なすぎて。





どんなに足掻いても、時を止められないのなら。

私は、その時までに 貴方に何が出来るでしょう。









「土方、さん」







愛しているから。

別れが、辛くないはずもなく。







いつか、貴方に聞きましたね。





遺すものと、遺されるものと、果たしてどちらが辛いのかと。







あぁ、解っている。





解っているから、私は生きたいと望むのだ。

解っているから、貴方は生きろと願うのだ。











--------叶わないと解っていながら、人は何故それでも祈るのか。





まるで、己の想いを確かめるかのように。

祈って。願って。



…そして。





その先には、何があるのでしょう。

僅かな希望は、見えるのでしょうか。



私と、貴方の歩む先に。







貴方の歩む道が、どうか光に溢れますように









優しく降る雨音が、耳に優しい。

二人の間を流れる時も、今この瞬間だけは優しくて。



もう少しこのまま、貴方の眠りを守りたい。

こうして、誰よりも傍に居て。

この温もりを、いつでも覚えておけるように。







「…好きです…」



土方さん。

貴方が好き。

貴方のことが好き。



土方さん。







土方さん。





貴方の寝顔が、穏やかであることが今の私の唯一の救い。









あぁ、雨よ。

もう少し、このまま。

優しく穏やかに、降り続けるが良い。

大地を濡らして、そして。

渇き切ってしまいそうな私の心も、濡らしてしまえば良い。

ゆっくり、ゆっくりと。



流すことを忘れた、この人の涙の分まで降り続けて、彼の心を癒して欲しい。



静かに、静かに。





どうか、今だけはやまないで。























土沖








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